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10.盗賊に支配された町、ミル~最悪の町2~

 さてロウエルに外に出るなと言われた俺であったが、今日は半月、右半分は俺を監視するロウエルかもしれないが、左半分は居眠りしてるロゼリーだ。

 だからつまり俺は宿屋からそっと出て、夜賑わうミルの町へ飛び込んだ。

 荒くれが殴り合いをしていても関係ない。薬中が全裸で寝ていてもどうってことない。血塗れと糞まみれの何かが横たわっていても、酒の灯りが掻き消してくれる。その賑やか、不吉な路地裏のせいか、より輝いて見える。

 だからさっきから服を引っ張るミアだって関係――


 「あるわ!」

 「え? ないですよ?」

 「なんでいるんだよ!」

 「なんでって? そんなの~聞かれても~」

 「観光だろ」

 「なわけが~あっ、見てください! あのハンマーの像、凄いですよ!」

 「あれは像じゃない。半壊した家の柱に隣りのぶっ壊れた家の柱がちょうど乗っかってるだけだ」

 「え? 暗くてわかんないですよ?」


 俺はどうとでもなる。どうとでもなる気はもちろんないが、事件に巻き込まれても逃げ切るつもりであるが、ミアは違う。ロアマト? の姫だ。とんでもない重要人物だ。ミアが事件に巻き込まれると外交問題になる。仮にそうならなくてもミアが外にいる、俺が傍にいる。うん、俺が遊びに誘ったと思われる。そうなるとマリアンナに殺される。軽く。


 「ミア、宿に戻ろう」

 「え?」

 「子供は寝る時間だ」

 「そうですか? シユウがそう言うなら――?」

 「まぁもちろん、ミアを置いたら一人で酒場に行くが」

 「むっ、だったら戻らない」

 「あれ、漏れてた? いいだろ、ミアは帰るんだよ」

 「なんで、一人だけずるい!」


 駄々をこねるミアと格闘していると、バタンとぶつかった。おっと、財布がポッケから落ちそうだった。財布が汚れるところだった。歩道汚すぎるから。

 ぶつかってきたのは子供だ。十歳くらいの男の子だ。「あ、あ、ごめんなさい!」とすぐに去っていった。


 「こんな時間に子供が?」不思議がるミア。

 「いや、ミアもだろ」

 「――おい! おこちゃまが、こんな時間になにしてんだかなぁ!!」


 恫喝が俺の背中を引き裂こうとした。絡まれた。ぞわっとしたものが一気に足元から首までのぼって震えが止まらなくなると、どうしよう、どうしようと俺は怖くてたまらなくなって吐きそうだった。

 そう慌てていると、「おい、無視してんじゃねえ!」とさらなる怒号が襲ってきた。どうしようもなくなって、とにかく俺は振り返った――いない? 向こうだった。

  月の弧が翻ったような猛々しい声が反響してきた。道のそこ、すぐである。俺とあまり年齢が変わらない、身なりの整った若者が痩せこけた古布の酔っ払い六人と言い争っていた。

 

 「退け」

 「あぁ? てめぇ、もういっぺん言ってみろ?」

 「ならばもう一回だけ言ってやろう。退け。俺が通る」

 「ふぉ?? わかってないようだな――坊ちゃんよぉ!」


 比較的気分の良かった男らが突如に皴立っていく。ここでやるつもりだ。若者、長い棒を持っている? 棒の青年を囲った――そして背後から一人、殴りかかった。

 

 すらっと。


 しかし棒の青年はまるで後ろに目があったのか、棒を払ってその男を転ばせた。


 「お前みたいな卑怯な野郎は道端の糞を喰っているのがお似合いだ」

 「てめぇ!!」


 ナイフ、月光を弾く。野郎共はなりふり構わず棒の青年へ襲い掛かった。青年は不敵な笑みのまま、またすらりと躱した。


――すると棒を地面に立てて、一言、


 「スティック・バン!」


 青年を中心にまるでカンフー映画の雑魚みたいに野郎どもは吹っ飛んだ。あれって魔法使い? いや、魔法使いってなんだよ。


 「いやぁ、皆さん、そんな熱烈な視線くれちゃってさ~、やっぱり治安悪いねぇ~! かかってこいよ~、蹴散らしてやんよ!!」


 とんでもなく好戦的なアイツはいったい何者なのか。周りで武器を構えていた頭巾らは後ずさりした。


 「なんだよ。つまんねえの。まぁいいさ、じゃあそのまま見ておけよ。ヒーローの参上をっ!!」


 棒の青年は自信満々に肩を揺らしながら薄暗い通りを歩いていった――その前にさっきの子供が立ち塞がって、何か言いたそうにしたものの、青年は「退け」とあしらった。

 青年の姿が遠退くと、そこにいた男らは裏路地に姿を消した。嫌な風が吹きそうだ。


 「ひーろーさんじょう?」

 「ヒーロー、参上。いや、大した意味なんて無いだろうし、どうでもいいや。酒場行くか」

 「え、そうですね。行きましょう! 地元の人と交流です!!」

 「俺はしないぞ」

 「私はするぞぉ~!」


 もう早くしないとロウエルが帰ってくるかもしれないからミアも連れて行くことにした。陽気すぎるだろミア。


――と店の前までやってきたものの怖くなってきた。甘ったるいものを吹かす溜まり場がそこに。「へっへっへ」と俺とミアを笑っている。コンビニの前にいる不良にしては頬が痩せこけすぎていて気味が悪い。

