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どうやら記憶退行らしい・2

 そこでモッグは僕にこれまでのことをザッと説明してくれた。僕の家は裕福な男爵家で僕は跡取りだった。まぁここまでは記憶に有る。問題はその後。この国では18歳で成人を迎え、順調に行けば僕は婚約者と結婚する予定だった。そう。僕には婚約者・キュアヌがいたんだ。だけどキュアヌと僕は……モッグの説明や僕の妻だというマリン嬢似の女性を見るに結婚しなかった。


 ちなみに、その妻だと教わった女性は、モッグがこれまでのことを説明する前に僕の部屋から退出していた。何故、と思うけれどモッグも引き留めない。先ずは状況を把握するべきだ、と僕も何も言わなかった。頭もずっと痛いからベッドから起き上がる気にもなれないし、このまま寝たいけれど、起きたら16年後というのは、ちょっと信じられないからモッグの説明はきちんと聞いておこう。


「キュアヌ様とテゼログ様との結婚は成人をお迎えになられ、順調ならばテゼログ様が20歳をお迎えになられたら、のはずでした」


「それは分かってるよ」


「ですが。テゼログ様が成人になられて領地へ顔を出したある日。キュアヌ様はこの王都で恋に落ちてしまわれた」


「はっ?」


 モッグの言うことには、幼馴染みのキュアヌとの婚約は僕の父とキュアヌの父が酒に酔った勢いで結ばれた()()()だったらしい。嘘だろ? 普通貴族同士の婚約って家同士の利益にも絡むから婚約契約書という書面で結ぶはずだが⁉︎


 僕の指摘に、モッグは気まずそうに親友同士の2人で、まさか他に相手が出来るとも思わなかったらしく(キュアヌの家と僕の家は同格の男爵家で、僕の家の方が金持ち)なぁなぁで済ませてしまったらしい。その上、どうやらキュアヌの母も僕の母も酔った勢いで大事な子どもの婚約を決めた事に腹を立てて、婚約契約書の作成は僕達が成人した時に、互いに婚約する意思を持ったら……と両家で話し合ったとか。


 つまり。口約束だったから婚約解消も簡単で。おまけにキュアヌは僕が成人して領地で成人のお披露目をするのに1ヶ月程離れている間にあるパーティーで出会った子爵家の令息と恋に落ちてしまった、とか。ちなみにキュアヌの方は僕との婚約がそういったもの、と知っていたから、仮の婚約者の感覚だったみたいで。知らなかったのは僕だけ、らしい。


「それって……僕はキュアヌにとってどうでもいい存在だったってこと?」


「どうでもいい、というよりは。テゼログ様もキュアヌ様も互いに友人以上の感情は無かったから、あの時のテゼログ様はスムーズに婚約解消を受け入れてキュアヌ様を祝福されていましたが」


 そう言われても、僕にとっては2年は先の話をされているわけだし。いや、確かにキュアヌの事は友人の気持ち以上は無いけど。それにしても、なんだかいい加減じゃないか、うちの親。キュアヌと結婚するのだ、と聞かされてきた僕の気持ちは? まぁでも幼馴染みのキュアヌが、好きな相手と結婚出来たならいいけどさ。


「そうか。それで?」


「その後、テゼログ様は金持ちの男爵家の跡取りでしたからね。釣書がそれなりに来ましたが。キュアヌ様との婚約が無くなったから少し自由にしていたい、と領地経営に目を向けていて婚約者は暫く作られませんでしたよ」


「でも結婚してるよね?」


「ええ。マリン様との婚約は21歳の時でした」


「キュアヌとの婚約を解消してから3年という事か」


「その前年。マリン様のご実家である子爵家で盗難事件が起きました」


「盗難?」


「犯人は、子爵家のメイドで。紹介状が困った事にキュアヌ様の男爵家だったのです」


「なんだって⁉︎」


 話を聞くと、キュアヌの家で2年程メイドとして働いた後、事情があってキュアヌの家で働けなくなった、とか。その事情も犯罪性のものではなく、メイドの家の都合らしいのだが。そこでメイドに紹介状を書いたキュアヌの父。その後、メイドが紹介状を持って訪ねたのが、マリン嬢の家だった。当然紹介状を信用して雇用したのだが、そのメイドは出来心で掃除していたマリン嬢の部屋に有ったジュエリーボックスからピアスを奪ったのだが。


 メイドがおかしな素振りをしてやたらと慌てている姿を通りかかった別のメイドが見つけて声をかけ……言い争う2人の声を聞きつけたマリン嬢の家の執事が事情を尋ねた結果。盗難が判明した、とのこと。結果的に取り返したピアスだが、出来心とはいえ、紹介状がキュアヌの家。当然、キュアヌの家はマリン嬢の家から責められる。


「ところが、キュアヌ様のお父上は紹介状を書いたが、当家には関わりない、と仰り」


「そんなバカな!」


 あの気のいいキュアヌの父上が、そんな無責任なことを言い出すなんて……と僕は驚く。


「キュアヌ様が嫁がれた子爵家というのが、マリン様の子爵家よりも家格が上でして。キュアヌ様の婚家から指示が有ったのか、それとも婚家に迷惑をかけないためか……。とにかく、マリン様のお家もキュアヌ様の嫁ぎ先はご存知だから、それ以上は何も言えなかったようでして」


 それは、そうだろう。マリン嬢の噂を聞いた事がある。学院入試で5位以内に入り、去年の成績も学年10位以内。今年の成績も今のところ良いはずだ。それだけ勉強しているのは、王城で文官として身を立てて少しでも家の助けになれば、という事だったはず。


「マリン嬢の家は少々お金に困っている、という噂だからな……」


「それは学院時代のお話でしょう?」


「あ、ああそうか。今はあれから時が経っているんだっけ」


 そんな事を言いながら、学院で見かけるマリン嬢の顔を思い出す。より良い相手と結婚するために婚約者の居ない令息達と縁を結ぼうとしている令嬢達とは違い、友人と一緒に居ても男とは距離を置いている。そうだ、この前は図書室で勉強をしている姿を見たな。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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