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嘘つき探偵は推理しない(4)

「色羽君、何か手がかりになりそうな物はありましたか? 」


 部室に戻って来ると、九条先輩と叶多はもう先に戻っていた。お茶とお茶菓子まで用意されている所から分かるように、思ったより早く切り上げたらしい。


「まぁ、ぼちぼちって言うか……」


 僕な返答はお茶を濁した。とりあえず先輩と叶多がどれ程の情報を収集出来たかで、僕の嘘の内容は変わってくる。少し様子見しておこう。……全く、見物人にビクビクしてる探偵なんてかっこ悪い。

 


「色羽も戻って来た所で、情報を整理しよう」


 叶多は僕と先輩の向かい側の席に移動する。そして、これまでの経緯を語り出した。


「まず、事件の発端は九条先輩がクラスで聞いた話だ。女子生徒数人が持ってきたお菓子が毎日お昼には無くなっているという事ですよね」

「ええ、その通りです」

「そして、この不思議な現象にはとある規則がある」


 叶多のそんな様子は、まるで名探偵の推理シーンの様だ。犯人はもう分かっているという所が何とも悲しい。


「まず、盗まれるお菓子は毎回同じである事、そして盗まれるのは毎回一つだけという事だ」

「ええ」

「しかし……これ以上の手がかりは無いのが現状。強いて言うなら毎日朝にはあって、お昼頃には無くなっているという事だ」


 まぁ、朝持ってきてお昼前には如月ちゃんが盗んでいるのだから、その通りでしか無い。


 しかし、会議はここで一旦止まってしまう。それもそのはずで、今この状況とこのメンバーで集められた情報は出尽くしてしまった。勿論、僕を除いてだけども。


 窓の外から、オレンジになりかけた陽の光が差した。日が落ちるまでには帰りたい僕としては迷いどころである。


 ……仕方ない。手っ取り早く終わらせよう。


「推理は省いてショートカットしないとね」

「期待してるよメータンテー?」


 そんなうわ言が脳内で聞こえた。




「……はぁ」


 僕はため息をつきながら立ち上がる。


「おや、色羽。何か分かったみたいだね」


 叶多が僕の顔を覗き込んだ。

 君は直ぐに僕の顔色から心情を把握してくる。スクールカウンセラーにでもなる事をおすすめするよ。


「着いてきて」


 僕はそう言ってバックを背負うと部室を出た。遅れて叶多と九条先輩も着いてくる。


「な、何か分かったんですか!? 」

「……まぁね、嘘じゃないよ」




 ◆ ◆




「これは怪異の仕業じゃない。――自作自演だ」


 僕は二人を祠の前に連れていくと、早急に嘘のネタバラシをした。

 推理小説はエンターテインメントみたいな話を何処かで聞いた事があったけど、そんな事知らない。僕は今、早く帰りたいという僕の欲望が動力源となっているんだ。


「自作自演とはどういう事ですか? 」

「簡単な話だよ。ほら、ここに盗まれたお菓子が置いてあるでしょ」


 僕は祠を指差す。

 本当は祠の横に如月ちゃんも立っているのだが、今話しかけても虚空に話しかける悲しい人間に見えるので、無視をする。


「確かに同じスナック菓子だけど、だからって自作自演とは決めつけられないんじゃないかな? 色羽」

「そうですよ色羽君」


 ここまでは想定の範囲内だ。


「二人とも、花には詳しい? 」

「「花? 」」


 二人は僕の発言の意図が見えないというような顔を浮かべる。


「ごめんなさい、あまり知識は無いわ」

「俺もかな」

「そこに置いてある花を見て欲しい」


 僕は祠にお菓子と一緒に置かれた花を指さす。


「綺麗な白いお花ですね」

「これはリナリアって花なんだ」

「リナリア……それが何か関係があるのですか? 」

「うん、リナリアの花言葉は『この恋に気づいて』」

「……まさか、いやそれは流石に」


 先に口を開いたのは叶多だった。


「つまり、これは怪異の仕業とかでも何でもない。一人や女子生徒が意中の相手に向けたメッセージと差し入れだったんだ」


 僕は言ってやった。

 とことん嘘を。


「……ですが、誰も犯人を名乗りあげてませんよ」

「恋愛の話はナイーブだからね。大事になっても話しずらいのだろうと思う」

「だったら、お菓子を持ってきていた事を周りに話さなければよかったのでは? 」

「いや、彼女にはお菓子を毎日持ってきたという証拠は必要だった」


 だって、皆にハブられちゃうからねと付け加える。

