理解に苦しむ、軽トラ女子
異世界モノの知識って、一般人にはハードル高いよね?
始まってしまったものは仕方がない、これからどうするかを考えなくちゃ。
人生って【妥協】が大事だよね。
まぁ私独りならどうしたら良いのか分からず
クヨクヨしてたかもしれないけれど、
愛しの軽トラちゃんが一緒だし。
……軽トラちゃんは会話出来ない自動車だけど。
「まずはここから何処か人の居る所に行きたいなぁ。」
ブッブーー♪
「え、何故にいきなりクラクション鳴った?」
ブッブッブーーー!
ブッブブ ブッブー ブッブーーー!!!
突風の後に現れたままの軽トラックが自己主張してる……。
まさかまた自動運転でドリフトし出すんじゃ!?
「ダメダメ、君のご主人は私なの。勝手に動き出さないで!!!」
今度は私のお願いが聞こえたのか、軽トラちゃんはフロントライトをパカパカと点滅した。
「人格とかあんのかな、この子?」
若干のあきれと「もうなんでもアリだな」という諦めの気持ちで、私は軽トラックの運転席に乗り込んだ。
「乗ったは良いけどキーは何処だろ?」
ダッシュボードにもサイドブレーキ側のスペースにも無い。
そもそもエンジンが起動していないのにフロントライトが点滅するんだから、異世界的なアレな仕様でキーが要らないのかもしれない。
こんな時は、前にみーちゃんが熱く語ってた異世界モノの話を思い出してみよう。
『異世界に行ったらね、まず魔法が有る世界かどうかが第1の分岐点だよね。まぁ基本的に魔法が無い異世界は恋愛系要素が多いから命の心配は少ないんだけど、もしバトル系なら他のチート能力に期待かな!』
……魔法、有ると良いなぁ。
バトルは無理だし、恋愛なんてもっての他。
年齢=恋人無し属性を舐めんな。
『んで、異世界行ったならやっぱり魔法使いたいよね。大概は、全属性魔法使いとかユニーク魔法使いとか最大クラスの回復魔法が使えるだとか逆に魔法完全無効化能力の保持者とか胸熱!!!』
好きな物の話をする時、特有のキラキラとした笑顔まで思い出して懐かしくなった。
もう、みーちゃんにも会えないんだなぁ。
『でねでね特殊スキルって概念も有ってね、そういうのを確認する為に必ず言う台詞が……』
「確か……ステータス・オープン」
……
………
…………
「何にも起きないよ、みーちゃん」
目の前に画面が現れるとか、頭の中に自分の情報が浮かぶとか聞いていたのになぁ。
もしかしたら、魔法が無い世界なのかも。
「こんな時こそ、みーちゃんにナビしてほしかったなぁ。」
《ナビゲーションシステムを起動します》
は?
《御用件をどうぞ》
「え、どういうこと?」
《戸倉様の「ナビ」と言うお声により、ナビゲーションシステムが起動しました》
「あ、そですか。」
おっかしいなぁ。
カーナビをオプションに付けた記憶も無いし、これも異世界的なアレが原因なのかぁ。
《他に御用件は御座いますか?》
「えっと、じゃあステータス?魔法?スキル?みたいなモノを確認したいんだけど……出来る?」
《畏まりました》
《戸倉様のステータスを表示します》
私の戸惑いを他所に、ナビゲーションシステムがフロントガラスに私のステータスを映し出した。
名前 戸倉恵子
職業 軽トラ女子
技術 軽トラック運転 軽トラック召喚 軽トラックシンクロ 夏用タイヤ変化 夏用ワイパー変化 農家手伝い 漁師手伝い 接客業
技術点 1000
称号 軽トラックの友 安全運転とスタントドライビングの狭間に 前向きな行き当たりばったり ツッコミ気質 色気より食い気 酒豪 パリピ嫌い 敬老精神
称号っての多いなぁ、あんまり褒められてる気はしないけど。
「職業の軽トラ女子って何?」
「軽トラックのシンクロって更に何?」
「ついでに技術点ってのがサッパリ分からん」
《職業、軽トラ女子は戸倉様用の職業です》
《技術、軽トラックシンクロは戸倉様と軽トラックの意思疎通を可能にする技術です》
《技術点は新しい技術の取得が可能なポイントです》
「さいですか……」
やっぱりよく分からん。
軽トラ女子「もう、何がなんだかサッパリぽん」
軽トラ「暇ぁ」(ライトパカパカパカパカ…)
軽トラ女子「ちょ、エンジン掛かってないんだからライト点けたらバッテリー上がるよ!!!」
ナビゲーション《バッテリーの心配は無用です》
軽トラ女子「これも異世界的なアレかっ!」