表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

第2話 未練と牙と鮮血

 学校から帰り、俺たちは同じ部屋で話し合っていた。

 真宵の部屋はもう解約してしまったから、中には入れないらしい。

 しばらく一緒に暮らすことになりそうだ。ちょっとドキドキする。


「調べたんだけど、吸血鬼って未練があるとなるらしいの。やっぱりこれってゆうくんのせいなんじゃないかなぁ」


「でも未練があるやつが吸血鬼になるんだろ? つまり真宵は俺に未練があるということに……」


 真宵は顔を真っ赤にして俺の口を塞ぐ。

 核心をついてしまったみたいだ。


「この話はおしまい! そんなことより、ひとつお願いがあるんだけど、ゆうくん聞いてくれる?」


「なんだよ」

 

 首を傾けて聞いてほしさを強調している。

 真宵からなにか頼み事なんて珍しい。

 彼女はいつも何かあったら自分で片付けていたから、俺のことを頼るなんて、よっぽどの事なんだろう。


「私、吸血鬼になっちゃったからさ。誰かの血を吸わないといけないの」


 そう言って白くて鋭い牙を見せてくる。

 言葉を聞いて何となく察してしまった。

 要するに俺の血を吸わせろ、ということだろう。でも、なんだか嫌な気分はしなかった。

 むしろ他の奴の血を吸ってる姿を想像したら、なんだか嫌な気分になる。独占欲ってやつかもしれない。


「いいけど、なんか変なことになったりしないよな? 例えば物語でよくある、吸われたやつも吸血鬼やら眷属やらになるとか」


 真宵はにやっと笑った。


「そんなの私が知ってるわけないじゃんか~」


「それもそうだな」


 よく考えたらそうだ。真宵は吸血鬼になったばかりだし、まだ前例を知らない。他に吸血鬼がいるかも分からないのに、そんなこと言われても困るだけだ。


「そうだな。まあ血を吸うのは別にいいよ。死なない程度ならな。それよりも学校とかはどうするんだ? 羽は隠せたとしても、そんな赤い目と青髪にしてたら、間違いなく変な目で見られるだろ」


「それはほら、あれだよ……そう! イメチェンだよ。イメチェン。久しぶりに学校に行くんだから、イメージも切り替えていかないと!」


 真宵は死んでから1ヶ月くらいたっている。何故か知らないが、死んでいるのにもかかわらず休学という扱いになっていた。もしかしたら何か裏で仕組まれているのかもしれない。

 派手にイメチェンしたら、不良になったと思われそうだけどな。なんて思ってしまったが、これは本人に伝えない方が良さそうだ。


「イメチェンかぁ。まぁいいと思うぞ。多分真宵ならごまかしきれると思う。なんとなくだけど」


 真宵くらいの人気者なら、案外気にも留められなさそう、というのがひとつ。

 もうひとつ、俺の中で引っかかっていることがあった。真宵が死んでもなお、学校の名簿に名前が載ったままだったこと。もしかしたら真宵が吸血鬼になったこと、もしくは事故で死んだことには、なにか学校が関係しているのではないか、という気持ちがある。

 だから見た目が変わっても、教師陣にも特に何も言われないんじゃないか、なんて思っている。

 まあそもそもうちの学校は校則が緩いから、髪色をレインボーにするくらいじゃないと注意とかされないと思うけど。


「そうだ! やっぱりイメチェンといえば、口調も変えないとだよね。私、吸血鬼になっちゃっただに!」


「慣れないことはするもんじゃないぞ。そりゃあキャラ付けは出来るだろうけどさ、髪と目の色変わってて、口調まで変わってたら変人だと思われるかもしれないぜ?」


 もし学校に久しぶりに来た子が、見た目変わって口調も変わってたら反応に困る。

 きっとクラスの陽キャたちは、うまいこと言葉を返すんだろうけど、さすがにやめたほうがいい気がする。


「そっかぁ。それじゃあ仕方ないか。語尾は普通のままでいいや」


 若干しょんぼりしてしまった。

 心なしかさっきよりも元気がない気がする。


「なんだか力が抜けてきちゃった」


 そういって真宵はその場に倒れ込んでしまった。


「おい、大丈夫か?」


 心配して近づいてみると、彼女の手は若干ではあるが、再開した時よりも冷たくなっていた。


「もしかしたら、血が足りないのかも。ゆうくんちょっと腕貸してくれる?」


「ああ、わかった」


 言われるがままに腕を貸すと、真宵は小さな口を俺の腕にくっつけてきた。


「痛っ!」


 噛まれると思ったより痛くて、思わず声をあげてしまった。

 

「ご、ごめん……」


 真宵は腕から口を離して謝ってきた。


「いいよ、気にしなくて。次は大丈夫だから、もう一回噛んでみてよ」


「わかった……」


 噛まれて若干の痛みこそあったが、我慢できないほどではなかった。

 真宵の口に力が入り、血を吸われていくと、腕の痺れるような感覚と、快楽が混ざって押し寄せてきた。

 意外と気持ちよくて、癖になってしまいそうだ。


「このくらいで大丈夫かも。ありがとね、痛かったでしょ?」


「意外と平気だったよ。このくらいなら全然大丈夫だ」


 気持ちよかったことは内緒にしておこう。万が一変態だと思われても困る。

 この調子なら、明日からも吸われても大丈夫そうだ。でも食べ物には気を使っていかないといけなさそうだ。血が足りなくなって共倒れでもしたら本末転倒だし。


「ゆうくん、ちょっとうれしいって思ってるでしょ」


「え……それはどうして?」


「だってゆうくん、いままで口に出してはなかったけど、私に頼られたいと思ってたでしょ。それにゆうくん顔に出やすいもん。血を吸ってる時、ゆうくん超にこにこしてたよ」


 そんなに顔に出ていただろうか。自分としてはポーカーフェイスは得意な方だと思っていたのに、ちょっと恥ずかしい。


「まあそうだな、うれしいよ。こうやって真宵が帰ってきてくれたし、俺を必要としてくれてるって気がしてさ。それに、今まで誰にも頼られてこなかったから、案外頼られるって嬉しいことなんだなって。やっぱり真宵には感謝してもしきれないや」


 いつもひとりだったから、誰かを頼ることも、頼られることもなかった。真宵が側に来てくれても、真宵は全部自分の力で何とかしちゃうし。俺がいても意味が無いような気がしていた。


「なんかちょっと照れちゃうなぁ。あとゆうくんって結構ツンデレだよねぇ」


「ツンデレじゃねぇよ!」


「はいはい、ツンツンしないの」


 ちょっとからかわれてしまったが、それでも嬉しかった。

 真宵と、また一緒に日常を送れると思うと、笑みがこぼれてしまう。


 こんな日々が、いつまでも送れたらいいのに、そう思えて仕方がなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