第五話 死をも恐れぬ、バカどもよ
奴隷の顔をよく見ようと鉄格子に顔をつけた瞬間、牢獄全体が小刻みに振動した。
低い音が頭上から響く。
爆発か? と思ったときにはもう、大音響とともに目の前の砂山が崩れはじめる。
俺たちが立っている、この牢獄の床が、抜け落ちたのだ。
大量の砂が落下していく。
底はまったく見えなかった。
俺たちはあわてて鉄格子につかまる。
逃げ遅れたウラベの腕を、アオヤマが引っ張り、かろうじて助ける。
「今日はよく落ちる日だな」とアオヤマが叫んだ。
「姫のこころは落とせなかったけどな」とヤマギシが笑う。
みんなで笑ったあとで、今度は天井までも抜け落ちてきた。
数えきれないほどの武装兵士が落下していく。
その数、数百、数千人。
鎧は敵国の赤色だった。
絶え間なくつづく爆発音、剣の音、悲鳴。
絶叫の中で、ふいに、鉄格子が開いた。
俺たち5人は廊下に転がり出る。
そこに立っていたのは、義眼の大臣だった。
背中には何本もの剣が突き刺さっていた。
「騙して、もうしわけない」と大臣がかすれる声で言った。「信じられるやつが、ほしかった。王宮はもうすぐ、敵国の手に、落ちる。20万の大軍に包囲された。内部の裏切り者が、誘導した。情報はつかんでいたが、遅かった」
大臣が膝から崩れ落ちるのを、そばにいた奴隷が受け止める。
俺たち5人はわけもわからず、ただ黙っていた。
「おまえたちは、死をも恐れぬ、バカどもだ」大臣の声が泣いていた。「そして、身元も、ちゃんとしている。信用にあたいする、立派な人間だ。ここにいる、この奴隷といっしょに、どうか、どうか、生き延びてほしい……」
大臣は右手で義眼をえぐりだし、近くにいたサラリーマンのトダに渡した。
トダは無言で受けとる。
義眼はきらきらと光っていた。
「ルビーとサファイヤだ。王宮の財産は、これで、すべてだ」
大臣はそう言って静かになった。
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