36 大戸3
36 大戸3
学園の正門は大きな神社の境内に入るための門、という感じだ。鳥居は無いけど両側に木造の塀、と言うよりも大きい…羅生門とか東大寺の門を小さくした感じだろうか、そこに門衛さんが二人居た。
別に金剛力士像の様な出で立ちではなく、槍と軽めの鎧を纏ったふつーの門番スタイルである。 アカデメイアのカードを出して見せつつ通過しようとする。こちらのカードの存在を視認した時点で門番チェックは終わりのようだ。たぶん出入りが激しいので、カードの存在さえ分かれば通している感じだろう。アカデメイア間で転移が始まっている以上、生徒の個人管理は困難だろうしなぁ。
正門から出て大通りに出た。例によって、学園の敷地は高い位置にあるようで、町並みがある程度見渡せる。良く区画整理がなされた、江戸時代から明治にかけての建築の様に思われる。時代劇に出てくる母屋な感じ、茶屋、飯処、口入屋?、銭湯、鍛冶屋などが見てわかる感じである。明治から日本がそうだったように、西洋式の建物も散見される。レンガの建物。モルタル?セメントっぽい物を塗ってある建物などもちらほらと見えている。行き交う人々は和洋が2:1くらいの割合である。洋風の服装をしている人物は若い者が多い。たぶん転生者がメインかな。
まずは飯処に行ってみる。商売関係の建物は暖簾が出てるため分かりやすい。中に入ってみると。うどん、葛もち、お茶以外は在庫切れと看板が出ていた。それでも転生者らしき亡者たちが…中には涙を流しながらうどんを啜っている者もいる。私もここで晩御飯かな。
「いらっしゃいませ~、あ、お二人様ですか?あちらへどうぞ…」
割烹着&エプロン&和帽子?(後ろに袋が垂れる奴)の、地味な白一色ではなく、色や模様が入った和服で可憐さが出ている給仕さん、16歳前後、いや、18歳前後かな?背が小さく可愛らしい娘に案内された。
黒髪で、束ねて肩に流している。眼は色素が薄く茶色の虹彩である。
テーブル席に着く、速攻でうどん二人前を注文する。暫くして、おしぼりとお茶を持って来てくれた。これだ、おしぼりは絞ったままで、木製の受け皿に乗せられていて、捻じれたままホカホカと湯気を揚げている。お茶は番茶だ。
おしぼりで手を拭く、お茶を火傷しない様にずずっと一口。旨い。蕎麦とか揚げ物とか丼物が無くとも、和の心は十全に満ちている。そこらの一週間でホームシックを拗らせた転生者共とは違う、6年(俺の意識では最近だけどね)越しの和食との再会っ。
「嗚呼~~~~~~んっ」
うどんを前につい声が出た。武者震いに似た何かだろうか、まぁなんでもよかろう。そして、うどんが眼前に来たりて私と相対した。君と私は一期一会。
「頂きます」
暫くやってなかった両手を合わせる挨拶をする。私はこの時に箸を親指と人差し指の間に挟む。高度経済成長期のサラリマンに多い仕草と思う。
旨い、以上。
頼んだうどんはざるうどんにしておいた。かけうどんは具材が少ないので、てんぷら、唐揚げ、角煮などが用意できないとの事なので今回は見送った。
ふっ、全力のうどんにしか興味ありません。ざるうどんに七味とネギは付けてくれた。麻子仁は嫌いなので入れない(一番でかい奴)。食べていると、自然と頬を涙が伝う。七味は少ししか入れてないが…。
食べ終わってみて、うどんの茹で汁を持って来てくれた。なるほど、うどんも自家製ならこうなるわけか、汁の器に茹で汁を入れる、混ぜる、飲む。最後に茶で流す。
「ふぅ…」
シエラは私に習いながら食べていた様だ。肉は入ってないのに結構気に入っている様子である。和食の締まった感じ…とでも言うのだろうか、ワビサビの中にある糧の良さの一端でも分かってくれたなら幸いだ。プロになれば卵掛御飯の良さが分かる。シエラを和食でゆっくり食育していってやろう。
「御馳走様」
