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 最愛の母が逝って3年後、65才の私は、生きる気力を失くしていた。半年前に癌が見つかり、もう、手遅れ、余命1年位と医師から告げられていた。出血がひどく極度の貧血状態が続き、一人では立ち上がれないし、手足はお相撲さんのように腫れ上がっている。独り身で、恋人も頼れる親戚も居ない。その上、助からない癌患者。この先、生きていても良いことが待っているとは思えない。現実に考えて、65才の私が、好きなタイプの若くて格好良い男前の男性と出逢える訳など全くないし、あったとしてもそれで終わる。その人を好きになるチャンスもきっかけもあるはずはないと心から思っていた。夢のまた夢の話だ。

 だから、母の後を追って早く死のうとしか考えていなかった。

 とうとう身体が悲鳴を上げ、どうしようもなく苦しくて救急車を呼ぶ。そこで信じられないことが起こる。

 運ばれた病院で出会った救急救命士の彩斗さんに私は恋をしてしまう。細身で背が高くかなりのイケメンで一目惚れだった。性格も信頼できて、誠実、ベタベタした優しさではなく、困った時には助けてくれるヒーローのような人。 

 しかし、いくら好きになっても叶うはずのない恋だ。40才も年下の若いひとにそんな想いを抱くなど、頭がおかしいとか、認知症が出ているのではないかと思われるかも知れない。それでも、毎日彼の顔を見るのが生き甲斐になり、死ぬ事を忘れ、明日も生きていたいと思うようになった。かなり危ない状態で、しんどくてアップアップしているのに、どこにそんなエネルギーがあったのか未だに不思議だ。

すべては恋の成せる業。

輸血と薬のお陰で身体は楽になり、彩斗さんに生きる気力をもらって私は退院した。

 それから、半年後。癌の転移は進み、今は24時間ケア付きのワンルームマンションに入居している。有難いことに彩斗さんとは時々メール交換している。入院中、いつあの世に行くか分からないため、彼には迷惑と知りつつ、自分の想いを告白したのだ。我ながら何と言うことをしたのかと恥ずかしいけれど、何も言わず別れるのだけはしたくなかった。言わなければ後悔すると思ったから。人生の最後が、見えているのに後悔と言う言葉だけは使いたくない。

 それに、私が告白なんかしても、彼にはそんなことにも動じず受け止める力があると思えた。その後も彩斗さんは折に触れ私を励ましてくれる。本当に優しいひとで、その度自分も見習わなければと思うし、私には勿体ない人。

 もっと若ければ、人の生死に直接関わるし、気分が悪くなるような状態の患者さんにも対処する仕事に励む彼の為に、色々出来ることがあるだろうが、65才の私には、唯、彼を理解し応援することしか出来ない。せめて、救急車に乗る救急隊員になりたいという彼の夢は叶えてあげたい。一緒に歩く事さえ憚られる。私は人の目など気にならないが、若い彼に嫌な思いはさせられないから、会ったり、一緒に歩いたり、ましてやお茶することも出来ない。人の目は気にしないが、彼の私を見る目は大いに気に掛かる。入院中は仕方ないけど、こんな年老いた姿は見せられない。

 退院して間もなく、エルちゃんの、お礼に3つの願い事を叶えると言う話を思い出す。自分以外の人の願いなら叶うと言っていたっけ。

 私は愛する彩斗さんの願いを叶えてあげたい。いつも優しくしてくれる彼の願いを。

 

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