第2話 変わりゆく日常
エルツ達が通う『ハイドラ』には、9時には登校していなくてはならない。だから、寝坊をしてしまったエルツが教室に着く頃には、ほぼ全員が揃っていた。
「よお、エルツ。寝坊でもしたのか?」
「その通りだよ。昨日は早く寝たはずなんだけど、なかなか早起きが出来なくて、ね」
こうした他愛もない話をしながら自分の席に着くと、ようやくいつもと様子が違うことに気が付いた。
「今日は下の階がいやに静かじゃないか?いつもはあんなにどんちゃん騒いでるっつーのに」
「ああ、なんか今日は俺たち3年生しか来てないみたいだぜ?」
「へぇーッ、サプライズでもあんのかな?」
「ハハッ、どうだろうな」
と、教師がやって来て、ようやく全員が揃った。
「ハイ、みんな席に着いてね。スデに気づいている人も多いと思うけど、今日はキミ達3年生しか来ていません。」
先程までの疑惑が肯定されて、わずかに教室がざわめく。
「ハイ、でね、その理由なんだけども、今日は都市上層部のヒト達が来てくださっているんだよ。キミ達は優秀だからね、ここまで言ったら大体分かったよね。だから、詳しくはそのヒト達の話を聞いてねって事で、よろしくね」
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先生の説明があまりにも適当だったため、移動中の生徒
達からは不満の声と期待の声が入り交じっていた。
「まあ、都市上層部の人が来たってことは、そういう事だよな…」
現在、エルツ達が向かっているのは、生徒達が全員で集まるための多目的会議室だ。
彼らの教室からは少し距離があるので、少しの不満は仕方ないだろう。
ここ『ハイドラ』は、都市の中でも特に優秀な若者たち、通称『次期ヘッド』を育成するための機関である。そのため、今回の集会の目的は、主催者が分かった時点で明かされたようなものだった。それはつまり―――
「さあ、よく来てくれたね、優秀な『ハイドラ』の生徒諸君」
巨大なスピーカーを通じたダミ声に、皆が意識を傾けた。
「私は『プトレマイオス』の育成係を担当させていただいているフートラ・パクスという者です。本日は、君達に大事な話――まあ察しているとは思うが――をしに来ました」
彼の言う『大事な話』を前に全員が肩を強ばらせる。そして―――
「君達を今日ここに集めたのは他でもない… 『次期ヘッド』を決めるためさ」