表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、ヅラ魔法でざまぁする~リターン~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

一発逆転

 ヴィンは私の肩を抱くと、広間に戻った。

 広間では混乱が収まらないまま、でも料理が出され、新郎新婦はひな壇に着席していた。新郎は鼻毛ぼうぼうのまま、新婦は落ちそうになるヅラをショールで結わきながら。


「……あれがケイト、君の彼らへの復讐ですか?」


「復讐ではなく、禊です。これで彼らとは決別するつもりで……」


「ケイトは……優しいですね」


 微笑んだヴィンが別人過ぎて、なんだかいまだあの地味令息なのかと、不思議な気持ちになる。


 ひな壇に到着したヴィンと私を見て、新郎新婦……ランジェロとスティアナが、目を丸くしていた。ランジェロが目配せすると、警備員が駆け寄ろうとしたが。


「静粛に」


 ヴィンが、信じられないほど大きなよく通る声で一声発すると。

 披露宴会場は、一瞬でシンとした。

 警備員でさえ、動きを止める。すかさずヴィンが話を続ける。


「僕はヴィンセント・ニコラス・ウィザード、この国の第一皇子。これがその証です」


 ヴィンが首からペンダントを取り出した。

 それは皇族の紋章が刻まれた黄金のアミュレット。

 その効果たるやてきめんで、水戸黄門の印籠のようで、その場にいた全員が席から立ち上がり、「第一皇子殿下に、ご挨拶申し上げます」と女性はカーテシー、男性は胸に手を当て挨拶をした。


 もうこの場にいた全員が、パニック寸前だと思う。

 私だって腰が抜けそうだ。


 この国の第一皇子は、子供の頃、誘拐未遂を経験している。よって十八歳になるまで、公務は控えめにすると発表されていた。以後、彼の姿絵なども出回ることがなく、第一皇子は謎のベールに包まれていたのだ。だからみんな、ヴィンセント第一皇子と名乗るまで、彼が何者であるか分かっていなかった。


 しかし、今のこの状況は……。


 新郎は突如鼻毛ぼうぼうで、新婦は今の挨拶でヅラが落ちた。

 そしてそこに突然、この国の第一皇子、さらには新郎の元婚約者の逃亡犯が現れたのだ。


 完全に、意味不明で、カオスだ。


 真面目な顔で、突然現れた皇族にみんな挨拶をしたが、頭の中は、大混乱だろう。この状態で、ヴィン……ヴィンセント第一皇子は、さらなる燃料投下をしようとしている……。


「今日、僕がここに来たのは、ランジェロ・ジャック・エールとスティアナ・マレットに決闘裁判を申し込むためです」


 ランジェロは、鼻毛ぼうぼうの顔を真っ青にした。落ちたヅラを、ブライズメイドが必死に頭にのせようとしていたが、スティアナは顔面蒼白で固まっている。招待客は「決闘裁判」という言葉に震撼していた。


「ここにいるケイト・マリー・エメリックは、スティアナ・マレットの毒殺未遂の罪を問われましたが、彼女は無罪。マレット男爵令嬢は、僕が栽培した新種の水色スズランを口にして、具合が悪くなったと証言をしましたが、それは偽証です。なぜなら、毒殺に使われた水色スズランという新種には、毒がありません。無毒化をすることで、水色スズランは誕生したのです。逆に言えば、毒があっては、水色スズランにはなりません!」


 これにはもう会場は大騒ぎとなる。スティアナはブライズメイドの手をはたき、ヅラを諦め、顔を引きつらせていた。そしてもはやヴィンセント第一皇子を、直視することできないでいる。


「再現した水色スズランの用意もできています。皇都警備隊の証拠保管室で保管されているスズランと成分を分析しても、一致するはずです」


 スティアナの顔は無表情に変わる。これはもう、完全に観念した顔だと思う。


「さらにエメリック令嬢が、自身の屋敷に仕える従者と不適切な関係を持とうとしたと、エール氏が指摘し、従者は証言したようですが。彼は僕と面談し、『エール氏から金を渡され、嘘をつきました』と告白してくれました」


 今度はランジェロの鼻毛ぼうぼうの顔が、蒼白になった。これまた自分がやったことを暴かれ、フリーズしている状態。


「これらの証拠に基づき、決闘裁判を申し込むつもりですが、これをランジェロ・ジャック・エールとスティアナ・マレットは受けますか?」


 ランジェロとスティアナは当然だが、首をぶんぶんと振った。


「言葉でハッキリ言っていただかないと、分かりません」


 あくまで冷たくヴィンセント第一皇子が言い放つと、ランジェロが小声で「け、決闘裁判を受けることはできません」と答える。


「聞こえないです」とヴィンセント第一皇子。

「決闘裁判を受けることはできません!!」やけくそ気味にランジェロが怒鳴ると、エール伯爵が動いた。鼻毛ぼうぼうのランジェロを殴り飛ばし、エール伯爵がひれ伏した。


「お許しください、ヴィンセント第一皇子殿下。この馬鹿息子は、決闘裁判は受けず、代わりにそちらが提示する証拠がすべて正しいものと認め、どんな罰でも甘んじてうけさせていただきます」


