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【書籍化決定】魔法学園の大罪魔術師  作者: 楓原 こうた
裏切り者の吸血鬼と大罪の弟子
57/69

王城の屋根にて

書報公開中!

モンスター文庫様より2/26発売です!

『皆、此度は武闘祭に出場おめでとう。私はザガル国、国王―———ギルバート・フォン・ザガルだ。さて、今宵……この場にいることを————』


 会場が静まり、数段登った壇上の上には絢爛な服を纏った壮年の男が一人、会場に向かい言葉を放つ。

 あれから少しの時間が経ち、貴族としての最低限の挨拶回りを終えたユリスはその場の空気に任せ、セシリア達とは別の隅で大人しく話を聞いていた。


(ザガル国、国王……ねぇ?)


 かの勇者を召喚した国。

 召喚魔法は、大規模の魔力と操作を必要としこの世界の理から別世界の理を結びつける魔法だ。

 精鋭の宮廷魔法士を数十人集め、大規模な魔方陣に魔力を注ぎ、この世を別離させてようやく成功できるかできないか。失敗すれば集めた魔力は行き場を失い大規模な崩壊を起こす。


 それ故、長年敵対していた魔族を葬りたいと考えていても各国は中々手が出せなかった。

 だが、ザガル国はそれを成功させる。何百年ぶりの快挙か? 成功させた時点で、その国の魔法士は優秀だと認識させ、更に多大な恩恵を身に纏った戦力を手に入れる。


 そんな国のトップ。溢れる威厳を見て、ユリスは顔を顰める。


(よく言えば強欲、悪く言えば怠惰―———なるほど、大罪に勇気を添えた名君……当然、鼻が高い事だろうな)


 強さを求めた強欲。強者を呼び寄せることで強くあろう事を放棄した怠惰。

 だが、それでも成功した恩恵は大きい。現に、勇者を召喚したことによって、ザガル国の取り巻く環境は一変した事だろう。


『我々は敵同士ではない。だが、この武闘祭に限ってはそうではない。互いが高みを目指し、己を主張し、それぞれの母国に尽くさんとする―———』


 そんな国王の話を、グラスに入っているワインを飲まずにユリスは耳を傾けた。



 ♦♦♦



「……さてと、セシリア達のところに戻るか」


 ワインを飲み干し、ユリスはグラスをテーブルに置いて元居た場所へと戻る。

 国王の話が終わり、再び会場が交流の場に戻る。相変わらず、王女であるエミリアの状況は変わっていないようだが、そこに踏み込もうとする気がないユリス。


 ちらりと見てみれば、エミリア自身も助け船を必要としてないかのように笑みを浮かべている。

 きっと、エミリアはエミリアで交流しておいた方がいい理由でもあるのだろう。


(まったく、王女様は大変だよな……)


 そんな事を思いながら、ユリスは会場を横断する。

 その時、不意に視界に入る集団が視界に入った————


『勇者様! お会いできて光栄でございます!』


『お、お初にお目にかかります聖女様! わたくし、ガラド国伯爵家のロックスです!』


 他国の学生服を着た二人。滅多に見る事のない黒髪の青年に、青く輝く水色の髪をした少女。

 そんな二人が、溢れかえる人達に囲まれている。


『はは……』


『もうっ! おねぇちゃんは妹に会わなきゃいけないのにっ!』


 青年の方は対応に困っているのか苦笑い、少女の方は嫌な顔を隠そうとせずに文句を放っていた。

 それでも、お構いなしに周りの生徒は二人を囲む。二人と接点を作るのに必死なのだろう。

 やがて、少女の額に浮かんでいた青筋が消える。


『邪魔……しないでよねっ……』


(おぉ……怒ってる怒ってる)


 傍観者に徹しているユリスが少女を見て顎に手を当てる。

 どうやら、青年の方は我慢と社交が分かっているようだが、少女はどうやらそうではないらしい。

 水色の髪をした少女は背中に携えたメイスに手を伸ばした。


(ま、自業自得……なんだけどな)


