ユリスと対峙するのは
モンスター文庫様より、本日発売!!!
魔族が脅威とされているのは大きく二つの理由が挙げられる。
一つ目が殺戮と抗争を生きる目的と動く闘争心。
話し合いなどせず、ただ戦いに身を投じ己の欲を満たす為だけに力を振るう生き物は、どれだけ情に訴えようが止まらない。
二つ目が頑丈さ。
肉体は人の数倍は硬く、刃物を突き立てようが中々傷が入らない。更に加えて、彼らには『負傷したから制止する』なんて考えは浮かばないのだ。
故に、どれだけ傷つこうが前に進む────ある意味での頑丈。
もちろん、個々の強さは個体によって様々であり、自我をあまり有していない下級魔族の力はそこら辺の騎士と変わらない。
だが、上位魔族はそれぞれに自我を有し、知力に長けた者もいれば力のみを身に付けてきた者もいる。
更に、魔王直属────数多いる魔族の中でもトップクラスの実力を誇るのが『四魔将』と呼ばれる上位魔族である。
一人現れれば街が消える────なんて恐れられている程、その脅威さは歴史と現実に刻まれていた。
そんな四魔将が二人、ユリスの前で牙を向く。
決戦の狼煙を上げる言葉はもう紡がれており、いつ広場が戦場になってもおかしくない状況────そして、最初に仕掛けたのはユリスであった。
「とりあえず、挨拶代わりだと受け取ってくれ」
軽い調子で口にするユリス。
その言葉に呼応するかのように、後ろに控える魔族達が一斉に襲いかかってきた。
だが、そんな行く手を阻むのは────闇に覆われ、原型形状あやふやな……禍々しい口。
「どうせお前ら、人を襲って喰らおうとしてるんだろ? そんな暴食、自分達で味わってみたらどうだ?」
そんな口は、人程の大きさしかない魔族より遥かに大きく、一口開ければ丸々飲み込んでしまうほど。
魔族達は一斉に進行方向を変える。だが、それを許すほどの暴食ではなかった。
「グギャ!?」
「アガッ!?」
バキポキボリッ、と。
骨が砕かれ、風船でも割れたかのような破裂音が一斉に響き渡る。
視線を前にすれば、先程までいた魔族の群れの大半がその無数に現れた口に飲み込まれていた。
「テメェ、やるじゃねぇか!」
同胞が口に食われている中、四魔将の一人であるガラフが口を避けてユリスに突貫する。
悲鳴を上げる味方には目もくれず、ただただユリスに近づこうとその足を進めた。
「おいおい、味方は助けなくてもいいのかよ?」
「知るかよ! こいつらは捨て駒みたいなもんだからよォ!」
「全く……それは随分と傲慢だな」
ユリスの暴食は相手を喰らい尽くすまで止まらない。
逆を言えば、相手を喰らい尽くすまで標的を変えることができないのだ。
今の標的は後ろで群れれいた下級魔族達。明らかに違う雰囲気を醸し出していた二人は様子見のつもりだった為、ユリスは標的から外していた。
故に、ガラフは標的として選ばれない。本人は捨て駒と言っているが、元々標的は後ろの魔族達なのだ。
「楽しませろ人間ッ!!!」
ガラフが走りざまに左手の拳を地面に叩きつける。
すると、いきなりガラフの左手が盛大に破裂する────だが、飛び交う血は姿を変え、無数の腕となってガラフの上空を浮遊した。
「血の腕……ねぇ? だから《《血腕》》か」
「おうよ! これこそ、血腕のガラフ様の力だぜッ!」
そして、ユリスの懐に入ったガラフが無数の血の腕をユリスに向かって振りかざし、数十発という拳の殴打がユリスに襲いかかった。
だが、それでもユリスは臆する事なくポケットに手を突っ込んだまま、その大罪の名を口にする。
「怠惰」
ガラフの拳はユリスに触れることなく弾き返される。まるで大きな壁にでもぶつけたかのよう────その事に、ガゼフは驚いてしまう。
「ハァッ!?」
「そんなに驚く事じゃねぇだろ? 戦いに身を投じる者として、防御の術を持っているのは当然だろ?」
「テメェのは硬すぎるだろうがッ!」
「当然……あまり俺を舐めるなよ魔族」
大きな力は当然、大きな力で跳ね返される。いくら力が強かろうが、比例した力は堪えようが無い。大きく仰け反ってしまったガラフの胴体目掛けて、今度はユリスが掌底を打ち込もうとする。
しかし、ユリスはその打ち込む手を止めて頭上を見やった。
そこにはいくつもの石や建物の残骸などが宙に浮いており、ユリス目掛けて全てが降り注ぐ。
「今度は落ちて堕とすのかよ……お前らって、本当に飽きないな……」
「人間に言われても嬉しくないわよ」
いつの間にか宙に移動していた四魔将の一人であるカトレアが、嫌悪を隠さずユリスに向かって言葉を吐く。
その間にガラフはその場から離れ、取り残されたユリスのみがその瓦礫の雨に飲み込まれる。
だが、それもユリスの怠惰の前では無意味。
絶対的な防御は、この程度の攻撃ではかすり傷一つつけられない。
降り注いだ後には砂塵が上がる。そして、晴れた先には無傷で立つユリスの姿。
その表情には落胆が伺えた。
「学習しろよお前ら……こんなチープな攻撃じゃあ、時間を無駄に浪費するだけだぜ?」
「はんッ! まだまだ始まったばかりだろォが!」
「私も、まだ力の一部も出していないのだけれど? たかだか一回凌いだくらいで調子に乗らないでくれる?」
「その一回で、大体力量が分かるんだが……」
下級魔族達の骨が砕ける音を聞きながら、ガラフが再びユリスに向かって肉薄する。
数十本あった血の腕は数百に、太さは一軒家を飲み込むほど大きく。
頭上を再び見上げてみれば、今度はどこから現れたのか分からないような、建物丸々が宙に浮いていた。
その光景を見れば、この二人の魔族がどこまで驚異的な存在なのかが理解できる。
それでも、大罪の魔術を極めたユリスは余裕を醸し出しながら、両手を広げた。
「魔族の中でも驚異とされるお前らがその強さだったら────案外、この戦いは《《俺一人でも終われせそうだな》》」
彼らが本気を出していないのと同じ、ユリスもまた力の一部しか出していない。
その事に、まだガラフとカトレアは気づいていないのであった。