もう一度手を合わせて挨拶する。今度は箸は挟まない。一人前で汁まで飲んだので、またお腹がポッコリしてしまった。うくく…天界ネクターを飲んで落ち着ける。
御勘定は銀貨二枚だった。うどんにしてちょっとお高いのは物価が高いからかな。看板のお品書きの値段に上方修正された痕跡がある…開拓に貢献せねば!店を後にする。
東の方へ歩いていく。茶屋(団子などの甘味も出している和風の喫茶店)などもある。また機会があったら行ってみよう。道具屋、鍛冶屋、武器屋、なんかもある。
…道具屋に入ってみる。和風のアイテムが沢山置いてある。とりあえず箸を数膳、食器、織物、和傘、畳、和服、着物、ちゃぶ台、…と、品切れにならない様に、しかし欲しい物を欲張って買った。
鍛冶屋、武器屋は別にいいかな?一度に探索しようとするのは無粋かな、と思うので、町の観光はこのくらいにする。外堀くらいの広さ…とか掲示板で言われていたが建物があるのは、10~20キロメートルくらいだろうか、堀を上手く使って、開拓していってるみたいだ。堀で囲んだ内側は比較的安全なようで、しっかりとした居を構えている建物が見られる。クイックスの要領で開拓していってるのか、ほーん考えたな…。
[作者から注釈]クイックス(QIX)を知らない世代も居るだろうから説明します。たぶん平成が始まってすぐの頃に出てきたゲームです。ハードはwindows95 98 ファミコン、スーパーファミコンあたりだと思います。作者もそんなに詳しくない…w (;´・ω・)。
自機は点や小さいアイコンで上下左右に移動ができます。画面に切り取り線を伸ばしていき、四角で囲むと内側が自分の陣地になるので、自分の陣地をどんどん広げていくゲームです。四角を作ってる最中に、囲もうとしている線に動いている敵が接触するとミスになります。ですから、最終的に敵を小さい領地に押し込めるのがゲームの流れです。検索してフラッシュゲームでもやってみるのが早いと思います。
外側になっていくほど畑や水田、風車小屋、屯所、簡易的な柵、物見櫓などが多くなっていく。
建物が密集してないので遠くまで見渡せる。しかし遠くに見える門と櫓、堀までは結構な距離がある。そちらに向かう馬車も無さそうなので、シエラに抱えて貰う。いやはや、毎回助かります。
素早く歩いていき、四十分ほど東に移動して、大き目の堀とそこにかかる橋と門のセットまで来た。両側に櫓があり、門番も詰めている。門はまだ昼下がりだからか開いていて、チェックはしないようだ。魔物や脅威が攻めてくれば見通し良くてすぐ分かるからね。
そのまま通過する。
そこからは道と畑、水田、風車小屋、あぜ道、茶畑、小屋がポツポツといった具合である。
20分程そのまま歩いて八束太刀から聞いた開拓村らしき場所に着いた。
少し広めの新しい村という感じ。簡素な木造建築がほとんどで、数軒がっしりとした瓦屋根もあるが、茅葺きの屋根の建物も結構ある。最前線ではなくなったとは言え、発展と拡充はまだまだ不十分な様だ。
物見櫓はしっかりした物が二つ建っている。このあたりになると堀を作るには高低差があり難しい様で、太い木を並べて打ち込んだ柵に、竹やりを槍衾状に生やしている柵で囲って安全圏を確保しているみたいだ。コストパフォーマンスに優れている。柵の合間にある門は、大戸方面への門は開いているが他方は閉まっているようだ。大戸方面の門も夜になれば閉めるだろう。門をくぐったあたりで軽武装のおっさんがこちらに駆けてきた。
当然いきなり切りかかるような様子はない。
「やぁ、こんにちは、アカデメイアの人かな?」
「そうだよ、私はこの村で道具屋をしてみようと思って来たけど、村長さんに話に行った方がいいかな?」
「助かります。最近開拓村に行く人が増えてきたけど、物は急に増えないからね」
自警団風のおっさんに連れられて村長宅へ。村長は50歳くらいの、頭も寂しさがみられるおじさんであった。特筆することのない村長トークを展開した。
