第四話 奈落の底
けっきょく誰も、姫の心を射止めることはできなかった。
歌声はすばらしかったし、筋肉はすごくて、サラリーマンは堅実だし、ホストは真実を語った。
俺はふざけたように思われたかもしれないけど、おふざけが人の心を打つこともある。クレヨンしんちゃんのように。
床が抜けて、落下した先にあったのは、砂の山だった。
ざざーっと滑っていき、石造りの壁にぶつかって止まった。
背骨を打ちつけ、その痛みでしばらく動けなかった。
地下は巨大な牢獄だった。
地上の広間と同じだけのスペースがあった。
空気はひんやりと冷たく、ホコリとカビの臭いが強烈だ。
窓はもちろんなくて、南にある唯一の出口から差し込む光で、かろうじて互いの顔が判別できた。
出口には鉄格子。
頭をくぐらせる隙間もなかった。
向こうで奴隷が俺たちを見張っている。
「さて。どうやって逃げ出す?」ホストのヤマギシが壁を叩いている。
「おれの力をもってしても、この花崗岩は壊せない」怪力のアオヤマは天井を見上げて、ため息をつく。
ウラベは涙を浮かべて横になっている。
サラリーマンのトダは無言で体育座りをしている。
俺は鉄格子の外にいる奴隷に呼びかけた。「ここから出る方法を教えてほしい」
奴隷はこたえない。身動きもしない。
「いくらほしい?」
「金には興味がない」低い声だ。全身をボロ布でつつまれているから、表情までは読みとれない。
「じゃあ何に興味がある?」
「……夢、希望……。つまり、明日だ」
「とんだ詩人だな!」アオヤマが大声で笑う。「明日っていえば、おれたちが処刑される日だ!」
それを聞いてウラベがまた泣き出す。
ヤマギシは汚い言葉を吐く。
俺はまた奴隷にたずねる。
「おまえに、明日を与えることができれば、俺たちをここから出してくれるか?」
奴隷は何もこたえない。
アオヤマが無視しろと俺に言う。
俺は直感で思う。この奴隷、何かがおかしい。
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