目が覚めると・3
「マリン……」
「どうやら思い出して頂いたのですね」
「あ、ああ。マリン、すまない」
「いいえ、良いのです。結婚した時から解っていましたから。離婚を受け入れます」
「そう、だな。その方があなたのためだ。解っている。解っているが、それでもどうしてもダメなんだ!」
「ダメ、とは……?」
視界の片隅にモッグが部屋を出て行くのが見える。引き留めて此処に居て欲しい気がするが、それは32歳となったのに子どもみたいで恥ずかしい、と思い留まる。第一、夫婦の話し合いに家令を交えるなんて有り得ない。私は立ち上がり震える身体を自身で嘲笑しながら、目もマリンに合わせる事も出来ないまま、それでも。
みっともなく情けなく彼女に縋ろうと言葉を紡ぐ。
「ダメなんだ。私は……僕は、学院時代に君と学生会活動を少しだけしていた」
「はい。覚えております」
「あの頃、僕に見せてくれた満面の笑みに一目惚れした。キュアヌという婚約者が居たのに、僕は君に心を奪われた」
「……えっ?」
「解ってる! 君が、マリンが、私の愛など望んでいない事を! 君には愛する人が居た! 私はそれを知りながら、どうしても君を妻にしたくて、支援金だと押し付けるように君の実家に渡して、君を無理やり妻にした。私は君が好きでキュアヌと婚約解消した後は、妻に迎えるなら君がいい、と思っていた。マリン、済まない! 私の我儘で君を愛する人と引き裂いた!」
私は頭を抱えて彼女に謝る。
許してもらえない事は解っている。
だが、彼女も私も32歳。やり直す事は……出来る、はず。
いや、彼女はこれから愛する人との子が産めるのか?
女性は何歳まで子を産めるんだ?
もしももう産めないならば、私は彼女の愛する人に対しても酷い事をしていないか?
ーーああ、私は何て嫌な酷い最低な男なのだろう。
「済まない、マリン……」
「あの」
「済まない、マリンの愛する人……」
私は謝罪をする事で精一杯で、マリンの声が聞こえない。だから、俯いた私の視界に足が入り込んで、ようやくマリンが近づいた事に気付いた。同時に、柔らかな両手が私の顔を包み込んで……
グイッ
と首が痛くなるくらい勢いよく上げられた。
「いたたっ……! えっ⁉︎ マリン⁉︎」
こんな暴挙に出た事など、マリンとの生活をしていて、この10年1度もない。慌てる私に、マリンがジッと目を合わせて来て……それから大粒の涙を零し出した。
「えっ⁉︎ えええ! マリン⁉︎」
ど、どうしよう。
えっ、なんでマリンが泣いているんだ⁉︎
ど、どうすれば……?
動揺する私にお構い無しでマリンが泣きながら唇を尖らせる。なんだこの顔。可愛くないか⁉︎ 可愛すぎるだろ!
「あなたは! テゼログ様は、なんなんですか! バカなんですか! もう!」
ーーいきなり泣きながら怒られた。
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