こちらの目的を告げると、村は不便だけど好きにしなさい、しかし、夜は柵の外は危険なので出歩かないように、と言われた。
なので早速、うーストア一号店を村の中の開けた所にボンと出す。毎度おなじみのアムリタンZを沢山出す。外装が寂しいので店側の屋上に2メートルくらいの大きさのうーたん人形と、先ほど買った和傘を参考に、大きい和傘を作り、うーたん人形ともども固定する。ついでに屋上から暖簾も垂らそう。「兎蔵」我ながらいい仕事をした。
内装も整える。うーたんを全員出して手伝わせる。棚にうーたん達が買って来た物を陳列させる。
商品スタンプを二種類作る。万引き防止用のアレと原理は同じだ。会計で解除のスタンプで商品の魔法刻印を解除しないといけない。不正に解除しようとしたり、そのまま店の外に出ると魔力の続く限り「うー、うー、うー」と鳴きつづける。うーたん語で『ドロボウ!、ドロボウ!』と言ってるらしいよ。商品は値段で棚を区切り、硬貨の絵を描いた板を付けておく。そんなに大きな店でもないし、値段で分類した方が良いかな~。
商品の値段が仕入れ値の1.2倍くらいになるように陳列させる。並んで行く商品を見ると、道具屋の娘のわたしから見てもやけに安く仕入れた様に思える。
こいつら、マルタで借金のカタの押収みたいな事してないだろうな……。軍の徴発と買い上げの中間みたいなやつ。心配じゃぁ。
「うーたん、ちゃんとお金払って買って来た?変に恐喝したり、買い叩いたりしてないよね?」
「うーうぅうー、うううー」
良く分からないが…普通に買って来たみたいだ。アウトレット品や掘り出し物、供給が多くて安かったもの、半端物などを上手く買って来たらしい。数時間だったよね?うーしか言えない癖に…でもかわいいから許す。赦した。
っと、私の作った武器防具も並べるか、ゴムの盾は…銀貨5枚かな、軽くて厚いからお値打ち品だよ?これ打ち直しとかできないから消耗品だけどね。
ステンレスパイプは…こちらも銀貨5枚かな、握りの部分にゴムグリップが付いている。中にゴムの棒も通してセットで売ろう。これで相当酷使しても大丈夫だろう。
聖剣ヒノキボルグはウチの看板ですからねぇ~、一本だけレジの脇に置いて、白金貨100枚で売ろう。これでも良心的ですよお客さんっ聖剣、魔剣の類は安い物でも白金貨500枚は下らないですぜ。
おーし、これでもう開店できる!取りあえず一階、二階にうーたんをそれぞれ二匹、制御室に二匹、ぶらぶらと動き回って巡回に二匹、予備役に二匹で十匹でひとチームだ。
ピンクとみずいろで交代制にしよう。店長はキング・うーたんな。私はオーナーですぅ。近衛のうーたんが居なくなってしまったのでうーたんを更に作る。黄色のうーたん、茶色のうーたんを同様に10体作る。
それと、制御室と、マルタの私のフロアの実験区画の隅とで固定型の転移門を造り、接続する。この固定型の転移門は作成には結構な魔力を消費した。
フレームと扉はオリハルコンで、大きな魔水晶を扉の上にはめ込んであって、扉を動かす時に魔力を消費して時空間を向こう側と繋げる。忍者屋敷にある隠し扉の様になっていて、上から見て反時計回りにしか回らず、右側を押して進むことしかできない構造になっている。
通る時に時空を繋げる時間が少なくて済むし。途中で切れたり、腕が千切れたりはしにくい設計である。魔水晶の魔力が減ると扉は動かなくなる安全設計である。
これで私の仕事はひと段落かな?そろそろおねむの時間だが、少し一階で人が来るまで待ってみようか。鉄道も銃も出回っていない世界のこんな開拓村に、コンビニ風の雑貨屋があるなんてすごい異質だよね。ガラス張り、明るい光が漏れて…上には兎さんが傘をさしてて、店員は骨格が謎な兎さん、と、たまに出没する幼女とメイドか…いいね!