表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

母の願い

 救急車で運ばれた病院で出逢い、好きになってしまった彩斗さんの願いは、救急隊員になること。

救急救命士の国家資格を得るための勉強を大学でした後、国家試験に合格して、今は病院救命士として勤務している。いつも、更に高みを目指し、向上心を忘れない彼は素晴らしい。私も同じタイプだから、全て共感出来る。彼の次なるステップが、救急車に乗務することなのだ。その為には、地方公務員試験を突破しなければならない。その試験はかなり、厳しいと聞く。目下勉強中だが、愛していても65才の私が彼の為に出来ることはそれくらいしかない。

 私はエルちゃんに頼もうと決心する。心で強く念じれば会えると聞いている。

 早速、来てくれた彼女に彩斗さんの事を話す。

「よく分かりました。OKです」といつもの愛らしいエルスマイルを見せてくれる。

 「実はね。ミカさんのお母さんが亡くなる前に、お願いをされたの」

「どんな?」

「ミカさんが今まで経験していないことをさせてやりたいと言われたの」

そう言われて思い当たることがひとつある。

私は好きな人としか、交際も結婚もしたくなかったが、やっと出会ったそんな人に限って結果的に縁がなかった。

 だから、本当に愛されていたのか良く分らないまま、ここまで来てしまった。母にはその事を話していたから、何とかしてやりたいと思ったのだろう。

「私はお母さんのお願いを神様にお話したの。神様はお母さんの寿命を長く出来なかった代わりにと、お願いを聞いて下さったの」

「有難いことだわ。神様、エルちゃん、有難いございます」

「ミカさんが最愛の彩斗さんと巡り会ったのはお母さんの願いが叶ったからなの」私は亡くなる寸前にも娘のことを気にかけ、願いを叶えてやろうとする、母の愛情に改めて感謝した。

「だから、彩斗さんはミカさんの理想の人だったでしょう」エルちゃんは得意満面で言う。本当にその通りだ。母は私の好きなタイプをよく知っているし、きっと、彼を愛すると思ったのだ。幾つもの必然が重なって、あの夜私は彼に出会った。それだけなら、格好良い青年がいただけで終わったが、彼が私の世話をすることで、話す機会が出来た。

話し易い人でもあり、色々と話せたし、彼の人となりがある程度分かり、より好きになる。全てが良い方に向き、母の思惑どおり彼を愛した。

 今まで、''好き,,はあったが"愛している,,とは一度も思ったことはない。なぜ、彼を愛していると言えるのか。それは彼の優しさを知ったから。年齢の離れた私に、優しさを実感させてくれたから。こんなこと初めてのこと。昔、結婚まで二人で決めた人でさえ、優しさを感じたことはない。自分の思い通りにしたい人だったから、若い私は黙って合わせることが、彼への愛情だと勘違いしていたのだ。私のことを心配し、気遣い、困った時に頼れて、励ましてくれる彩斗さんに、初めて愛を感じた。それは、私が一番気にしている年齢を乗り越えて、私の想いを受け止め、理解したうえで返って来るという幸せ。

長く生きてきて初めて味わう安らぎであり、幸福感だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