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第108部

第48章 ドデカクリスタル


朝ご飯を終わらした佳苗と鮎は、優太を探した。

「ゆうたー、どこいったー?」

「ここだー」

声がした方向に向かうと、突然、がけがあった。

「優太、一体どこなの?」

「ここからだと、佳苗のスカートの中がよく見えるな」

その瞬間に、佳苗はある事を心に決めた。だが、それを出さずに、下を見た。優太は、がけで足を滑らしたらしく、下で倒れていた。

「こら、優太。何やっているんだ?」

鮎が魔法で上に吊り上げる。無事上につくと、優太が右足を押さえた。どうやら、滑った衝撃で、足の骨が折れたらしい。

「まったく、優太が足折ったら、誰があのリヤカー動かすのよ」

「君達しかいないだろ?」

その時、佳苗が近づいてきて、一発、優太にビンタをかました。その音は、山々にこだまするほどだった。

「いって〜、何をするんだ!」

「当たり前でしょ!?人のスカートの中見て、何にもならないと思ったの?」

それから、優太の盾を持ってくるために、鮎がリヤカーの所にいった。がけの上には、二人だけになった。


雲は空を流れて行き、太陽はゆっくりと赤みを帯びて行く。世界は、彼らが止まっていても、必ず過ぎ去ってゆく。佳苗は、優太と背中合わせになるようにして座っていた。

(早く来ないかな…鮎ちゃん、いつも遅いから…)

「なあ」

突然、優太に話しかけられて、ビクッとした。

「何よ」

「さっきは、ごめん。上を向いたら、偶然…」

(なんだ、そんな事か…)

