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1 まずは当事者同士の話し合い

あらすじにも書きましたが、この話は婚約破棄ものではないです。

円満に解決するために、あれこれする話でもないです。

基本はサロンの個室での会話になります。

波風を立てずに平和的かつ合理的に、物事を進めようとする話になります。

 ここは学園のサロン。その中でも個室の中である。その部屋の中で向かい合って座る、この国でも高貴な身分にいる男女。男性はこの国の王太子。女性は公爵家の令嬢。二人の関係は婚約者同士なので、二人が一緒の部屋にいることはおかしくないことだ。

 ただ、向かい合う二人の間には、甘やかなものはない。それよりもどこか緊張をはらんだ、真剣な顔をして向かいあっていた。


「シェスカリーナ、少し真面目な話をしたいのだが」


 王太子が切り出した言葉に、シェスカリーナと呼ばれた女性は笑顔も見せずに頷いた。


「丁度良かったですわ、ラディエル王太子殿下。わたくしからも話したいことがございますの」


 暫し二人は見つめあった。だが、その眼差しには甘いものは含まれていない。それどころか探りを入れるような(けん)のある眼差しだった。


「「では、その前に」」


 意図せず被ったその言葉を言いながら二人は立ち上がり、後ろに立つそれぞれの侍従と侍女の腕をがしっと掴んだ。


「マイク、お前ここから出て行け」

「ミーナ、部屋の外に出て見張りをなさい!」


 言われた侍従と侍女は瞬きをした後、困惑した声を出した。


「えーと、ラディエル殿下。いくら婚約者と二人きりになってあれこれしたいからって、結婚前は駄目ですってば」

「シェスカリーナ様、婚姻前の男女が二人っきりで会うなどと、常識的にあり得ないでしょう。頭をどうにかしちゃったんですか」


 侍従と侍女としてはどうなのだろうかという話し方だけど、それぞれの(あるじ)との付き合いの長さと気安さが窺い知れるだろう。というよりも、砕けた言い方で、この張り詰めたような緊張感をどうにかしたかったのかもしれないのだが。それに、信頼を得ているからこそ言える言葉でもある。その証拠に主たちは二人の言葉を聞いて、ニヤリという感じの笑みを口元に浮かべた。


「何を誤解したのか知らないが、部屋を(・・・)出て・・行かなかったこと(・・・・・・・・)を、あとで後悔したと言うなよ」

「ミーナ、あなたが何を考えたのかは、あとできっちり問いたださせていただくけど、わたくしの侍女(・・・・・・・)としてこの部屋にいるというのであれば、この後のことにも協力していただきますわよ」


 マイクとミーナは若干頬を引きつらせたが、自分の仕事の義務感&敬愛する主のただならぬ様子に、頷いて了承の意を伝えた。


 マイクとミーナの腕を放して、それぞれ何事もなかったようにソファーへと座り直した、ラディエルとシェスカリーナ。それぞれカップを持つと少し冷めてしまった紅茶を口に含み、喉を潤した。そして、おもむろに口を開こうとして、お互いのことを見つめた。


「シェスカリーナ、君も話があると言ったな。先に君の話から聞こうか?」

「いいえ、ラディエル殿下。わたくしの話より、殿下のお話をお聞かせくださいませ」


 そう言ってから、またお互いの目を見つめあう。探るような眼差しに、お互いに苦笑めいたものを口元に浮かべた。生まれたときから知っていると云える間柄なので、考えていることも分かるというものだ。


 なので、二人はお互いの後ろにいるマイクとミーナへと視線を向けた。


「先に言っておくけど、これからここで聞く話は他言無用だよ。この話が噂にでも上るようなことがあったら、君かうちの侍従からしかないからね。相応の覚悟をしてもらうよ」

「そうですわね。あなたも殿下の侍従として守秘義務があるのはわかりますわよね。先ほどわたくしたち(・・・・・・)巻き込まないため(・・・・・・・・)にも、へやを出ろと言いましたのに、残ると決めたのですもの。うちの侍女は信用が置ける人物ですので、ここでの話を漏らすことはないと思うけど、もし漏らしたら……」


 そこで言葉を切り、凄みのある笑みを浮かべるシェスカリーナ。


「簡単に死ねると思わないことね」


 脅しとも取れる言葉に、マイクは顔色を青ざめさせた。シェスカリーナにとって、この言葉は脅しの言葉ではない。実際に実現可能な言葉なのだ。ラディエルのそばに十年以上ついている、マイクだから知っていることだった。なので、もの凄い勢いでコクコクと頷いた。


 シェスカリーナが満足そうに頷いたのを見たラディエルは、もう一度紅茶を一口飲んでから口を開いた。


「それじゃあ、先に話させてもらうよ。シェスカリーナ、君には申し訳ないけど、私達の婚約を無かったことにしたいと思うんだ」

「えっ?」


 疑問の声を上げたのはラディエルの後ろにいるマイク。シェスカリーナはラディエルの言葉に軽く目を(みは)り、それから嬉しそうに微笑んだ。


「まあ、奇遇ですこと。わたくしも円満に婚約の解消が出来ないかと、殿下にご相談しようと思っていましたの」

「ええっ!」


 驚きの声を上げたのはシェスカリーナの後ろに控えるミーナだった。目を大きく見開いて、信じられないというようにシェスカリーナのことを見つめているのを、ラディエルは面白そうに見つめた。


 マイクとミーナは混乱しながらも、気持ちを落ち着かせようとした。二人から見た主たちの仲はとても良好で、間違っても婚約を解消しようと考えるとは思えなかったのだから。


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