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魔法を発動!

 季節は巡り、三か月が経ち、雪が散らく季節になっている。


「ううっ、今日は冷えるねぇ。仕方ない。今日は温風魔法を全開だよ」


 いつものグレーのローブのフードを被った姿で、ルアンヌが家に戻って来た。

 ルアンヌが手に持っている籠には、沢山のリンゴとワインのボトルが入っている。


「このリンゴはどうしたのですか?」


 夕ご飯の支度をしながら、ワイン色のワンピース姿の私が尋ねると、ルアンヌは籠をキッチンのテーブルに置きながら答える。


「ああ、これはさ、街道沿いの宿場町で果樹園をやっている奴がいるんだよ。毎年この季節になると、森でとれる木の実と物々交換してさ。あたしはこれで焼きリンゴを作るんだよ。たっぷりのバターと贅沢に砂糖を使ってさ。美味しいんだよ。ケイト、お前さんが結婚式から戻ったら、お祝いも兼ねて食べさせてあげるよ」


「そうなのですね。それは楽しみです。ありがとうございます」


 そう、いよいよ。

 私のみそぎの日は、明日だ。


 明日、ランジェロとスティアナの結婚式が行われる。

 挙式は近親者のみで、披露宴は大々的に行う。招待状なんてないが、それでも問題はなかった。私は鼻毛魔法とヅラ魔法に加え、変身魔法や転移魔法など、いくつかの魔法を取得していたのだ。


 披露宴で二つの魔法を行使し、禊を行うことで、もう一つの幸せの道が切り拓かれるとルアンヌは言っていたけれど……。一体、どんな道なのかしら?


 そんなことを思いながら、夕食を終え、入浴を終えて、ベッドへ潜り込む。


「ミャァ」


 ルアンヌの使い魔のニュイがやって来た。

 この子は私によく懐いてくれて、寒い季節になってからは一緒に寝ることが多い。


「おいで、ニュイ」

「ミャ」


 朝になるといつの間にか姿を消しているけど、寝る時にニュイがいてくれるととても暖かい。何より生き物と触れ合うことで、気持ちが和む。


 こうして眠りについて、そして朝を迎える。


 決戦の金曜日だ。


 見た目は変身魔法でどうとでもなるので、いつも通り、ラズベリー色のワンピースを着て、ルアンヌとお揃いのグレーのローブをまとう。ウールで出てきている上に、魔法がかかっているので、着るだけでぽかぽかだ。それでも風が吹けば顔にあたり、寒さは感じるのだけど。


「ではルアンヌさん、行ってきます」


 リビングルームのテーブルで、タロットカードを切っているルアンヌに声をかけると、こう言ってくれた。


「ああ、行っておいで。ケイト。今、お前さんを占ったら『THE WORLD』のカードが出た。これはさ、すべての準備が整った、完璧な状態を意味している。つまりケイトの禊の準備は整ったということさ。大丈夫。必ず成功するよ」


 このルアンヌの言葉には、とても励まされる。

 ルアンヌの魔法の指導はかなりスパルタだった。しかも今回の禊で、一切の手助けはしないと宣言もしている。つまり、すべての決着は自分でつけなければならない。例え何が起きたとしても。それがけじめであり、私の禊。


 不安がない――わけではなかった。竹を割ったようなさっぱりした性格と言われる私でも、すべてをからっとは割り切れない。


 でも今のルアンヌのアドバイスで「やれる」と太鼓判を押された気分だ。

 こうして私は転移魔法を使い、ランジェロとスティアナの披露宴会場へ、瞬時に移動した。


 ◇


 ランジェロとスティアナの結婚披露宴の会場は贅を尽くしていた。


 ランジェロは私との婚約破棄で、慰謝料に加え、違約金まで手に入れていたのだ。そのおかげで会場には、氷でできた二人の彫像が飾られ、冬にも関わらず、生花が散りばめられていた。


 私はモブAにしか見えないような地味な姿に変身し、壁紙そっくりの淡いラベンダー色のドレスを着て、しれっと披露宴の席に腰をおろす。会場には元学友が沢山いて、その姿を見ただけで、なんだか心臓がドキドキしていた。


 変身魔法で別人になっているから、私がケイトであるとはバレない。


 それでもやはり、緊張する。


 披露宴開始まで五分という時間に入場してよかった。そこから十分後、遂に披露宴が始まってくれた。私からせしめたお金でめいっぱいウェディングドレスにもお金をかけたであろうヒロイン、欲しい子ちゃんのスティアナ。自分をモテ男であると認識し、地味令嬢のケイトを嫌っていた元婚約者のランジェロ。盛大な拍手と共に二人が入場した時、私は魔法を詠唱する。


「鼻毛魔法、発動!」


「ヅラ魔法、発動!」


 鼻毛ぼうぼうの新郎。ヅラを必死に被ろうとする新婦。


 ランジェロは自分の鼻毛に気づき、必死で抜こうとして悶絶している。スティアナは落ちているヅラが自分の髪の毛であると認識し、悲鳴をあげ、崩れ落ちた。そこにブライズメイドが駆け寄る。


 二人の姿に親族は嘆き、友人は同情する者と爆笑する者で、その反応は真っ二つ。披露宴を進行するスタッフは、これが余興とでも思っているのか、粛々とテーブルへ料理を運び出している。


 まさに混沌とした地獄絵図となっている。


 よし。禊は完了。帰るわよ。


 いきなり席で転移魔法は使えない。

 この混乱に乗じて広間を出て、人のいない所で転移魔法を使うつもりだった。

 席を立ち、こっそり扉を開け、廊下に出たまさにその瞬間。


 腕を掴まれ、驚いて振り返ることになる。


 まさか、私が鼻毛魔法とヅラ魔法を使ったことがバレた……のだろうか……!?


「ケイト、だね」


 もう心臓が口から飛び出しそうな程、驚く。

 どうして、変身魔法を使っているのに!


「二年間。君のことをずっと見てきました。僕のことは誤魔化せないですよ」


 ……誰なのだろう?


 珍しいアイスブルーのサラサラとした髪。

 眉はきりっとして、藍色のくっきり二重の瞳をしている。

 なんだか知的なオーラがあり、どこかで見たことがあるような気がした。


 背が高いので、着ている紺色のテールコートがよく似合っている。


 こんな男性、一度見たら忘れないだろう。


 だが、さっぱり覚えていない。

 しかも二年間、私を見ていた……?

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