 なにか心当たりがあったのか、僕の言葉に九条先輩は納得した。


「だとしても、その意中の人にお菓子を渡したいなら、こんな形じゃなくてもいいのでは? 」

「というと? 」

「下駄箱とかロッカーとかあるじゃない」


 チョコや恋文を入れるのも下駄箱が定番だ。


「なるほどね。でも、それじゃあバレる可能性は高くなる。下駄箱なんて人通りもそれなりにある」

「そ、そしたら、この祠だって少ないとは言え人は来ると思いますよ」


 現に私達が来ているわと先輩は続ける。


「だから、犯人は考えたんだ」

「考えた……? 」

「うん、この祠にお花とお菓子が置いてある状況。普通の人が見たら勘違いするんじゃないかな」

「勘違い……あっ! 」


 叶多は気付いたようだ。


「……お墓って思うかも知れないね」

「そう」


 こんな祠にお菓子と花があったら、何か事件があったのかと思う。

 少なくともお花は何かの手向けだと考える。


「……なるほど」


 九条先輩も少しは納得してくれた様だ。


「では、毎日同じお菓子だったのは? 」

「相手の好みだったのかと」

「律儀に一つだったのは? 」

「高校生の財布の中身なら毎日一つがいい所だろう」


 ここで、僕の嘘を簡単に纏めるとこうだ。

 つまり、これはお菓子をいつも盗まれていた女の子がいたという話だったが、犯人をその女の子に仕立て上げるという嘘だ。

 その女の子を、仮にA子さんと呼ぶ事にしよう。

 A子さんは毎朝クラスメイトに持ってきたお菓子を見せる。

 そして、A子さんは午前中に暇を見つけて、祠にお菓子と花を用意する。

 お昼休み、A子さんはお菓子が消えた事をクラスメイトにカミングアウト、意中の相手はお菓子を受け取って完了。


 穴が無いかと言われればかなり縫い目だらけの推理だが、一見納得させる事くらいは出来るだろう。


「……なるほど、色羽君の考えは分かりました。確かに、今回はそういう事にしておきましょう」


 それは良かった。

 嘘を信じてもらえると言うのは案外気分がいい物だ。


「ですが! 私はまだ怪異がいないと納得した訳じゃないですからね! 」


 九条先輩はそう言って煮え切らない表情をしていた。負けた敵キャラが最後に捨て台詞を吐くみたい。


「いつか、本当の怪異の仕業を見つけて来ますから! 」


 言い終わると、九条先輩は走っていってしまった。


 怪異というか幽霊というか付喪神というかは確かにいたんだけど。

 なんて今更、心の中で言っても遅い。



「色羽、お疲れ様」


 寄ってくる叶多は少し笑顔だった。


「色羽、珍しいね」

「珍しいって? 」

「あんな風に探偵っぽくするの嫌いって言ってたから」

「……」

「でもさ……」


 叶多は一歩程僕に近づいた所で、言った。


「この話、嘘だよね? 」

「――っ!」


 やっぱりバレてたか。

 昔からそうなんだ。

 叶多だけは僕の嘘を殆ど見破る事が出来る。


「だってさ、この花リナリアじゃなくてアネモネでしょ」


 ……。


「……知ってるじゃないか」

「まぁ、色羽が何を隠したいか分からないけど、いつか足元救われるぞって俺からのアドバイス」


 叶多のアドバイスは確かに的確で、僕にストレートにダメージを与えてくるものだった。



「じゃあ、俺も先帰るから。色羽、また明日」


 叶多はそう言って僕に手を振り、帰って行った。





「ご主人、一人勘づかれてしまったの」


 ゆっくり浮遊しながら移動する、如月ちゃんがやってきた。


「流石、叶多と言った所かな」

「感心してる場合でもないだろうに」


 頭上に浮かぶ幼女は、案外厳しい様だ。


「如月ちゃん」

「なんだご主人? 」

「明日からお菓子は盗んじゃいけないよ」

「なっ!? 何を言うのだご主人! 」

「いや、だって明日九条先輩がお昼ここに来たりしたら僕の嘘がバレるじゃないか」


 てか、そもそも触れないし食べられないんじゃなかったっけ……。


「ご主人の鬼畜! 外道! 」

「何とでも言ってくれ」


 ……それは、ともかく今日の分のお菓子くらいは、僕が持ち帰っても罰は当たらないだろう。


「あぁ! 吾輩のお菓子! 」

「大丈夫、分けてあげるから」

「……本当かの? 」


 上目遣いと涙目で、可愛く僕を見つめる幼女に、僕は満面の笑みで言ってあげたのだった。


「ごめん、やっぱ嘘」

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