表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

2 お互いに婚約者に不満はないが、そのほかのことに不満があった

 ラディエルは自身の侍従のマイクとシェスカリーナの侍女のミーナが、落ち着くのを待ってから口を開いた。


「シェスカリーナも同じことを考えていたとは嬉しいな。やはり私達は気が合うね」

「ええ、本当に。ラディエル殿下とは良好な関係を築いていただけに、わたくしの我が儘を申すことは気が引けましたのよ」


 たおやかに扇を口元に当てて笑うシェスカリーナに、ラディエルはため息を吐いてから言った。


「シェス、そろそろ令嬢ぶりっ子をやめないか? 今更腹の探り合いもないだろう。さっさと方針を決めて(・・・・・・)対策を練った方が、建設的じゃないかい」


 ラディエルの言葉に、シェスカリーナは表情を消してから、ニヤッと悪く見える笑みを浮かべた。


「そうね。今更取り繕うこともないわね。ラディ、望む未来(・・・・)のために力を合わせましょう」


 シェスカリーナが差し出した手を、ラディエルもガシッと掴んで握りこんだ。それは手をクロスさせるようにして、まるでスポコンの熱いライバル同士がするような握り方だった。そこに水を差すようにミーナが声をかけてきた。


「あの~、ちょっと待ってください、シェスカリーナ様」

「何かしら、ミーナ」


 眼光鋭く振り返ったシェスカリーナに、ミーナは頬を引きつらせた。


「えーと、私が言うのもなんなのですけど、シェスカリーナ様は王太子殿下との婚約に、ご不満があったのですか」

「いいえ」


 きっぱりと答えたシェスカリーナに、ミーナは首を傾げながら聞いた。


「えっ、と、では、このまま婚約を続けられたらいかがでしょうか」

「あら、それは駄目よ。わたくしもラディも幸せにはなれないわ」

「はっ?」


 ミーナは目を丸くして動きを止めた。もう一度シェスカリーナの言葉を脳内で反復してみる。その間にマイクがラディエルへと問いかけた。


「ラディエル殿下、シェスカリーナ様との婚約を無かったことにしたいということは、殿下のほうにご不満があるのですか」

「お前は何を聞いていたのだ。いつ、私が、シェスに不満があると言った」

「ええ~と、言ってはいないですね。それどころか、(はた)から見ていても非常に相性が良いように思われますけど」


 ラディエルは振り返ってマイクを見ていたが、顔を(しか)めてマイクへと言った。


「こうして話すのはなかなか面倒だな。マイク、それからミーナと言ったか。いちいち振り返るのでは話が進まん。横に移動して私たちの視界に入るようにしろ」


 言われた二人はお互いの顔を見てからそれぞれ(あるじ)の左側の位置へと移動をした。それを満足そうに眺めてから、ラディエルは続きを話しだした。


「マイク、私とシェスはそれほど仲が良いように見えたか」

「はい。いつもお二人で仲良くお話をなさっており、私はそれを微笑ましく見ておりました」


 真面目な顔で答えたマイクに、ラディエルは少し考える素振りを見せてから聞いた。


「その仲良く話すというのは、どのように見えたのだ」

「えー、どのようにとは?」

「仲睦まじい恋人同士のように見えていたのか」

「ええっと、はい」


 マイクは主の問いに戸惑った顔をしながらも、返事をした。


「本当か? 本当に恋人同士の語らいに見えていたのか?」

「えーと、どうなのでしょう、か?」


 自信なさげに答えたマイクは視線をミーナへと向けた。それに気づいたラディエルは、ミーナのことをヒタッと見据えた。


「そなたにはどう見えたのだ、ミーナ」

「ええっ! 私ですか? えーと、えーと、私も殿下とお嬢様の仲がよろしいなと、見ておりました」


 目を白黒させてミーナは答えた。今までシェスカリーナについて、何度もラディエルと顔を合わせることはあった。だが、今日のように直に話すというのは初めてのことである。普段シェスカリーナと主従の関係を超えた友人として接することがあるミーナでも、一国の王太子と直接話すなどということは、そうそうないことであった。


「愛情を持った交流に見えていたと?」


 再度の問いにミーナは考えた。


「えーと、愛情はあると思います。それは恋愛的というより、親愛……友愛……家族愛に近い感じに見えました」

「ほう~」


 ミーナの答えにラディエルは感心したように声を出した。そしてマイクへと目を向けて、皮肉気な笑みを浮かべた。


「さすがシェスが信頼を寄せる侍女だな。(シェス)のことをよく見ている。私の侍従が本質を見極められないボンクラだとは思わなかった」

「殿下~」


 揶揄(やゆ)するように言われたマイクは情けない声をあげた。


「まあまあラディ、わたしたちの気持ちを認識してもらったことだし、話を進めましょう」

「そうだな。余計なことを話している場合ではないしな。何より時間が勿体ない」


 頷き合うラディエルとシェスカリーナに、もう一度ミーナが声を挟んできた。


「待ってくださいってば、シェスカリーナ様! お互いに不満がないのであれば、ご結婚されてもよろしいのではないですか。ここまで王妃教育を頑張ってこられたことですし。大体政略結婚に最初から愛情を期待する方がおかしいのです。友愛が恋愛感情に変わることだってあります。信頼があれば幸せな結婚が出来ると思います」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