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謎の女の子

 かすみそうの白く小さい花が限りなく、天から散って来るように雪が降っている。

 私は、予約しておいたクリスマスケーキを取りに行くところだった。

 クリスマス間近の夕暮れはやはり冷える。薄いピンクのダウンコートの襟を合わせて歩く。目指すケーキ屋さんはもうすぐ。角をまがって静かな通りに入った時だ。行く手に、お巡りさんが、小さい女の子に何やら質問している。女の子は赤の地に白い百合の花があしらわれている振り袖を着ている。寒いのにショールも巻いていない。前髪を眉ギリギリに一直線に切り揃えてある。顎のラインまである髪はストレートな黒髪。どこかで見た、禿のようだ。 

「だから、何処から来たの?」お巡りさんが聞いている。女の子は振り袖から小さく細く真っ白な人差し指を出して「あっち」と駅の方角を指差す。

「あっちって、どこなの?」

「わかんない」

「あのね。こんな寒い日の夕方に何故、そんな格好しているの?」

「わかんないの」お巡りさんは困り果て、「兎に角、ここは寒いから、暖かい所へ行こう」

「あったかい所って何処?」

「心配しなくて良いよ。お巡りさんさんの居るところ。お姉さんさんのお巡りさんもいるからね」どうやら、お巡りさんは近くの交番へ連れていくらしい。

女の子は「いやだ。行きたくない」と駄々をこねるように動こうとしない。私は女の子が可哀想になり、声を掛けた。

「もう、来ていたの。遅くなってごめんね」女の子は私を見ている。アイコンタクトで、大丈夫、私に任せて。と伝える。女の子は小さく頷いた。

 私は彼女が親戚の子で、そこのケーキ屋さんで待ち合わせしていて、私が遅れてしまった。とお巡りさんに説明した。

「分かりました。でも何故、振り袖を着ているんですか?」

「それは、私の母がこの子のためにと買った物なので、見て欲しくて着て来たんでしょう」

「そうなの?」お巡りさんは女の子に尋ねる。

「そうなの。お姉さんの言う通り」

 私は自分の住所と名前を告げて女の子を解放させた。

「ありがとう。お姉さんのお陰で、お巡りさんに連れていかれなかった」7才位の女の子はほっとした顔で、にっこり微笑んだ。その微笑みは私が今まで見たことのない、優しく、穏やかな気持ちが、心の底から湧き出して来るような、飛び切り愛らしいものだった。身体が冷えたので、私は女の子とケーキ屋さんに入った。もうそろそろ、夕飯の時刻。

「お腹空いていない?何か好きなものない?」女の子はショーケースの中のきらびやかな宝石を思わす、色とりどりのケーキに目を奪われている。

「何でも食べたい物を言って」人差し指を顎の下に付けて、一つ一つ見ていたが、羽根の形のパイを選んだ。"天使の羽根,,とカードに書かれている。

「他のもいいよ」

「ありがとう。これでいいの」一つだけで良いと言う女の子は、可愛い天使のイラストの紙に包まれたパイを嬉しそうに、斜め掛けしている、赤い着物とお揃いのポシェットにしまった。

 店の外に出て、家まで送ろうと言う私に、「ありがとう。でも大丈夫。そうだ。私の名前はエルって言うの。お姉さんはミカさんだよね」」

「お巡りさんさんに言ってたから、覚えてたんだ」エルちゃんはニコニコ笑っている。本当に心を癒す、無邪気な笑顔だ。「じゃあね。ありがとう。また、お会いしましょうね」振り袖から出した、右手を振って彼女はすっかり暮れた通りを駅とは反対方向に歩いて行った。先は気付かなかったけれど、エルちゃんが動くたび可愛い鈴の音がする。着物についているのか、ポシェットの中に入っているのか、可愛くどこか懐かしい音色だ。少し歩いて、振り向くと、クリスマスツリーの赤と緑の電飾が夕闇にひときわ輝きを放つ、先のケーキ屋さんの看板が目に入る。美味しそうな苺のショートケーキの絵の下には、"エンジェル,,と言う店名があった。

 



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