第3話 日光と恋愛と色変わり
真宵が生き返って初の学校。
クラスメイトは久しぶりの真宵の登場に騒ぎまくっていた。
「赤峰さん! 久しぶりだね! それイメチェン? 超似合ってるじゃん!」
「まよいん綺麗な髪だね! どこで染めたの? 私もまよいんみたいに綺麗な色に染めたいなー」
「真宵ちゃんおひさ~! 肌白くなってるじゃん! いいなぁ」
クラスメイト達は、久しぶりに来た真宵を見て大はしゃぎしていた。
他クラスからも、気になって見に来ている奴がいる。
きれいな蒼髪のせいで登校中も周囲からの注目を浴びまくっていた。
やっぱり相変わらず真宵は人気者だなぁ、なんてことを思ってしまう。
「みんなごめんね、ちょっとゆうくんに用事があるから、また後でゆっくり話そ!」
真宵が俺に向かってアイコンタクトをとってくる。
若干笑顔に覇気がないように見えるので、体調が悪いのかもしれない。
「りょーかい!」
「相変わらず仲いいよねー」
クラスメイトがにやにやして俺のほうを見ている。
彼女たちの目には俺と真宵はどういう関係に見えているのだろう。
真宵はクラスメイト達の渦から離れて、のそのそと俺のもとへ歩いてきた。
「カーテン閉めて……」
「え? まあわかった」
俺の席は窓側の一番後ろだ。教室全体を見ることができて、観察者になった気分で面白い。
暗黙のルールで、窓側の席のやつが窓を開けたりカーテンを閉めたりという役割を押し付けられる。
どうしてカーテンを閉めるのか、真宵の意図はわからなかったが、たいそうつらそうな顔をしている真宵が見てられなかったので、急いで教室を照らしている日の光を塞ぐ。
「ありがと。実は日光が当たると結構肌がひりひりするの。登校してるときは大丈夫だったんだけど、時間がたつごとに痛くなっちゃった」
俺の目の前では明るい笑顔を保っているが、本当は結構つらかったんだろう。
クラスメイトと話しているときの真宵の表情は若干曇っていた。おそらくクラスメイト達は特に気づかなかったと思うが、さすがに十数年一緒にいる俺にはわかる。
もしかしたら吸血鬼でいることはデメリットばかりなのかもしれない。昨日はおちゃらけた感じで吸血鬼になってしまったことを伝えてきたが、定期的に誰かの血を吸わないといけなかったり、日光に長時間当たっていると体調が悪くなったりと、今のところ悪い部分が目立って見えている。
真宵の笑顔を守るためにも、俺は積極的にサポートしていかないといけない。
いままでは頼りっぱなしだったが、いい加減かっこいいところを見せないと、真宵に捨てられてしまうかもしれない。
「ゆうくんどうかした? そんなにぼーっとしちゃって。何か考え事?」
「いや、なんでもない」
俺が真宵を心配していたはずが、何故か俺が真宵に心配されてしまった。
「それよりもさ、今日こそ一緒に話そうよ。みんなもゆうくんと話したいって言ってるよ」
『今日こそ一緒に話そうよ』これは真宵の口癖みたいなものだ。いつも俺にお節介をかいて、俺をクラスメイトともっと関わらせようとしてくる。
俺はいい、といつも言っているのに、真宵は懲りずに何度も俺にクラスメイトと関わることを勧めてくる。
「俺は別に関わりたくない。不用意に関わるってことは、その分相手の時間を奪ってしまうってことだ。俺は関わって得があるような人間じゃない」
俺はどうしても行動する時に、相手の損得を考えて行動してしまう。
関われば関わるほど相手の貴重な時間を消費してしまう。その会話になにか利益が発生すればいいが、俺なんかと話してもいいことはないだろう。
だから、俺は人と必要以上にかかわらない。
「そんなこと言ったら、なんで私と関わってるの? そんなこと思うなら私ともかかわらないはずだよね」
「それは……」
何も言えない。
相手のことを考えてるとか言ってる割には、俺は真宵のことを全く考えていなかった。
「私、ゆうくんのそういう自分勝手なところ好きじゃないな。もっと楽観的に考えようよ。友達が増えればそれだけで嬉しいの。友達の喜怒哀楽の表情ひとつひとつに価値があるんだよ」
真宵は優しそうに微笑む。
「それもそうだな。まあ気が向いたら話してみることにするよ」
「私としては今すぐにでも一緒に話したいんだけどなぁ。まあいいや。もうすぐホームルーム始まっちゃうから、また後でね」
真宵はそういって自分の席に戻っていった。
よく見るとさっきまで騒いでいたクラスメイトもそれぞれの席についている。
無駄に真面目なんだよなぁ。このクラス。
――次の授業の支度をしていないことに気づいて、俺は慌てて準備を始めた。
「桜井くんって、真宵ちゃんとどういう関係なの?」
授業の合間の休み時間、俺は珍しくクラスメイトに話しかけられていた。
恐らく真宵の差し金だろう。
「どうもなにも、ただの幼馴染だよ。親同士も仲が良くて、それで一緒にいるだけさ」
俺が人と余り関わらないのは、相手の損得を考えて、というのもあるが、単純に俺が人見知りだからでもある。
話していていつも緊張してしまって、口調がきつくなってしまう。
なにより、相手が何を考えているのか分からないのも怖い。
クラスメイトは面白がっているのか、にやにやして俺の顔をみる。
「桜井くんってさ、真宵ちゃんのこと好きでしょ」
「なんでそういう話になるんだ?」
女子高校生とは怖いものだ。なんでもかんでも話を恋愛の方向に持っていこうとする。
どうしてこうも女子という生き物は恋バナが好きなのだろう。不思議だ。
「桜井くんって、私たちと話す時はムスッとしてるけど、真宵ちゃんと話す時だけ可愛い笑顔してるもん。外から見たら桜井くんの気持ちなんてバレバレだよ」
どうやら彼女たちは俺の事をからかっているらしい。
陽キャとは恐ろしいものだ。直ぐに人の表情筋を破壊してこようとするのだから。
「ふふ、ごめんね。桜井くんがずっとムスッとしてるから、ちょっとからかいたくなっちゃった。人と話す時は、笑顔が大事だよ」
彼女らは突然俺の頬を引っ張って無理矢理表情を変えてきた。スキンシップが激しい人だ。
「なにするんだよ」
「スマイルが大事なんだよ。そんなに変な顔してたら真宵ちゃんからも嫌われちゃうぞ?」
やっぱり俺の事をからかって遊んでいるらしい。
これだから人と関わるのは嫌なんだ。
俺は席を立って廊下の方へ歩き出す。
「ちょっと桜井くんどこ行くの! まだ話したいことたくさんあるのに!」
「俺の事をからかうのはまた今度にしてくれ。君たちと話してると疲れるんだ」
それだけいって俺は教室の扉を閉めた。
この後教室に戻ったら、真宵に何故か怒られた。理不尽だ。