8 何が出来るか考えてみました。
大人と離れて、俺は一人で自分の家に戻った。
マイアとフィリアは郷長の家での加工作業中で、家には俺しかいなかった。
俺は家で一人、自分と向き合った。
自分の身にいったい何が起こっているのか確認したいと思ったのだ。
正直言って人間とは思えない身体性能だった。
恵体とかそういうレベルではないし、マンガでよく見るミオスタチン関連筋肉肥大とも違うと思う。
俺の力のもとは俺の金玉と肛門の間から来ていたからだ。
そしてアルカスとしての知識や先ほど聞いた大人達の会話から、この世界の人々には魂の座というものがあり、そこに宿ったものが、その個人の力となるらしい。守護霊みたいなものだと思うが、宿るものは小さな祝福から天使まで様々で、そしてアルカスの魂の座にもともといる存在が非常に強大で、その結果自分は馬鹿みたいな力を手にしている、というのが考えられる可能性だった。
俺は自分の腕に力を込めた。筋肉が動く。力こぶができる。だがそれは普通の栄養失調の少年の腕の力こぶであり、不自然なところはない。とてもあれだけのパワーを出す筋肉量ではあり得ない。
だがかすかに何か別のものを感じた。血液の流れ? みたいな動きが力を込めた瞬間に感じられた。ゆらゆらと動くかすかな光の粒子のような何かだ。
これを感じ取るために俺は心を静めた。
この家には床などないから地面に直接座る。
日本にいた頃は身体が硬いことで人後に落ちなかった俺であるが、今は筋肉や筋が硬くなる前だからアルカスの身体はアグラどころか座禅を組むことができた。
そこで俺はマンガで見た仏陀の姿勢を真似て、膝の上に両腕を開くように置き、手のひらを上に向けて静かに呼吸をしながら目を閉じた。
ゆっくりと自分の身体を探ると、すぐに自分の身体に重なるなにかが感じられた。それは無数の糸で構成されたアメーバーのようなものだった。
俺はビックリしながらもビックリしないように無理矢理心を落ち着かせた。
なんだこれ?
時間を掛けて探ると、それはゆっくりと蠢く何かであることはわかった。俺が何もしていないとゆっくりと身体からずれない範囲で動き続けて、俺が力を込めると金玉と肛門の間から流れのようなものが発生し、その力を込めた部分が強く熱を持つイメージだ。無数の糸で構成された粘度の高い液体?
これが魂の座にいる何かなのだろうか。
守護霊というよりは寄生虫に思えた。
俺は目を閉じたまま右手を上げた。
そして右手を強く意識する。そこに激しい流れが来るイメージをする。俺という枠の中にぴったりと還流する流れを強く右手に押し込んでいくのだ。
右手が熱を帯びてきた。
熱さを顔で感じるほどだ。
一体どうなっているのか、俺は薄目を開けて見た。
「うわ!」
右手が輝いていた。明確に光っていた。俺は驚いた。
慌てて立ちあがった。立ち上がっても輝きは消えなかった。振っても消えなかった。怖かった。爆発物を抱えている気持ちになって、俺は家を飛び出した。
放っておくと時間切れで爆発するかも知れない。だからこの爆発物は爆破処理するしかないように思えた。地雷をローラーで潰して爆発させて処理するあれだ。
俺は首を回して右手をぶつける場所を探し、すぐに家の隣の巨大な木を見つけた。
念のために確認すると右手はまだ輝いていた。
俺は色々諦めて目をつぶって思い切って右手を巨大な木にぶつけた。
ぶつけるときにドリルのように熱をねじ込むイメージを作った。
光る右手を巨木に叩きつけた瞬間、俺は車でもぶつかったかのように後ろに向かって吹っ飛んだ。
同時に凄まじい音がとどろいた。
大の大人が三人ほどで両手を伸ばしてようやく一周できるほどの太さの大木が裂けていた。裂けた後、さらに細かく砕け、そのまま蒸発するようにこの世界から消えて無くなった。
一方吹っ飛ばされた俺は受け身を取れずに地面にぶつかってそのまま二メートルほど転がった。
身体のあちこちが痛かった。地面にぶつけたり擦ったりして散々だ。
角度が悪くて後頭部も打った。
轟音を聞いて大人達が走ってくるのがわかったが、どう言い訳しよう、と考えているうちに俺は意識を失った。
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