夢の中では・2
「キュアヌ」
「あ、テゼログ」
近道で中庭を通った僕は、キュアヌがベンチに座って本を読んでいるのが見えたので声をかけた。
「1人か?」
いつも友人が沢山居るキュアヌなのに、授業終わりで皆が帰宅している時間帯に1人で本を読んでいる事を訝しむ。
「そうなの」
「珍しいな。いつもは友人達と一緒だし授業が終われば直ぐに帰るのに」
何気ない一言。
でもキュアヌが目を逸らした。
何故?
「偶には1人になりたい時もあるわ」
「もしかして……友人と喧嘩でもしたのか?」
「そんなとこ」
「そうか。僕に出来る事は有るか? 話を聞くだけでも違うし」
「大丈夫。ありがとう、テゼログ」
「いや。……送って行こう」
「ううん。もう少し此処で時間を潰すわ。この本、図書室のものだし読んで返したいの。テゼログ、何か用事が有るから此処を通ったんでしょう?」
「あ、ああ。図書室で本を借りて返却した所だ。帰ったら父上に領地経営について教わるし」
「じゃあ忙しいじゃない」
「……済まない。中々婚約者としての時間も持てないし。次の学院の休日はお茶でもしよう」
「大丈夫。テゼログが忙しい事は解ってるわ。休日は無理しないで休んで?」
「そうか。ありがとう」
僕はいつもの明るいキュアヌとは違う事を憂いながらも、こちらを気遣ってくれるキュアヌに頷いて先に帰る。学院を卒業したら少しキュアヌとの時間を作ろう。そんな事を考えながら。
そんな日々を過ごしているうちに、ある女生徒達の話し声が聞こえて来た。
「ねぇ、聞いた? マリン様のこと」
「ええ、わたくし本人に直接お伺いしたわ。失礼ながら、と」
「まぁ! それで?」
「お父様が倒れられたのは本当らしいの。お兄様が代わりに子爵家を支えていらして。それでマリン様は学院の紹介でお仕事を頂いて少しでもお金を稼いでいらっしゃるそうですわ」
「では、本当の事でしたのね」
「ええ。マリン様の助けに何かなれないかしら」
「本当に。最初は、頭の良い、たかが子爵家の令嬢が……と嫌な気持ちになりましたけれど」
「分かりますわ! でも、学生会役員に任命される程優秀ですと、そんな気持ちも無くなりますわよね!」
「そうですわ! それにマリン様のお家の事情を耳にしたり、ご本人とお話したり。そうするとマリン様に嫌な気持ちを持った自分が恥ずかしいですわ」
「解ります! あまり裕福では無いから、と令嬢が自分で働くなど恥ずかしい事なのに、家が苦しい時にのんびりなどしていられない、と仰って。そんな事を聞いてしまえばこちらの方が恥ずかしいですものね」
「それに、勉強で分からない所を親切に教えて下さったのよ?」
「まぁ! ますますマリン様の助けに何か出来ないか、考えてしまいますわね」
「本当ですわ!」
そんな騒がしいお喋りと共に女生徒が4人通り過ぎていく。マリン嬢の家が裕福ではないとは聞いていたが……父君が倒れられたなんて不安だろうな。とはいえ、僕に出来る事など何もないが。ああでも。せめて父君が早く良くなるよう祈るくらいなら、構わないだろうか。
そうして少ししてから、また噂が。マリン嬢の父君の体調が良くなった、と聞いて安心した。
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