第107部
第47章 神々との邂逅
リヤカーには、食料と水、それに、佳苗と鮎が入っていた。リヤカーを引っ張るのは、もちろん優太であった。時々、地面に手を当てながら、探しているようだった。
夜も遅くなり、道際に停車させ、座るためのタオルケットを、そのまま布団として眠った。
その時も、夢を見ていた。だが、そのような夢は、起きた時にすぐに忘れてしまうものだった。
そして、リヤカーは何日もかけて、山奥に入っていた。
「ねえ、優太。本当にこっちの方にドデカクリスタルがあるの?」
「あるはずなんだがな…」
「ほら、優太君は、方向音痴だからさ、それで道に迷ったんじゃない?」
「そんな訳ないだろう…」
リヤカーを下に置き、ちょっと、一息つく事にした。そして、下に手を置き、調べていたら、不意に優太が立ち上がった。
「どうしたの?優太」
「あっちの方向に、強力な魔力源がある」
リヤカーをその前まで持って行くと、真っ黒い口を大きく開けた洞窟があった。
「この洞窟って…」
「なんだ?佳苗。ここに来た事があるのか?」
「ううん、でも、夢でこの場所を見た事があるの」
「とにかく、中に入ろう。もしかしたら、あるかもしれないからな」
中に入っていくと、奥に行くに連れて天井と横側の床が迫ってくるような気がした。そして、突き当たりに来たと思ったら、横穴が開いていた。
「こっちにまだいける」
そして、さらに奥に行くと、身をかがめないと通れないような道があった。
「ここ、通れるか?」
「試してみる」
佳苗が通った。無事に通り過ぎれた。すると、その奥から、佳苗の声が聞こえた。
「ねえ、みんな。早く来て!」
鮎が通った。無事に通れた。そして、鮎も、感嘆の声をあげた。
「これって、夢と同じだ…」
白い光が向こう側からあふれて来る。優太も通った。途中でつっかえた。腰の部分が壁の大きさより大きかったのだ。
「おい、なんでここをそんなにやすやすと通れたんだ?」
どうにか出ようと必死になっている。
「ねえ、優太。そのままの体勢で、後ろ向ける?」
後ろはどうにか振り返れた。優太は、その白い光の元を見る事が出来た。そして、声が聞こえてきた。
[お前達は…何者だ…?]
目を凝らすと、それは、土に突き刺さっている剣だと言う事が分かった。さらに、その剣は、白く輝いており、その横には、すらっとした中年っぽい人が立っていた。
「あなたは、誰ですか?」
[私は、アントイン神。我が剣は、サイン神の盾以外貫けぬものは存在しない]
「アントイン神って、ドデカクリスタルで最も多いものだったはずだけど…」
[ドデカクリスタル?ああ、あれか、あれは、魔法を受けた量が最も多いものに分類される。だから、遺伝子を持たない、スタディン神、クシャトル神、ショウヘイ神、ナガミ神、カナエ神は、そもそも存在していない。さらに、我が遺伝子を持つ人類は、いまや、全人類の7割ある。さて、私に何かようかな?]
「じつは、私達…」
佳苗がこれまでの説明をした。
[そうか…ひとつ、教えておこう。この惑星上にあるそのドデカクリスタルを全て集めたとしても、この世界は崩壊しない。だが、わがこの剣を加える事によって、量は満たされる]
「こっちも、ひとつ聞いていいか?」
アントイン神の話の最中、どうにか抜けて来れた優太が言った。
「もしかして、サイン神の盾って、これの事か?」
背中に背負っていた盾を取り出した。それは、光の中に浮かぶ闇のようだった。完全なる漆黒のその盾は、全ての光を吸い込んでいるようだった。その盾の横に、アントイン神よりも若い人が立っていた。
[さて、珍しいな。サイン神よ]
{アントイン神よ、懐かしい。しかし、お前の本来の職場は、第7宇宙空間のはず、なぜ、このような場所に閉じ込められている?}
[サイン神こそ、仕事をサボって、ここにいるではないか]
そして、二人の神は、笑った。
「あの、少し聞いてもいいですか?」
{なんだ?何でも聞きたまえ}
佳苗は少しどもりながらも言った。
「職場とか、仕事とか、そう言ってますが、何が仕事なんですか?」
[嘆かわしい事だ]
アントイン神が言った。
[我々の仕事は、魂のリサイクルといえば一番分かりやすいだろう。つまり、さまざまな種類の魂を吸い込むのが、サイン神の役割。そして、それらをつなぎ合わせるのが、私の役目]
「魂をつなぐって、どういう事ですか?」
[単純な事だ。魂には、記憶が刻まれる。一般的にはそれは本能と呼ばれるものだがね。その本能の中に、男女の差が刻まれている。その差には、魂の受け入れられる数も決まっている。但し、男は魂の受け入れが出来ない。女の魂は、それぞれ上限が決まっている。その中に、子供が生まれた瞬間、その魂をその子供に送り届ける。女の魂に組み込まれた魂は、運命として決まっている子供の数だけある。子供は、男ならば、ひとつだけだが、女ならば、その魂の受け入れの数だけを、そこに入れる事になる。神といえども、ほぼ、ランダムに入れているものだ。魂の種類なんていうものはわからないものなのだ。さらに双子になるかどうかもランダムだが、出来るだけ避けてはいるつもりだ。その子供の魂を女の魂に入れる事を、魂をつなぐと呼んでいるんだよ]
鮎が聞いた。
「じゃあ、若死にした時は、どうするんですか?」
サイン神が答えた。
{そんな、縁起でもない事だな。だが、ありえなくはない。若死や流産などをして、運命の数よりも出産数が少なく死んだ場合は、俺が繋がれた魂を解き、その魂を再び世界に放すのだ。そうやって、ちゃんと魂は使われる。だけど、神の魂だけは、ちゃんと、別系統の魂として残されているけどね}
優太が言った。
「それよりも、ここから早く出て、ドデカクリスタルを探さないと、学校の中間集計の時に、何も持っていないって言う事になっちゃうよ」
「それは困るわね」
その時、鮎の頭に名案が浮かんだらしい。
「ねえ、あなた達は、神様よね。神だったら、ドデカクリスタルの場所も分かるんじゃないの?」
[なんだ、私達を利用しようとしているのか?]
