男達の密談
日が沈み、辺りがすっかり夜になった時間。
この時間は皆が食事を終え、各自自分に割り振られた寮でまったりとした時を過ごしていることだろう。
そんな中、一学年の寮棟の一室ーーーーそこでは何故か他の部屋とは違い、部屋の明かりが消されていた。
「……おい、ユリス。俺達はついにこの時間を迎えたぞ」
「あぁ……そうだなリカード」
一騒動終わったユリス。
現在、部屋の明かりを消してランプのような魔道具を使い最低限の明かりを灯していた。
「王立魔法学園に入学し、色んな事があったが、俺はこの時の為に頑張ってきたと言っても過言じゃない」
ユリスは正面に座る同居人であるリカードを見据える。
「俺達は男だ。男とは、何事にも臆さず前に進む義務がある」
「分かってるさ相棒。だから俺は拳を握りしめてこの時を待っていたんだ」
「フッ……流石だぜ相棒。それでこそ、俺が認めた男だぜ」
二人の顔には決意と逞しさが描かれていた。
それはさながら戦場に向かう一兵のよう。愛し人の元に生きて帰ってくるため、己の野望を叶えるためーーーーその思いが重なる。
「ユリスーーーー」
「あぁ、行くぞーーーー」
「「お風呂場を覗きに!!」」
……まぁ、その逞しさは些か煩悩の元に生まれていたようだが。
「同年代の子の裸は何物にも耐え難い価値があるからな!」
「そうだ! 覗くことに価値があるんだぜ!」
女の敵とは、正しくこの2人を指す言葉なのだろう。
「まずは作戦会議だ。無策に突撃しても無様に散るだけだからな」
「分かったぜユリス」
この学園の寮は全部で8棟。
一学年ごとに一棟ーーーーそれが男女別れている形になっている。
「この時間は、女子が入浴する時間。そして、お風呂場は寮の地下ーーーーその為、外から覗くのは難しい」
「ユリスの瞬間移動みたいなやつで侵入するのはどうだ?」
「すまないリカード……あれは視界に入らないと座標を持ってこれないんだ……」
「いや、俺の方こそすまねぇ……ユリスに任せっきりはよくねぇからな」
「リカード……」
謎の友情が深まった瞬間である。
「そうとなれば、真正面からの侵入になるのか……」
リカードはいたく真剣な表情で頭を悩ます。
寮はリカード達みたいな輩が侵入できないように、警備と建物の構造はしっかりとされている。
外壁を登ろうにも突起がないため登れず、寮唯一の入り口は警備員と寮母が常に監視している。
故に、侵入経路が一つでそこは厳重ーーーー風呂を覗きにいくのは、中々に難しい。
「諦めるのは早いぞリカード」
「どうやら……ユリスには、考えがあるようだな」
「あぁ」
ユリスはリカードににひるな笑みを浮かべる。
そして立ち上がり、薄暗い室内の中で不遜に構え始めた。
「俺は大罪を極めし魔術師、ユリス・アンダーブルク! こと色欲を満たす為の魔術はすでに編み出してある!」
「おぉ……!!!」
自信満々に語るユリスに、リカードは感嘆とした声が漏れる。
それほどまでに、今のユリスはリカードにとって頼もしくあったのだ。
「見てろ……俺とお前の色欲、絶対に満たしてやるーーーー色欲!」
そう高らかに大罪の名を口にすると、ユリスは淡い光に包まれる。
そして数秒の時間が経ち、その淡い光は消え去っていく。
「お、おぉお……!!!」
リカードは立ち上がり、先程よりも歓喜に溢れた。
リカードの目の前にはユリスがいたはず、なのに今となってはーーーー
「こ、これ……セシリアちゃんじゃねぇか!?」
サラリとした金髪に小柄な体躯、愛嬌と慈愛を兼ね備えた優しい顔立ち、服装もこの学園の女子の制服だった。
「そう! これはありとあらゆる色欲を満たす為に編み出した大罪の魔術ーーーーその効果は『意図した相手の姿形に変える』というものだ! これなら堂々と女の子に扮してお風呂場を覗きに行くことができる! 楽園を拝めるんだ!」
大罪の魔術ーーーー色欲。
それは、己の色欲を満たす為に姿形を変えることで相手の好みに合わせると言うものだ。
大罪の魔術の中では攻撃的ではないものの、隠密や潜入に特化し、相手の警戒心を削げる優れもの。
ユリスが娼館でお姉さんに好かれる為に編み出した色欲の魔術だ。
「もちろん、これは俺だけじゃないーーーーリカード! お前の姿も変えられることができる!」
セシリアの声音で、ユリスはビシッっとリカードを指差す。
