第九話 最恐の暗殺集団と、命が惜しくない大バカ野郎
ナンバーワン・ホストのヤマギシと、七色の裏声をもつウラベと、力自慢の田舎者アオヤマの3人との待ち合わせ場所は、街外れの門だった。
門は国境でもある。
今までは王宮の兵士が守っていたが、陥落と同時に、敵国に占拠された。
赤い気色の悪い敵の旗が、何本も林立していた。
民間人は何人たりとも外に出られず、外から入ってくるのは敵国の兵士のみだ。
*
サラリーマンのトダは、その身なりから怪しまれることもなく(スーツ姿のサラリーマンはどこにでもいる)、門のそばまで難なくたどり着くことができた。
「残念だが、外に出ることはできないみたいだな」
トダのそばにいた、商社マンと思われる男が低い声でいった。
顔は疲れ切っており、諦めと困惑が同居していた。
今日明日中に、隣国の街に、商品を届ける必要があるらしかった。
「しょうがない。非常事態ということで、客先には諦めてもらおう。あとは本社にどう伝えるかだが、悩んでもはじまらない。今夜はキャバクラにでも行って、ぱーっと騒いじまおう」
男は門から壁にそった先にある、歓楽街へと向かってしまった。
庶民の娯楽は、たとえ戦争があろうと革命が勃発しようと、休みになることはないらしい。
もうすぐ太陽が真上にくる。光を遮るものはなにもない青空だった。
トダはまぶしさを右手でカバーし、ヤマギシとウラベとアオヤマの姿を探した。
でも彼らの姿はどこにも見当たらなかった。
*
1時間は待っただろうか?
さすがに辛抱強いサラリーマンのトダでも、あきらめて引き返そうとした、そのとき。
けたたましいラッパの音が鳴り響いた。
「レッド・ラビット・レンジャーだ!」
どこからともなく歓声があがった。
トダも名前だけは聞いたことがあった。
敵国の精鋭部隊、最強の暗殺集団、恐怖の赤いウサギの集団(通称:3R)。
実物を見るのは初めてだ。
人が門のそばに集まってくる。
赤い旗をもった兵士が群衆を牽制し、道を開けさせた。
ラッパの音が鳴り止むと同時に、赤い戦闘用の馬が、次々と門をくぐってくる。
馬に乗っている彼らは、全身を真っ赤な甲冑で覆っていた。
ただの兵士とは明らかに違う緊張感が、足の先から、頭のてっぺんまでみなぎっていた。
この精鋭部隊に比べれば、城で戦った兵士たちは赤子にすぎないと、トダは恐ろしくなった。
後ずさってこの場を離れようとしたとき、
「止まれ!」
と馬上から大声が響いた。
耳が痛くなるような甲高い声だった。
トダは、自分のことかと思い、全身を震わせて目をつむった。
馬のいななきと、群衆のどよめき。
レッド・ラビット・レンジャーが停止した。
「おまえ、何者だ! 命が惜しくない、大バカ野郎か!」
トダがおそるおそる目を開けると、レンジャーの先頭、その馬の足元に、一人の男が両手を広げて立っていた。
トダは息をするのも忘れてしまうぐらい驚く。
その命知らずの男の顔を、よく知っていたからだ。
敵国の精鋭部隊を止めた男は、ナンバーワン・ホストのヤマギシだった。