 必死にエール伯爵は……ランジェロの父親は、ヴィンセント第一皇子の怒りを鎮めようと努力している。それなのにランジェロは、こんなことを言い出した。


「ち、父上! 僕はスティアナにそそのかされただけです。非がない相手との婚約を破棄し、大金を失わず、家名を保つには、浮気をでっちあげるしかないと、言われたのです! この悪魔のような女、スティアナに!」


「ヒドイわ! 婚約者がいるくせに、私に色目を使ったのはランジェロでしょう! 渡り廊下の時だって、ケイトを突き飛ばしたのはランジェロなのに! 急に嘘をつきだしたから、あわせてあげたのに。あなたを助けるために、私は嘘をついたのよ! それなのに……」


 スティアナがうわぁっと大声を上げ、泣き出した。これには双方の親族が色めき立ち、ランジェロの顔は青ざめる。ランジェロの父親が「この大馬鹿もの!」と、今度は彼を平手打ちし、再度床に額をこすりつけ、ひれ伏す。ランジェロの母親も飛び出し、同じようにひれ伏した。


「この痴れ者の言葉は無視いただいて構いません! どうか、どうかご慈悲を! 決闘裁判だけはお許しください!」


 ランジェロの両親が、ヴィンセント第一皇子に懇願する。


 決闘裁判は、被告側に「受ける」「受けない」の選択肢がある。「受けない」を選択する=敗訴同然に扱われた。今回であれば、偽証を従者に強要したことや私の名誉を傷つけたことを認め、先の裁判で手に入れたお金の返金、各種賠償など……エール伯爵家が傾くぐらいの多大な出費を行い、かつ名誉が失墜した上で、ランジェロにはなんらかの刑が言い渡されることになる。


「分かりました。『決闘裁判は受けない』、今の言葉に二言はないですね?」


「ございません!」


 ヴィンセント第一皇子に対し、ランジェロの父親……エール伯爵はさらに深くひれ伏した。


「ではもう一人。マレット令嬢、あなたは決闘裁判を受けますか?」


 今度はスティアナに、ヴィンセント第一皇子が鋭い視線を向けた。

 嗚咽していたスティアナは「わ、私は、この男に」と、ランジェロに騙された悲劇の令嬢を演じようとするが、ヴィンセント第一皇子は冷徹に彼女を突き放す。


「決闘裁判を受けるのか、受けないのか。それ以外の返答は、一切求めていません」


 完全に取り付く島もない厳しい声音に、スティアナの嗚咽も止まる。ここで余計な言い訳を並べれば、それこそヴィンセント第一皇子の逆鱗に触れるのでは――そんな空気が漂った。


「……う、受けません!」


「では私が提示する証拠を正しいと受け止め、罪を認めるのですね?」


「……はい」


 もう、そうするしかないだろう。スティアナもまた、偽証、名誉棄損、ランジェロとの共謀など複数の罪に問われることになる。


 これで終わりかと思ったら!


「僕が品種改良した水色スズランに毒があると、まさに僕への冒涜とも言える言葉を、マレット令嬢、あなたはしましたよね?」


 これにはアマレット男爵夫妻が飛び出してきて、エール伯爵夫妻の隣でひれ伏すことになる。


「で、殿下、どうか、どうか、寛大な御心で、ふ、不敬罪に問うことだけはーーーーーっ」


 震える声でアマレット男爵が懇願した。


 不敬罪。


 そうね。確かに。あの水色スズランを貶める発言は、イコールそれを生み出したヴィンセント第一皇子自体をも、貶めることになる。この乙女ゲームの世界では、不敬罪=死刑だった。


 とはいえ。悪役令嬢だったら、いくらでも断頭台送りにされる。だがさすがにヒロインは、そうならないだろう。


 そう思い、チラリとヴィンセント第一皇子を見ると……。


「僕に不敬罪を問うことを、止めろとおっしゃりたいのですか?」


 凍りのような一言に、ついにスティアナも席を立ち、両親の横で「申し訳ございません」とひれ伏した。


 その様子を見たヴィンセント第一皇子は「やれやれ」という顔になる。


「……今日は祝いの席です。よって不敬罪で問うことは止めておきましょう。ただし。言葉には気を付けてください、マレット令嬢」


 そこでヴィンセント第一皇子は「皇都警備兵、二人を連行しろ」と命じる。するとカシャカシャと甲冑と剣が揺れる音を響かせ、沢山の皇都警備隊の兵士が広間に入って来た。これには驚き、小声で彼に尋ねてしまう。


「で、殿下。結婚披露宴の最中ですよ。せめて連行は、終わってからでも……」


「ケイト、君は寛容過ぎます。卒業式に、君はこの二人のせいで参加できなかったのですよ。社会へ出る前の最後の盛大な儀式なのに。プロムにだって出席できなかったのです」


 そう言われると、そうだった。


 こうしてランジェロとスティアナは連行され、ヴィンセント第一皇子と私は、披露宴会場を出ることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一番星キラリ作品をご紹介】
●元祖・ヅラ魔法●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢、ヅラ魔法でざまぁする【読者様の声を反映:改訂版】
『悪役令嬢、ヅラ魔法でざまぁする【読者様の声を反映:改訂版】』はサクッと読める全5話!