 今から少女が何をしようとするのか、なんとなく察するユリス。

 結局は相手の話も聞かず、自分の勝手をし過ぎた周りの傲慢な生徒達が招いた事だ。これからどうなろうが、ユリスには関係ない。


 だが————


「聖女って単語を聞いたからには、俺としても放置はしたくないんだよなぁ―———傲慢スペルディア


 ユリスはその少女達の座標を己の横に移動させる。


「きゃっ!」


「うわっ!」


「じっとしとけよお二方?」


 ユリスは一瞬にして二人の腰を抱える。

 そして、そのまま会場外まで座標を移動させたのであった。



 ♦♦♦



「————さて、これでよかったかなお二方?」


 バルコニーに出て、すぐさま王城の屋根上まで移動したユリスは、腰に抱えた二人を下ろし、そのまま言葉をかける。


「えぇーっと……?」


「あれ……? どうして私はここにいるの?」


「その方法は秘密ってことでよしなに」


 疑問符を浮かべる二人だが、あの場にいたという事は自分の敵。

 そんな相手に手の内を晒したくないユリスは傲慢スペルディアの事を秘匿する。


「それより、要らぬお節介だったらごめんな? こっちの女が限界だと思って介入させてもらったんだが……」


「……ミカエラ、やっぱり我慢できなかったんだ」


「だって! 私は妹成分を補充しに行きたかったのに、皆が邪魔するんだもん~!」


 両手を縦に振り、不満と仕方ないをアピールする少女。青年は額に手を当てて、困った表情をしていた。

 ……この青年も、だいぶ苦労をしていそうだ。


「あ、ごめんね……正直、僕もあのままだと慣れてなくて困っていたんだ。ありがとう」


「私からもありがとうね~、これでセシリアちゃんに会いに行けるよ~」


(セシリアちゃん……か)


 ユリスがその名前を聞いて、少しだけ笑みを浮かべる。


「僕の名前はタカアキ・オウサカ。一応、ザガル王立魔法学園の一年生だよ」


「ミカエラ・ロズウェルだよ~、気軽におねぇちゃんって言ってね♪」


 二人がユリスに向かって自分の名前を教えた。かの勇者と聖女の名前に一致する。ユリス自身、その名前に少しの驚きと嬉しさを思ったが、それを表情に出さず続いて口を開いた。


「ユリス・アンダーブルク。ラピズリー王立魔法学園の一年だ」


「ユリス・アンダーブルク……もしかして、セシリアちゃんがお世話になってるあのユリスくんなのかな?」


「……セシリアからどう聞いているか分からんが、多分そのユリスで間違ってねぇよ」


 ユリスが答えると、ミカエラが訝しむ目を向ける。それは見定めをしているような、探るような目つきであった。

 セシリアを呼び捨てにしていたからなのか、それともセシリアから何か聞かされていたからなのかは分からない。


 そして、徐にミカエラが背中に携えたメイスを手に取り————


「あははっ! ユリスくんって強いんだよ……ねっ!」


「ちょっ、ミカエラ!?」


 いきなりそれを思いっきりユリスに振り下ろした。

 姿を現したメイスは夜にも関わらず白く輝いており、先端には無数の棘がオプションについている。

 凄まじい勢いで振り下ろされたメイスを食らってしまえばひとたまりもなさそうだ。


 嬉々とした笑み。狂気と呼ばれそうな表情に変わったミカエラを見てタカアキが驚愕する。

 だが————


「おいおい、それが聖女の顔かよ……セシリア以外の聖女って、みんな戦闘狂バトルジャンキーなのか?」


 そのメイスは実態を捉えることなく空を切る。

 完璧に捉えたと思っていたミカエラは目を見開き、タカアキはすぐさま後ろを振り返った。


「これじゃあ、セシリアの好みを聞けねぇじゃないか。同じ聖女同士だったら知ってるかもって期待したんだがなぁ」


 そこには自分達を見降ろし残念そうにポケットに手を突っ込むユリスの姿があった。

 先ほどまで目の前にいたはずなのに、一瞬で。その光景に、タカアキは先ほど自分達を連れてきたモノと同じなのかと思う。


「それなら知ってるよぉ~! 最も、タダで教える気にはならないけどねぇ~」


 メイスを下ろし、ミカエラも続いてユリスを見上げる。


「なら、どうしたら教えてくれるの? こちとら、セシリアに好いてもらえる為に切羽詰まってるんだ」


 いつ、どこでセシリアが想い人を作るか分からない。

 自分が悠長に、聖女と並べる為の地位と力をつけている間に、もしかしたらセシリアが他の異性に靡いてしまうかもしれない。


 だからこそ、ユリスは知りたいのだ。

 セシリアに好かれて、自分を選んでもらえるように。自分が隣に立つまで待ってもらえるように、セシリアがどんな相手を好きなのかを。強欲の名の下に。


 本当は、直接聞くのが一番なのだが————それは流石に恥ずかしいと思うユリス。

 それに対して、ミカエラはその狂気じみた笑みを一層深めた。


「そうだね~、そうだよね~! だったら、おねぇちゃんに勝ったら教えてあげるよ~!」


 そして、ミカエラは屋根を駆ける。

 メイスを構えて、上に立つユリスに突っ込んでいった。


「……あまり、女の子に乱暴はしたくないが————それが条件だったら、ぶっ倒してやるよ戦闘狂バトルジャンキー


 好きな人の情報を知りたいという、強欲なユリス。

 それが、初対面の聖女に相対した。


「……はぁ、まったくもう」


 そんな二人を見て、頭を抱えるタカアキだったが————二人は、止まる気配がない。


 まだ―———武闘祭は始まってもいないのだ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 聖女が一方的に貴族をぶん殴ったらどうなるんだろう? [一言] 普通女子は好きでもない男の膝に乗ることもなければ膝枕をしてやることも無いということを理解しよう
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