 だから今日はやめておくかと回れ右したら


 「えーい!」


 とミアが押してきて、中に入ってしまった。

 

 しーん。


 湧いていた声が、酒の息が、全て俺とミアに集まった。さっそく居心地が悪い。けれどもさっそく「シユウ、ここ空いてるよ!」とミアはカウンターど真ん中に座ってしまった。

 なんかもう、これは――飲むしかないな。


 「店主、ハチミツ酒を一つ!」

 「あいよ」


 わっはっはと後ろがまた賑やかになった。「ハチミツ酒とかやっぱりガキじゃねえか!」とか「お子様は寝る時間だぜ」だとか「カップルが来る場所じゃないぜ~」なども。ミアがペロッゴクッと店主から貰った牛乳を飲んでいるところ、俺は容赦なく馬鹿にされた怒りに身を任せた。


 「やっぱり無しだ、店主。ウイスキー。ウイスキーだ!!」

 「あいあいよ」


 ところがさらに後ろは五月蠅くなるだけだった。というのも俺がすぐに三回くらい吐いたからだ。ミアが「ロウエルから酔い覚ましの聖術教えてもらえばよかった」と俺の背中を摩ってくれるが、それがさらに「カップルがぁ~来る場所じゃないぜ~♪」と野郎どもを踊らせてしまった。俺は早々に酒のつまみになってしまった。


 「まぁまぁそんな笑わなくたっていいじゃねえか」


 バタン――店に入ってきた野太い声が下賤を掻っ切った。

 誰だ誰だ。と酔っ払い共が酒を濯ぐ。

 身長百八十五センチ、ボトボトしたズボン、縞模様のタンクトップ、中にシャツを着ている、それが筋肉で張り裂けんばかりに膨らんでいる、それから丸太のごとく太い首、キリッとした坊主頭スポーツカット、顎髭――ふらっと、余裕の笑みを浮かべている。

 見るからにこの町の住人ではない。ゆえに酒が凍るほどに空気はピリついていた。ここの人間でないのに態度の大きい野郎が、酒瓶を投的武器へと変えたのだ。


 「舐めてんじゃねえぞ、よそ者が!」


 されど漢は飛んできたそれを指先で掴むとすぐ投げ返した。それが酔っ払いの頭にぶつかり転ぶと、他の酔っ払いの酒が零れ、


 「やろう!」


 とそいつがカッとなって――後ろは大乱闘になった。

 漢はそれにまるで興味なく、俺の隣へ座ると勝手に俺のウイスキーをゴクゴクと飲みながら


 「じゃあ店主、俺はウォッカで」


 だと。俺のウイスキー……。

 ゲトッと俺が漢を睨むのも、ミアが「どうせ吐くからいいじゃん」とそっけなく背中をなぞるのでどうしようもなくなった。

 まぁそれだけならいい――が、漢がそんな俺を「わっはっは! たしかにそりゃ笑いものだ!」と指差して笑いだしたから、イライラしてきた。さっきよりも。こいつが一番、性格が悪そうだ。


 「返せよ!」

 「おっと、こんな酒は子供には早いさ。お嬢ちゃんとジュースでも飲んでな」

 「子ども扱いするなって! どいつもこいつも……」

 「え、シユウ、オレンジジュース美味しいですよ? これなら吐きませんし」優しいのか鬼畜なのかわからんミアの天然。

 「わっはっは!! まぁウイスキーより俺はウォッカ派なんだがなぁ~……あれ?」

 「奇遇だな。俺も――そうなんだよ!!」


 俺は禿のウォッカを奪い取ると一気飲みした。宣戦布告だ。この調子に乗った禿を俺が飲み負かす。


 「ふーん。いい度胸だな。いいだろう、受けて立つぜ!!」


 そうして俺とこの漢の間で酒飲み対決が繰り広げられた。俺がウォッカを、漢はウイスキーをとにかく飲みまくる。後ろで争っていた酔っ払い共もこっちに気づいて「やれやれ!」とか「ガキに100ゴールド!」など盛り上がり始めた。

 それも――


 「うぇえええ……」

 「五回目だな? まだやんのか?」

 「決まってんだろ!」

 「これ以上酒を無駄にすんじゃねえ!」


 といったように店主が怒鳴ると終わりを告げた。

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