かくや姫
帝都歴から玉峰24年。
帝国の片隅に、ぼろやのギルドマスターとよばれるおじいさんが住んでいました。
おじいさんはギルドを経営していて、手数料でほそぼそと暮らしています。
ある日のこと。
おじいさんはダンジョンの入り口で、魔力に包まれたアイリスを見つけました。不思議に思って採ってみると、その花はちいさくてかわいい女の子になりました。
おじいさんは「きっとこの子は精霊様がさずけてくれたにちがいない」と、ギルドへつれてかえりました。
おばあさんもおおよろこび、子どものいないふたりは、その子にアイリスの名前を名づけ、大切にそだてることに決めました。
それからふしぎなことがつづきます。
冒険者がアイリスに納品しようとするのです。
そのふしぎな出来事を確かめようと冒険者も増え、ギルドは大きくなりました。
ちいさなアイリスもみるみるうちに成長し、とてもうつくしいむすめになりました。
アイリスのうわさはとおくまで広まり、たくさんの冒険者が納品するためギルドへ向かいます。
しかし、アイリスはすがたをみせません。
窓口業務に興味がなかったのです。
それでもあきらめない、屈強な冒険者がいました。
アイリスはしかたなく冒険者にいいました。
「綺麗なルナの花を見つけたら、その納品を受付しましょう」
冒険者は月夜に咲くという伝説の花を求め、霊峰までたどりつき、ドラゴンと死闘を繰り広げなんとか手に入れました。やっとの思いで納品した男に言います。
「花弁に欠けがあるじゃない。擦り傷、返り血。私が言ったのは綺麗なルナの花」
泣き崩れる冒険者から納品されることに愉悦を覚えたアイリスはそれから冒険者の納品を受け入れ始めました。
冒険者は今日もせっせと納品いたします。
冒険者にちやほやされて囲まれていたアイリスを見ていつしかアイリスはこう呼ばれていました。
――かくや姫だったと。