第一話 大臣にそそのかされる男たち
はじめて投稿します。よろしくお願いします。
「全世界の男子に告ぐ! 姫の心を射止めたものには、王宮の財産の、半分をやろう!」
義眼の大臣が、広場に集まる1000人の男子に向かって、大声で呼びかけた。
直後、興奮の雄叫びが地鳴りとなって広場を埋めつくす。
王宮の財産は軽く見積もっても100兆はあり、その半分なら50兆だ。
一生遊んで暮らせるどころか、高額紙幣をトイレットペーパーにしても5000万年はもつ。
ある者は感極まって泣き叫び、
ある者は天高く飛び上がって着地に失敗して捻挫し、
ある者は前後左右から押されて失神し、
ある者はさらに押されて失禁し、
ある者はスタバのコーヒーフラペチーノを飲みつづけ、
ある者はスマホで「小説家になろう」を見ている、もしかしたら小説を書いて投稿しようとしているのかもしれない。
「ただし!」
と大臣が続ける。
しかし歓声が大きすぎてほとんど聞き取れない。
俺は前から5列目だったからまだかろうじて耳に入ったけれど、後ろのやつらは全裸で踊り始めている。
大臣の5回目の「ただし!」で、やっと歌と、踊りと、足踏みが止んだ。
みんな聞き耳をたてる。
「ただし! 挑戦して敗れたものは、その場で、即刻、斬首とさせていただく! 胴体と首の、永遠の別れ! 悲しいか? 悲しくないか? そんなことはわたしの知ったことではない!」
あっという間に男子の大半がいなくなる。
後ろの方にいて、よく聞こえなかった男子のグループも、家路につく男子から詳細を聞いて「おれの命は王宮よりも重い!」とツバを吐いて去っていった。
*
残った数十人の男子を、大臣は手招きして前に集める。
「さあ! 目の前にいる、死をも恐れぬバカども! いや、勇敢なる男子諸君よ! 我こそはと思えば、今すぐ、エントリー手続きをせよ! エントリー手続きには、有効なるメールアドレスと、電話番号認証と、身分証明書による本人確認が必要である!」
と言った瞬間、ほとんどの男子がいなくなる。
この国ではメールアドレスも電話番号も貴重で、ましてや身分証明書なんて100人に1人が持ってるかどうかだ。
男子のほとんどは流れ者の国籍不明者。
そもそも発行すら受け付けてもらえない身分のやつばかりだった。
俺はかろうじてメールアドレスも電話番号も、そして偽造した身分証明書も持っていた。
広場に残った男子は、俺を含めて5人になった。
隣にいたスーツ姿のサラリーマンが、大臣に向かって震えながら手をあげた。「お、おそ、おそれ、恐れながら、申し上げます……」
「なんだ?」大臣は氷のように冷たい義眼でギロリとにらんだ。
「姫の心を射止めた、とは、どのような状態なのでしょうか?」
大臣はため息をついて、静かに答えた。
「おまえ、そんなのこともわからんのか。まったく、女の子と付き合ったことがないのか? 姫の口から『好き』だの『愛してる』だの『一生一緒にいてくれよ』だのといった、求愛の言葉が出る状態のことだ。肉体関係までは要求せん」
「それなら簡単だ」と後ろから声が上がった。「おれの得意分野だ」
振り向くと、駅前のホストクラブのナンバーワンのヤマギシがいた。
誕生日の一晩の売上だけで家が建つ、という伝説の美男子。
好敵手、と俺は思った。
結局エントリーしたのは俺たち5人だけだった。
この5人のうち、100兆もの大金を手に入れられるのは、はたしていったい誰になるのだろうか――?
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