5 生きるの辛いんですけど。
娯楽を失い、生きる理由のない日々を過ごしながらそれでも生き続けて一週間たった。
俺はその日も朝起きて疲れた顔で仕事に行くつもりでいると、
「アルカスのお陰でずいぶん楽になってるんだぞ」
とカイザに突然言われた。
「なんですか、それ」
「お前、めちゃくちゃ力持ちじゃないか。お前が人の十倍働いてくれるから開拓はずいぶん進んだんだよ。それに賢いしかわいいし俺のなにより大切な息子だ」
たぶん慰めとか元気づけで言ってくれたのだろう。だが、言われて思いだした。
「あー、そのことですか。ひとつ聞きたいんですけど、これって前からですか? その、七日より前、というか、去年も僕は同じ感じでした?」
「? 何を言っている? お前はずっとこうだろ? 何が理由かはわからんが。きっといい感じの祝福が座にいるのかもな。選抜の義が楽しみだな」
「なるほど」
俺としては俺がアルカスの中に入ったことで特別な力が得られたのか念のため確認をしたかったのだが、それ以前からアルカスはこうだったらしい。
アルカスの記憶としてもその怪力振りは明確だったから、生まれた頃からの体質なのだろう。
もっとも俺が意識を取り戻したのが一週間前で、俺の魂的なものがアルカスの中に入ったのはもっと前という可能性もあるためはっきりとはしなかった。前世の記憶は生まれた瞬間ではなく確か何かの切っ掛けで思い出すものだったから、全然あり得る。あの時俺は何をしていたか。姉のおっぱいを触っていた。姉のおっぱいになにか秘密があるのか。これは確認しなければならない。ほどほどだったらいいわけだし! よし。生きる元気が湧いてきた。
俺はとりあえず明るい顔を作り、
「がんばりますよ! あ、この荒れ地も全部開拓してやりますよ!」
「おう。その意気だ!」
息子が元気を出したことにホッとしたらしい父親と開拓地に向かおうとすると、郷の大人が二人ばかり駆け込んできた。
「アルカスを貸してくれ!」
カイザの顔色が変わった。
「なんだ!? もしかして噂の盗賊か!?」
「いや今回は盗賊じゃねぇ!! 狼の群れだ!」
「わかった! くそっ。なんでこんなに厄介ごとばかりなんだよ。アルカス、行くぞ!!」
「え? え? え??」
俺は訳も分からないまま大人達と郷の外れに走って向かった。
郷の外れには木製の柵があってその前に郷の大人が二十人ほど集まっていた。俺とカイザが到着すると全員、長い棒や鎌や鋤を手に「助かったぁ」という顔で俺を見た。
すぐに剣を渡された。
「いつも悪いが頼む!」
「は、はぁ……」
剣はかろうじて刃に似た何かが付いている金属の棒で柄の部分は何かの革がぐるぐる巻かれていて滑らないようになっていた。
俺がそれを何となく振ると、
「おお……」
と大人達が感動した声を上げた。
「え? なんで?」
「アルカス、それはすごく重いんだぞ?」
カイザの言葉に俺はもう一度軽く振ってみた。風を切る音が鳴った。なるほど。材料が金属である以外よく分からないが、長さは一メートルほどあって厚みも分厚いせいで二十キロほどはある気がする。
「普通はそんな風には振れないんだよ」
確かにそうだと思った。もちろん日本人だった頃の俺も振れなかった。持ち上げることも難しそうだった。関羽とか張飛とかそういう感じの奴が振る重さである。俺の体重と同じくらいあるのではないか。
何となく思い出した。アルカスとして定期的に獣を追い払う仕事を任されていた。
「ま、やってきます」
俺は剣に似た棒を手に柵を出た。
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