少しほっとしたように佳苗は言った。

「そんな事ならいいのよ。さっき、一発張ったいて、すっきりしているから」

「そうか…」

とん、と、背中がぶつかる。風が二人の周りの草を揺らす。誰にも手を付けられていない自然。それが、ここにあった。その中で、三人の男女が、仲間意識を芽生えさせていた。


ちょっとしてから、鮎がリヤカーごと持ってきた。

「ごめん、ちょっと…」

見ると、二人が仲良く眠っていた。

「なんだ。仲いいじゃん」

鮎も、リヤカーが動かないようにしてから、その場所で眠った。


おきたのは、ちょうど、朝日のちょっと前だった。徐々に上がってくる太陽を見て、今日一日がんばろうと言う気持ちになるのだった。

「さてと、問題は、この足だな…」

佳苗の肩を借りながら、優太はゆっくりと立ち上がった。だが、足は痛くなかった。それどころか、骨も正常になっていた。

「あれ?おかしいな。昨日は確かに折れていたのに」

優太が訝しがっていると、サイン神が現れた。

{どうだ?昨日はよく眠れたか?}

「あ、サイン神。昨日折った骨が、一日で治ったんですが」

{ハハハ、お前には、この俺がついているんだ。どんな事があっても必ず殺させはさせないさ}

「なんだ、そう言う事だったんだ」

ほっとしている優太の横で、鮎と佳苗が話をしていた。

「という事は、私は、アントイン神の庇護の下にあるっていう事だけど…鮎ちゃんは、誰にも庇護を受けていないよね」

その時、サイン神がこちらを向いた。

{案ずるな。ちゃんと策は講じておる。ただ、既に発見されていたら別だがな}

サイン神は、ある方角を指差した。

{こちらの方角に行け。道は既に続いておる。己の心に従えば、必ずや、奇跡が起きよう}

なぞの言葉を残して、サイン神は再び盾の中に入っていった。


一行は、サイン神の言葉を頼りに進んで言った。初期の目標である、ドデカクリスタルは、道端とかに時々転がっていたので、それを拾い集めていた。


鮎は途中でつぶやいた。

「こちらの方角に行け。道は既に続いておる。己の心に従えば、奇跡が起きる。どういう事だろう」

「分かっているのは、何かこちらの方向にあるって言う事だな」

その時、向こう側で大きな音がした。みんなは顔を向き合わせ、走って行った。


「大丈夫ですか?」

佳苗が言った。

「ああ、なんとかな…」

立ち上がったのは、商人の一行だった。どうやら、大きな音をしていたのは、荷物を結わいていた紐が切れたためらしい。

「本当に大丈夫ですか?」

「ああ、君達は?」

鮎が一歩前に出て話した。

「私達は、魔法学校の学生です。ここで、フィールドワークをしているんです」

「そうか、フィールドワークか…魔法学校の学生って言ったよね。じゃあ、この枝が、何か分かるよね」

商人の人は、自分の腰にさしていた一本の、青い色の枝を取り出した。

「これ、なんだけどね。ちょっと前に、そこの草むらで落ちていて、きれいだったから持ってきたんだが、何か分からないんだ」

鮎が手を伸ばす。

「ちょっと貸してください」

「ああ、いいよ」

鮎に渡すと、一瞬、青い光に彼女は包まれた。その中で起きた事は定かではない。だが、彼女は、神を見ただろう。光がなくなると、商人の方向を向き、言った。

「これは、ガイエン神の杖です。神の力を有している杖で、魔力を高めてくれます」

「そうか。じゃあ、魔法が使えない私みたいな人よりも、君達が、いや、君が持っておくべきじゃなかな?どうぞ、差し上げるから。持って行きなさい」

そして、商人の一行は、旅を続けるために、出発した。


少しの間、立ちっぱなしだった鮎は、ふと、我に帰った。

「私達、それぞれ、神様に見守られている、特別な存在なんだね」

「かもな」

腕組みをして立っていた優太は、続けた。

「それよりも、もうそろそろ学校に戻る事にしよう。これから帰らないと、1ヶ月目の集会の間に合わないから」

「だれか、瞬間移動の魔法使えないの?」

鮎が言った。

「だれもね。さすがに、17歳じゃ、習わしてくれないのよ」

佳苗が言った。

「移動系統の魔法は、3年生になってから。それも、後半で素質がある人達だけなのよ」

「なるほど。だから、なかなか移動系の魔法を使える人を見かけないわけだ」

リヤカーを引きながら、汗をたらしながら、話しながらの、優太が言った。

「じゃあ、昔はどうしていたのよ。魔法省は、新暦750年に設置された、最も新しい省よ。魔法が発見されてから、約1万年経つって言われているけど、それからこれまでの間にも、たくさんの魔法使いがいたはずよ」

鮎が佳苗達に聞いた。

「それは、昔は、魔法省の代わりに、上中下の魔法免許制度だったんだ。上は最も強い魔法使いで、でも、たいていの人が取れていた。中レベルは、だいたい、今の3年生と同じぐらいだったらしい。さらに、上レベルでも、飛びぬけてよかった人達がちらほらといるんだ。そう言う人達は、魔法協会の理事をしていたり、協会長をしていたりしていたんだ。今までで、最も人として強かったのが、神になった、イフニ兄妹だ。彼らは、協会の5会長時代の時、ちょうど生きていたんだ。彼らは、コンティンスタンスと言う人に弟子入りしていたらしい。魔法省の中に、その時の記録があるはずだから、調べるといいよ」

「ねえ、優太。その魔法省の記録の中には、神についても書かれているの?」

「ああ、分かっている範囲なら。でも、どうして?」

「あそこの博物館には、この世界を崩壊させるまでの総エネルギー量が書かれていたの。さらに、クリスタルの予想エネルギー換算量もね。それによると、この世界に穴を開けて、神の社に行く事は、直接この世界崩壊に繋がるらしいんだけど、それに必要なエネルギー量は、2.7543×10^900J。そして、この量は、ちょうど、ドデカクリスタルとこの剣によって、満たされる量なのよ。ドデカクリスタルと言うのは、地表面に出てきた、ダイヤモンドが変質して出来たものらしいから、上層マントルの噴火によってのみ、地表面に出てくるのよ。魔力は、惑星系全体を等しく封印しただけだったから、あまり深くに浸透しなかったらしいのよ。だから、変質地層は、約5m程度よ。その地層に発生したドデカクリスタルは、一箇所に集まる事によって、初めて全ての魔力が集まるの。今、校長が変わって、突然、こんなクリスタルを集めるように言われた。神の社に行ったら、ほぼ間違いなく、神になれる」