●あるがままの私で参りますわ!●
わたくし悪役令嬢ですから
『わたくし悪役令嬢ですから』

●出版社特設サイトはコチラ●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!
80ページが試し読みできる特設サイトへ
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!』


●コミカライズ化も決定●
バナークリックORタップで書報ページへ
断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない
ノベライズは発売中!電子書籍限定書き下ろし付き
『断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない』


●心温まる読み切り全12話●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は我が道を行く~婚約破棄と断罪回避は成功です~
『完結●悪役令嬢は我が道を行く~婚約破棄と断罪回避は成功です~』は勿論ハッピーエンド!

●[四半期]推理(文芸)3位●
バナークリックORタップで目次ページ
悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~
『悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~』

●溺愛は求めていませんよ?●
バナークリックORタップで目次ページ
平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!
『平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!』

●これぞ究極のざまぁ!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は死ぬことにした
250万PV突破『悪役令嬢は死ぬことにした』

●壮大なざまぁを仕掛けます!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』

●商業化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

●終わりから始まるハッピーエンド●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢の決断
『悪役令嬢の決断』

●隙間時間でサクサク読める●
バナークリックORタップで目次ページ
愛のない結婚から溺愛を手に入れる方法
『愛のない結婚から溺愛を手に入れる方法』

●食に敏感、恋に鈍感●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は異世界でラーメン屋台を始めることにした
『悪役令嬢は異世界でラーメン屋台を始めることにした』

●おじいさんと魔女!?●
バナークリックORタップで目次ページ
森でおじいさんを拾った魔女です~ここからどうやって溺愛展開に!?
『森でおじいさんを拾った魔女です~ここからどうやって溺愛展開に!?』

●第2回ドリコムメディア大賞●
●最終選考作●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪終了後に悪役令嬢・ヒロインだったと気づきました!詰んだ後から始まる逆転劇
『【完結】断罪終了後に悪役令嬢・ヒロインだったと気づきました!詰んだ後から始まる逆転劇』は断罪終了後シリーズ第二弾!

●さくっと読める全6話●
バナークリックORタップで目次ページ
浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は華麗なざまぁを披露する~フィクションではありません~
『完結●浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は華麗なざまぁを披露する~フィクションではありません~』断罪の場で自ら婚約破棄宣告シリーズ第四弾。

●読み切り新作全4話●
バナークリックORタップで目次ページ
ざまぁと断罪回避に成功した悪役令嬢は婚約破棄でスカッとする~結局何もしていません~
『完結●ざまぁと断罪回避に成功した悪役令嬢は婚約破棄でスカッとする~結局何もしていません~』はサクッと読めます!

●手軽に読める全5話●
バナークリックORタップで目次ページ
ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~
『完結●ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~』は、読者様への感謝を込め、急遽公開!

●全7話読み切り●
バナークリックORタップで目次ページ
隣国の年下王太子は未亡人王妃に恋をする
『完結●隣国の年下王太子は未亡人王妃に恋をする』は、仰天歳の差純愛!

●断罪終了後シリーズ●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?
『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』断罪終了後シリーズ第一弾。本家本元!

●断罪終了後シリーズ●
バナークリックORタップで目次ページ
完結●断罪終了後に覚醒した悪役令嬢、殿下の女性慣れの練習相手に?
『完結●断罪終了後に覚醒した悪役令嬢、殿下の女性慣れの練習相手に?』断罪終了後シリーズ第三弾!

●断罪終了後シリーズ●
バナークリックORタップで目次ページ
バナークリックORタップで目次ページ
もふもふ悪役令嬢の断罪が溺愛ルートなんて設定していません!バナー
『完結●もふもふ悪役令嬢の断罪が溺愛ルートなんて設定していません!』
断罪終了後シリーズ第四弾!

●全8話読み切り●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄の悪役令嬢、断罪回避に成功!しかし~これ、何エンドですか!?~
『婚約破棄の悪役令嬢、断罪回避に成功!しかし~これ、何エンドですか!?~』は雑草魂で断罪回避!

●読者様の声に答え続編公開●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~
読者様の声に応え『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~』続編公開&完結

●一番星キラリ代表作●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた
『完結●断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』もぜひお楽しみください☆

●毎日更新の最新作●
バナークリックORタップで目次ページ
聖女ではありませんでしたが、聖騎士様に溺愛されそうです
『聖女ではありませんでしたが、聖騎士様に溺愛されそうです』
もお楽しみください!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