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4 公爵・・の実態 

 マイクが拳を握って力説した言葉を、シェスカリーナはニコッと笑って「ありがとう」と、答えた。その様子を(すが)めた目で見ながら、ラディエルが口を開いた。


「マイク、お前は(あるじ)の幸せを願う気はないのか」

「もちろん幸せになって欲しいと思っておりますよ。ですが、それ以上に国には安定した状態でいてほしいのです! 今ここでシェスカリーナ様との婚約を破棄したら、その後のあれこれが私にも(・・・)かかってくるじゃないですか。そんな面倒ごとを推奨する侍従がどこにいますか!」

「……お前は、自分かわいさかよ」

「いけませんか!」


 王太子主従のコントを冷めた目で見るシェスカリーナにミーナが言ってきた。


「シェスカリーナ様、ここまで頑張ってこられた王妃教育を、無に帰するようなことはおやめになった方がよくありませんか」


 ミーナのことも冷めた目で見て、シェスカリーナはもう一度カップを持ち上げた。その優雅な手つきにミーナは見惚れて言葉を止めた。黙っていれば天使か妖精かと見間違いそうな可憐な容姿と、令嬢として身に着けた極上の所作によって、見惚れさせて言葉を失わせるのはたやすいことだった。一口紅茶を口に含み、ソーサーへと戻してから、ヒタッとミーナの顔を見据えるシェスカリーナ。


「馬鹿なことを言わないで頂戴、ミーナ。うちでの教育に比べたら、王妃教育なんて簡単なことよ」

「は?」

「それどころか、王妃様には『公爵家ではないのだから楽にしてね』と、毎回お茶会のマナーを教える名目で、休息時間を作っていただいていたのよ」

「えっ?」

「母からのあれこれに比べたら、王妃様のマナー講座なんて、ぬるい……やすい……癒しの時間……」

「……シェス、語彙が飛んでるぞ」


 何を思い出したのか、恍惚とした表情で胸の前で手を組んで「王妃様、安らぎをありがとう~」と言い出したシェスカリーナに、ラディエルは呆れた顔で軽く注意を促した。ハッとして表情を改めると、シェスカリーナはコホンと咳ばらいをした。


「ミーナ、あなたはお母様からわたくしが指導を受けているところを、見たことがあったかしら?」

「ええっと……ございません」


 大体そういう時は夫人付きの侍女がいるので、ミーナはシェスカリーナの部屋の片づけなどをしていた。その返答にシェスカリーナはニッコリと笑った。


「そう、それでは仕方がないわね。ウフフ。ねえ、先ほどの話で、不思議に思わなかったのかしら。なぜ、伯爵家の娘であるお母様が、陛下の婚約者になっていたのか」

「公爵夫人は伯爵家の出だったのですか?」


 ミーナが驚いたように聞いた。その言葉に尚更笑みを深くするシェスカリーナ。


「ええ、そうなのよ。母の実家はね、もともと武門の家系で、その子供たちは何かしらのスペシャリストに育つのよ。伯爵家を継いだ伯父は槍の名手と言われているわ。母の弟の叔父は弓の名手と参謀として名を馳せているの。もう一人の叔父は……ウフフッ、陛下に遠慮して剣の腕前はそれほどでもないと見せているけど、本当なら剣聖と云える使い手なのよ。そんな家で育った母よ。何に秀でていると思うのかしら?」


 素晴らしい笑顔で話していくシェスカリーナ。対するミーナは嫌な予感に顔色を青ざめさせている。


「ええっと、女性ですから……ナイフ、とか?」


 無難な武器を答えたけど、シェスカリーナの口は角度を変えた。


「ウフフッ、もちろんナイフも扱うけど、基本は体術と暗器使いよ」

「はえ?」


 ミーナの口から間抜けな声が漏れた。それを気にした様子もなく、シェスカリーナは楽し気に言葉を続ける。


「お母様の若いころは、|まだ《・・》、暗殺などの心配があったそうだから、王家を守るためにお母様が婚約者に選ばれたのですって。でも、陛下の側近候補のお父様と顔を合わせるうちに、お父様に恋心を抱いたそうなのよ。陛下もお父様の親戚で我が国の学園に留学してきた王妃様とお会いして、守ってあげたいと思われるようになったのですって。なので、陛下とお母様は周りからの脅威をつぶして回って、安全を確保した上で婚約を解消して、それぞれ想う方と結婚をしたのよ」


 素敵でしょうと、副音声が聞こえた気がしたけど、ミーナはそれどころではなかった。背筋を冷たい汗が流れていくのを止めることが出来ない。ウフフと無邪気な笑みを浮かべるシェスカリーナに、恐怖の混じった視線を向けた。


「だからね、わたくしもお母様にいろいろ教え込まれたわ。暗器の使い方や体術は楽しかったのよ。このプロポーションを維持できるのはそのおかげだと思うもの。でもね、各国の軍部のことまで必須項目として教えてくれなくていいと思わない? まあ、でもそのおかげでロイ様とお話が合うのだから、よかったと考えるべきかしら」

「そうだな~、私も夫人に体術を教わったおかげか、気配に敏感になった気がするよ。この間も護衛の隠密の気配を感じて、すわ暗殺者が来たかと思って捕らえてしまってな。父と隠密の長に怒られたよ。敵と味方の気配ぐらい判別できるようになれってさ」


 ラディエルもニコニコと笑いながら言った。この言葉を聞いたマークの顔色も心なしか悪くなったように見えた。


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