表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/19

初めてのデート

 65才の私は天使のエルちゃんの力で22才の姿に戻って、愛する彩斗さんとお茶した。正に夢のような、あり得ないひとときはあっという間に過ぎる。帰り際、彼に「もし、良ければ今日のお礼がしたいので、明日お会いできませんか?」と聞いた。私が若くいられるのは明後日の午前0時まで。時間はない。

「構いませんが、足は大丈夫ですか?」

「大丈夫です。有り難うございます」

 私は会うことを承知してくれたことにもお礼を言い店の外に出る。

「すっかり、お時間取らせてごめんなさい」

「いえ。構いません。それより歩いても足は痛みませんか?」

「大丈夫です。ご心配頂いて有り難うございます」

彼はほっとしたように微笑む。見慣れた笑顔がすぐ目の前にある。彼は小さいバッグをごそごそしていたが、「今日は仕事が休みなので、名刺を持ってなかった」困ったように笑うと、「自己紹介が遅くなってすみません」と謝ったあと名前と勤務先を告げた。うっかりしているところも可愛い。結局、私は彼が何をしても許せるし、愛おしいと思っているらしい。私は本名は言えないので、「ユキ」と教えた。

 家に帰ると、緊張していたのか疲れが、どっと出る。  

エルちゃんは、私の好きなホットケーキを作って待っていてくれた。二人で食べながら、今日のことを報告して、

明日の作戦を練る。

「明日はフェミニンな真白いコットンのワンピースにしましょう。可愛いネックレスも付けて。靴はハイヒールにする?」とエルちゃん。長身の彩斗さんと並ぶとやはり、大人と子供位の差がある。

 本当に若い頃も背が低いことが最大の悩みだった。両親が小柄だったから、遺伝だと諦めたが、船底のサンダルをいつも履いて、少しでも身長を高くしていた。お陰で何回か、階段から滑り落ちたものだ。あと5、6センチ背丈があれば人生変わったのにと人に言われたこともあった。

それに、背の高い男性が好きだから、余計困る。

 今更、少し背を伸ばしても大して変わらないからローヒールで行く事にする。

 翌日の朝10時、昨日の喫茶店で待ち合わす。私が行くと彩斗さんは既にに来ていて、スマホを見ている。「先来たばかりです」と言うが、遅くても10分前には着いていたと思う。時間に正確な人は信頼できる証。約束した時間が守れないとか、遅れても連絡しない人は信頼して貰えないし、仕事も出来ない。

 一息ついて、彼の車で海の見下ろせる公園に出掛ける。彩斗さんは、白いフード付きのパーカーに、ベージュのコットンパンツ、淡いモスグリーンの麻のジャケット姿。男前なうえ長身なので何を着ても格好良い。

「とても素敵です」私が思わず言うと、黙って恥ずかしそうに微笑んでいる。私は「ユキさんも素敵ですよ」とか言って欲しいのに言ってくれない。65才なら言ってくれなくても諦めるが、せめて、若い今は言って欲しい。

言わない所が彩斗さんらしいのだけれど……。

 車の助手席に乗り、ドライブするなんて夢のようだ。運転する彼の横顔に見とれながら、海辺の道を走ると公園は目の前。高台にある公園からは海が見渡せる。折から公園の薔薇園には世界中の品種が色とりどりに咲き誇っている。噴水が並ぶ道から、隣接する、洋館のお洒落なレストランへ入る。彩斗さんはさりげなく手をとってくれる。愛のキューピッドのリリちゃんの、彼のハートに射った矢が効いているらしくとても優しい。牛もも肉のポワレがメインのランチセットを頂く。

 彩斗さんはスポーツの話を、私は本の話をする。

少しして、彼は「昨日から、気になっていたんですが、どこかでお会いしていませんか?」

「いいえ。初めてお会いしました」心苦しいが嘘を付くしかない。

「どなたかに似ているんですか?」

「はい。以前、僕の患者さんだった人に。でも違います」

多分その事を確かめたくて今日も会ってくれたのだろう。頭の切れる人だから嘘を突き通せるか不安だし、段々、私は間違ったことをしているのではないかと思えて来た。

 レストランを出て浜辺に降りる。海に向かって置かれたベンチに腰掛けて話し出す。若い彼に若い姿で会うのは夢だったし、若いからこそ変な遠慮も負い目もなく対等に彼に向き合える。自由にのびのびと行動できる。

 つまり、私は彩斗さんに思い切り甘えたいのだ。もっと側にいたいし、腕もとりたいし、肩にもたれて目を閉じてじっとしていたいし、出来れば抱き締めても欲しい……。 

それが本音だが、逆に言えば、私は65才である為にずっと、彼に遠慮してきたし、こんな年寄りがあなたのような若いイケメンに恋をして、困らせてご免なさいという負い目があったと気付いた。自分を年寄りだと卑下してはいないし、若いひとに恋をして、愛する事が間違いとも思っていないが、その為の悩みは当然だし、それも恋の内だと思っている。勿論、彩斗さんは心根の優しい人だから、私の年のことなどは一切口に出さないけれど。愛のキューピッドのリリちゃんの矢が刺さって、私と彼のデートのおでんだてはして貰えても、彼の心はコントロール出来ない。

そこまでして好かれても意味がない。

真実ではないのだから。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