1 プロローグあるいは十年前のお話。
あとで聞いた話である。
中つ国の中原に位置するラングーン帝国二十三代皇帝の御代、寵姫の弟として見いだされ、十代で上将軍に至った将軍がいた。彼ーー覇王将軍イスカンダルは帝国の北辺を荒らし回って手がつけられなかった勇猛凶悪な土蜘蛛相手に、二十四将と呼ばれた麾下の将と真紅の武装を着けた暁軍と呼ばれた軍団を率い、その身に宿した大いなる獣の力を振るい圧倒し、十万を超える土蜘蛛の首級を一人で上げ、北辺を護り続けた。
そのイスカンダルが討たれた。
それまで寵を与えていた皇帝自身が、突如変心し皇城に呼び出したイスカンダルの爵位と役職を剥奪し、上意討ちを命じたのだった。
主君の豹変にイスカンダルは抵抗せず、皇帝に一礼した後、堂々と城門に向けて歩き始めた。
その間、法術と矢と刃がその身に降り続けた。イスカンダルはそのすべてを身体で受けた。
皇城の敷地を出た瞬間、血まみれのイスカンダルは獣を出して、空に向かって飛翔してその地を去った。
その後の彼の行方は、皇帝がいくら探しても杳として知れなかった。
ただ、まことしやかに流布した噂話がある。
イスカンダルは人いない北方の山中で皇城での傷が元で死んだ。
その際、イスカンダルは自身の魂の座に巣喰っていた大いなる獣『ヨグ』に
「我が身は滅ぶ。行け。そなたは自由だ」
と伝え解き放ったという。
それから十年が経った。
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