その言葉に、リカードは表せれない歓喜が込み上げてきた。
「ありがとう……! ありがとうユリス……ッ!」
「言うなリカード……俺達は、共に楽園を目指す同志じゃないか」
涙ぐむリカードを慰めるユリス。
その光景は、熱い男の友情のように見えるが……内容が不潔である。
「まぁ、この格好で寮からでたら怪しまれるからな……とりあえず、色欲を使うのは寮を出てからだ」
男子寮に女子が入ることは認められている。
ただし、寮母の許可がいるので許可をしていない女子がこの寮にいたら怪しまれてしまうだろう。
ユリスは指を軽く鳴らすと、その姿が一瞬にして元の姿に戻る。
声も服装も造形も、元のユリスその人。
「じゃあ行くぞユリス! 共に楽園に向かうぞ!」
「あぁ!」
そして、二人は固い決意と覚悟を背負い、女子寮に向かうために足を踏み込む。
するとーーーー
「そこまでですっ!!!」
勢いよく、鈍い音を出しながらユリス達の部屋のドアが思いっきり開かれた。
そこに現れたのは、サラリとした金髪が目立つ可愛らしい少女。
先程までユリスが変化していた本人でーーーー
「セ、セシリア!?」
「お二人とも、動かないで下さい!」
セシリアの剣幕に押され、思わず両手を後ろに組んで膝をつくユリスとリカード。
さながら、槍にでも向けられているような気分だった。
「俺達はなにもしてないっ!」
「む、無実だぁ!」
「私達、まだなにも言っていないんだけど……」
そして、その後に続いて今度こそはヒョコヒョコ動く長い耳の女の子まで現れる。
お風呂上がりなのか、首元にはタオルが巻かれていて、その顔は若干火照っていた。
「ど、どうしてセシリアちゃんとミラベルちゃんがここに……!?」
「お二人が……そ、その……お風呂を覗くなんて、穢らわしい事をしようとしていたからですっ!」
顔を赤くして、捲し立てるセシリア。
どうやら、二人がお風呂を覗きに行こうとしていた事がバレているようだ。
「しょ、証拠はあるのかいセシリア!? 俺達がお風呂場を覗きに行こうとしたその証拠が! 出せるもんなら出してみなさい! そして、出せないのなら謝って! 無実な俺達に罪を着せようとしたんだから謝って!」
必死に目を泳がせながら言い放つユリスのその姿は、何処と無く罪から逃れようと必死になる悪徳商人を連想させた。
「証拠ならありますっ!」
そして、セシリアは懐から小さなイヤリングのようなものを取り出した。
そして、装飾の中の一部を押すとーーーー
『そう! これはありとあらゆる色欲を満たす為に編み出した大罪の魔術ーーーーその効果は『意図した相手の姿形に変える』というものだ! これなら堂々と女の子に扮してお風呂場を覗きに行くことができる! 楽園「エデン」を拝めるんだ!』
「「……」」
ユリス達は言葉を失う。
そこから聞こえてきたのは、意気揚々と声を張り上げるユリスの声だったからだ。
「これを聞いても、まだシラを切りますか?」
勝ち誇った顔でセシリアが問う。
「それは音声を録音する魔道具……どうして、それが……ッ!?」
「ユリスのお母様からいただきました! そして、ユリスの服にこっそりつけていました!」
「プライバシー……ッ!」
どうやら、ユリスのプライバシーはいつの間にか侵されていたようだ。
「さぁ、お二人とも! 今からお説教です! きっちり反省するまで終わりませんんからね!」
「「ヒィッ!?」」
二人はセシリアのお説教と言う単語に怖じ気づく。
だからユリスはすがるような目で横で眺めるミラベルに訴えた。
「な、なぁ……ミラベル? お前なら、俺達の気持ちを分かってくれるよな? 助けてくれるよな?」
「いや……ごめんね? 流石に分かんないや。そ、それにーーーー他の女の子の裸を見ようとするのは……ちょっと許せないかな。だから、怒られようね?」
「そ、そんな……」
頼みの綱であったミラベルに一蹴され、悲しみの声を上げるユリス。
そしてーーーー
「お説教です! 懺悔するまで終わらせませんからねっ!」
「「いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいやぁああああああああああああああああああああっ!!」」
男子寮に、ユリス達の絶叫が響き渡る。
まだ、ユリスの入学初日の夜は続く。