「校長が、神になりたがっている?まさか、そんな…」

優太は、苦笑した。

「でも、ありえるかも、知れないわね」

佳苗が言った。

「とりあえず、学校に戻るのが先決よ。急ぎましょう。あと、1週間と3日」


佳苗達は、登校日の当日、リヤカーで登校して来た。

「うひー、遅刻するー」

道を飛ばしてきて、どうにか、少し曇り気味の学校に到着できた。

「時間は?」

息を切らせて、優太が佳苗に聞く。もちろん、遠くにまで行った人達は、すこし、遅れ気味だった。この2年生の中では、彼らが最も遠くまで行っていたので、一番最後だった。ドデカクリスタルを学校側に渡し終えると、夏休みが、3ヶ月延長される事になった事を書いた紙が配布された。さまざまな憶測が流れたが、最も信用性があったのが、この登校日に校長が現れていなかった事から、「校長は、ドデカクリスタルを集めてなにかしでかそうとしている」と言うものだった。だが、何も意見などなかった。


教室に行くと、突然リヤカーで現れた3人組をみんなが見ていた。

「なんだ?佳苗、リヤカーでご登場かよ」

「それよりも、その剣、なんなの?」

さまざまな憶測が流れていた。

「そうよ。それに、優太のその真っ黒い盾もそうだし、鮎のその青っぽい杖もよ」

その時、先生が中に入ってきた。

「はいはい、みんな座れよ…あれ?佳苗、優太、鮎。その、剣と盾と杖、なんだ?」

「これは、アントイン神の剣です」

佳苗が言った。

「これは、サイン神の盾です」

優太が言った。

「これは、ガイエン神の杖です」

鮎が言った。

「神の剣と盾と杖と言うんだな。そうだ、君達、そんなものを探し当てるより、まあ、あらかた嘘なんだろうが、ドデカクリスタルはどうした?」

「これは嘘ではありません。それに、ドデカクリスタルならこの袋の中にあります」

先生の片眉がつりあがる。

「ならば、それらが神の物であるという証拠を出してくれ」

「分かりました」

そして、彼らは、神を出した。それぞれの道具に封印されている神の力だった。

{なんだ?呼んだか?}

`こちらに出るのは久しぶりだな`

[ここは、どこだ?]

それぞれ、さまざまな反応が出た。生徒達は、教室の片隅に集まっていた。先生は、目を限界まで開いていて、この事が夢でない事を確認しようとしていた。そして、夢でない事が分かると、それぞれの神に確認した。そして、本物だと言う事が証明されたので、そのまましまわせた。

「さてと、では、ドデカクリスタルを教室の後ろから集めてくれ。提出したらそのまま帰っていいから」

そして、出していって、みんな帰っていった。


その朝からずっと、校長は地下倉庫にいた。この中に、ドデカクリスタルが入っているのである。倉庫を開けると、箱が山積みにされている。その中で、最も丁重な管理がされている箱があった。周りは、魔力と完全に断絶されていて、このドデカクリスタルのみ、丁重に扱われていた。そして、夜、この中に、さらにドデカクリスタルが入れられた。校長一人だけでの作業である。近くに置くように指示してあったので、仕事は楽だった。だが、仕事が終わってから、誰かが背中に立っていた。あの人だった。

「どうだ?校長。ドデカクリスタルはうまく集まっているか?」

「はい、もちろんでございます。ただ、少し問題がございまして、予想の量よりも少ないのでございます。今日は、1ヶ月目の登校日でしたので、さらに、3ヶ月間夏休みを延長させました」

「合計、5ヶ月間か。世界最長の夏休みだな」

「こちらは、あなた様のお力になりたいと思っております。あなた様が、神になられた時、我々の野望は成就するのです」

「そうだな。だが、さすがに校長だな。私学扱いになっているから、事実上のワンマン校長と言われても、誰も批判しない。批判したら、間違いなく首になるからな」

「それをうまく利用しているのですよ。そうしなければ、この私のような人が、校長になれなかったでしょう。生徒達は、未だに、今回の事についての裏を知りません。我々は、未だに、安全なのです」

「そうだな」

彼は、にやりと笑い、そして、どこかへ消えた。

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