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7 戦う仕事。


 なんでかわからないが俺はやれる気がした。

 俺は鉄の棒を持って郷の柵の外に出た。

 郷の大人が震えながらそれでも責任感から続こうとするのを、


「あ、大丈夫です。とりあえず僕だけで」


 と押しとどめて俺は森の方にスタスタ向かった。


「悪い! た、頼む! 村を救ってくれ!!」

「がんばります」


 討伐対象はすぐ見つかった。森の中でこちらを伺っていた。


 狼--と言っていたがそれは狼とは思えなかった。


 象のような大きさの犬型の獣でしかも口から炎っぽい何かが漏れている怪物は、俺の常識では狼とは呼ばない。


 だがここではそれが狼だった。


 そして言われていたのは『狼の群れ』の訳で、そんな怪物が十体いた。


 それらが炎を口の端に上らせながら俺を取り囲んだ。


 どう考えても絶体絶命だった。


 だが俺は不思議なほど怖くなかった。

 前の世では殴り合いの喧嘩したことなど無く、非暴力的暴言主義を貫いていたのに。


 訳が分からなかったが、訳が分からない事も怖くなかった。


 俺は力を込めた。すると身体の奥底、肛門と金玉の間くらいの場所から、得体の知れない力が湧き上がってきた。


 うん。勝てる。


 なぜかわからないが確信した。


 そもそも何もわかってないアルカスの頃から勝てていたのだ。


 俺は俺が油断していると見たのか俺に噛みつこうと飛びかかってきた狼の一匹の頭に、剣に似た棒を無造作に振るった。


 切れ味はなかったが、鉄でできた棒は狼の頭蓋をあっさりとたたき割りながら、上から下に通り抜けた。その直後、脳漿と血と骨片が爆散した。


 ギョッとしたように狼が立ちすくんだ。

 俺もギョッとしたように棒を見た。完全に曲がっていた。使えねぇ。


 俺はたった一撃でひん曲がった棒を投げ捨てて、別の一匹に飛びつくとその頭を抱え込んでひねった。同時に力を込める。首の骨が折れながら頭蓋骨がぺしゃんと潰れる感触があった。割れ目から噴き出した髄液で身体が濡れたのでそれを狼の毛皮で拭いて、死体になった狼を投げ捨てた。


 たった二アクションで狼たちは完全に戦意を喪失していた。


 尻尾を巻いて逃げ出した。もう一匹二匹間引いた方がいい気がしたので、俺は後を追って走り出そうとすると


「おい! ダメだ!」


 背中にカイザの声がかかり、俺は急停止した。


「ダメなんですか!」


 カイザは駆け寄ってきた。


「森の中は危険だ! 魔物もいるし、盗賊もいる。アルカスでも万が一のことがある!!」

「わかりました」


 郷の大人達は柵から出てくると狼の死体を眺めて、


「アルカスはすげぇなぁ」


 カイザが胸を張った。


「ふふん」

「なんでお前が自慢げなんだよ」

「馬鹿野郎。俺の息子だ。俺が自慢に思って当然だろ」

「……そりゃそうか」

「そういうことだ」


 そう言いながら大人達はその場で死体の処理を始めた。狼の肉は美味くはないが食えるし、毛皮や骨もいい値で売れるらしい。


「それにしてもこの化け物どもを一撃で倒せるなんてこの目で見ても信じられねぇ。盗賊がうろついているって話で、郷長が鎮軍を呼んでいるらしいが、鎮軍なんていなくてもアルカスだけでどうにでもなるんじゃないか?

「さすがに無理だろ。盗賊には兵士上がりもいるんだろ?」

「選抜の儀でアルカスは間違いなく兵士に選ばれるだろう。都に行くことになるのかぁ」

「兵士じゃないだろ。ひとっ飛びに将軍だ」

「将軍って兵士から順番にえらくなってくものじゃないのか?」

「うーん。わからねぇ。それでもアルカスなら将軍でもなんでもすぐなれるだろ」

「俺らの郷から将軍が出るのか」

「郷の誉れだな!」


 大人達はそれから自分の子供達の選抜の儀と魂の(スローン)について予想と期待を話した。


 俺は曲がった剣もどきを力任せにまっすぐ伸ばしながら聞いていた。


 狼の解体処理が終わると、皮と骨と肉になった元狼を見下ろしながら、カイザは俺の頭をポンと叩き、


「今日は開墾は無しだ。俺は郷長のところにこれを運んでくるからな」


 カイザは大人達と郷の方に戻っていった。


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