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第八話 こんなに強烈な毒で2日で起き上がれるわけがない

「だいぶ息が荒いみたいだけど、大丈夫ですか?」


サラリーマンのトダに心配される。姫も不安そうに俺を見ている。


敵の攻撃から逃れるため、俺たちは森を進んだ。

道なんてないから、背丈ほどの草をわけて、木にしがみついて滑らないようにしている。


「大丈夫。ただ、血が止まらない」


止血のためにトダが巻いてくれたハンカチ。

傷を負ってから1時間になるが、まだ血がにじみ出ている。腕をつたって、手のひらまで濡れてきた。ぽたぽたと指先からたれる。


「見せてみろ」と姫が言って、俺の腕をつかんだ。


「痛っ!」


腕の全体が真っ赤に腫れていた。


「毒だな。血が止まらないわけだ」


姫の声が低くなった。頭巾で覆っているから、表情まではわからない。


トダが俺のおでこに手を当てた。


神妙な顔で「高いですね」と言った。「はやく、どこかで横になって、治療しないと。清潔な水で患部を洗浄して、薬を飲まないと、危険です」


「大丈夫だ。大したことない。こんな森の中で」と答えたところまでは覚えているが、その後の記憶がなかった。








意識が戻ったとき、ベッドに横たわっていた。部屋の中が暗い。どうやら夜のようだ。


頭が痛む。身体がだるくて起き上がる気にもなれない。


横を向くと、姫が床に座っていた。ベッドに頭を乗せている。頭巾が少しはだけて、きれいな顔が見えていた。


「王宮もこれでおしまいだな」


知らない老人の声だ。奥の部屋から聞こえてくる。トダの声も。


「500年も独立を守ったんですけどね」


「敵国にとっては、一日もあれば、たやすく潰せる小国。緩衝国としての存在意義がなくなったのだろう」


「利用価値がなくなったってことですか」


「あえて潰したとなると、いよいよラジールとの決戦も近いな」




俺はゆっくりと腕を伸ばして、姫の髪に触れた。急に触りたくなった。


姫は顔を上げて「気がついたか?」と小声で言った。目が少し潤んでいるようにみえる。



俺は「ああ」と答えたつもりだったけれど、声にならなかった。

喉も痛くて、咳き込んでしまう。


姫が叫んだ。「トダ! 水をもってきてくれ!」


トダが部屋に入ってきて、コップの水を飲ませてくれた。冷たくてかすかに甘い味がする。井戸の水だろうか。


「まだ横になっててください」とトダが静かに言った。「ジェイコブ氏に解毒剤を処方してもらったけれど、完全に解毒するには、あと3日はかかります」


「どれぐらい、寝ていた?」俺はかろうじて発声する。


「2日と少々」


「2日って……それじゃあ、アオヤマとかヤマギシとか、待ち合わせは」


そこまで言って、また豪快に咳き込んでしまう。


姫が背中をさすってくれる。「無理するな。普通の人間なら、1周間は昏倒するぐらいの強烈な毒だ」


トダが申し訳なさそうに言った。「昨日の正午に、私だけ、街外れの門に行ったんですよ」





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