異世界に来ちゃった、軽トラ女子
子供の頃みたいに長い時間は居られないんだよなぁ、海。
目を開けるのが辛いくらい太陽サンサン。
絶えず聴こえるザザンザザンという音。
香る磯の匂い。
「海か……」
父方のお祖父ちゃん家は海辺に有るから、子供の頃は年に何度も遊びに行ってた。
「潮風って最初は気持ち良いんだけどね……」
肌が弱いと直ぐ何となく痒くなってくる。
いつまでも現状を確認しないわけにはいかないから仕方なく薄目を開けて周りを見ることにした。
幸い私が居るところは砂浜で身体が濡れてはいなかったが、潮が満ちてくれば多分濡れる。
「やっぱり海かぁ。軽トラックに跳ねられて何キロふっ飛んたんだろ?」
いや、ギャグかコントじゃあるまいし。
いや、それよりも私、軽トラックに轢かれたんだよね!?
痛い所や怪我した様な感じはない。
「これ夢だな?
だいたい軽トラちゃんが自動運転するの自体オカシイもん。」
びゅゅゅゅ
独り、夢だ夢だと頷いていると急に風が強く吹き付けた。
「うわ、寒!」
先程までは太陽のおかげで暑いと思っていたのに、今の突風でブルブルしてしまった。
夢の中でも風邪はひきたくない。
「さて、夢ならそろそろ覚めないと……ん?」
改めて辺りを見回すと、今まで無かった軽トラックが私の2メートル程離れた場所に現れた。
「この軽トラちゃんのナンバー、私がお願いしたのだよね?」
よっこらせと立ちあがり、また勝手に動き出さないか注意しながら目の前の軽トラックに近づいて運転席側のドアを開けてみる。
「私を轢いた軽トラちゃんだよね?」
キーは無いけど、【ご挨拶、戸倉恵子様へ】と書かれた封書が助手席に置いてあった。
「手紙?……何だろ瀬戸さんからかな?」
私はとりあえずその封書を手に取り、軽トラックから離れてから読んでみた。
【ご挨拶、戸倉恵子様】
はじめまして、異世界です。
ようこそ異世界へ。
ここは、あなたが生まれ育った世界とは違う世界です。
今回突然あなたをこちらの世界にお連れした理由は、こちら側の手違いであなたの人生を終えてしまった事への謝罪の為です。
大変、申し訳ございませんでした。
お詫びと言ってはなんですが、
あなたの大好きな軽トラックと一緒にこちらの世界で生きて頂こう思います。
この軽トラックには、いくつか便利な機能を追加出来る様な仕様にしてあります。
詳しくはその都度お知らせ致します。
それでは、こちらの世界をお楽しみ下さい。
「夢じゃないんかい……」
幼なじみでアニメ好きのみーちゃんが言ってた。
『トラックに轢かれるのが異世界転移の王道』
でも軽トラックに轢かれた場合は軽トラックも一緒に異世界転移するってのは初耳学。
いや、学じゃない。
そんなこんなで、私と私の軽トラちゃんとの異世界生活が始まってしまった。
軽トラ女子「どうも、戸倉恵子です。」
軽トラ「え、自己紹介を2回に分けてする意味ある?」