「ねえ、いいでしょう?」
{ま、使っても減るもんじゃないしな}
[私は断固反対です。サイン神が勝手にすればいい]
{ほほう、そんな事言っちゃってもいいのかな?だって、俺は、お前の恥ずかしい事も知っているんだぜ。ここで言っちゃってもいいんだがな…}
チラッとアントイン神を見ている。それをみて、アントイン神は、
[分かった。分かったから、あのことだけは言わないでくれ]
{さすがアントイン神だ。話が早い}
サイン神は、盾の中に溶けて行った。アントイン神は、少し残っていたが、神の剣の中に戻って行った。
「じゃあ、この剣は誰が抜く?私?それとも鮎?」
「私が抜くよ」
そういって、不安定な足場に刺さっているアントイン神の剣を、抜こうとしたが、抜けなかった。
「あれ?抜けないな…」
その時、アントイン神の声が聞こえてきた。
[選ばれたものしか、この剣は抜けないのだよ]
「じゃあ、私は選ばれてないって言うわけ?」
「そう言う事だな」
落ち込む鮎を優太が励ましている横で、佳苗が剣を抜いた。
「ふあっ!軽々と抜けちゃったね」
その剣は、軽々としていて、刀身が細く、確かに何でも切れそうだった。再び、アントイン神の声が聞こえた。
[この剣は、佳苗と呼ばれているお前に託そう。いくつか、教えておく。この剣を出す時は、念じればよい。この剣の名前は、「フルガラッハ」と言う。それに、お前の先祖のどこかに、佳苗莉子と言う人物がいたか聞いてみるがよい。その者は、イフニ・スタディンとクシャトルの兄妹がまだ、神になっていなかった時、高校に通っていた時の、1年生の生徒会長だ。かれも、いくらかお世話になっているだろう。最後に、ドデカクリスタルを探す時は、剣を盾の上に立て、手を静かに放すがいいだろう。剣先がさした方向に、最も近いクリスタルが埋まっている]
そして、次第に声は聞こえなくなった。
さらに、ここから出るのがきつかった。だが、出られなかったら、剣をスコップみたいにして、つき壊して行っていた。外に出た時には、もう夜だった。一行は、そのまま眠った。
翌朝、ひとつの疑問が優太の中で生まれていた。
(そう言えば、なぜ、神は佳苗を選んだんだろう。他の誰でもよかったはずなのに。それに、こんなに強力な魔力ならば、他の誰かが見つけていてもいいよな…)
佳苗と鮎がおきてきた。
「おはよう、で、早速、朝ご飯っと」
鮎は早々に座り、優太が用意した朝ご飯を食べた。優太の横に佳苗が座り、優太はちょうど女子に挟まれるような格好になった。
「そう言えば、校長は何をするつもりだろう…」
「え?どうしたのよ、突然さ」
優太がいった言葉に、鮎が反応した。
「だってさ、今までの発掘分のドデカクリスタルは全て学校が持っているんだろ?研究分には十分すぎる量のはずだ。なのにさらに欲しがると言うのは、何かしでかすつもりじゃない?」
「そんな事ないと思うけどな」
佳苗が言った。
「だって、あの校長にそんな頭はないと思うよ。だって、去年就任した時より、体重が10kg増えたってぼやいていたのを聞いたもの。そんな世界征服みたいな事考えているよりも、自分の体重を気にしていると思うよ」
雄太は立ち上がりながら、言った。
「そうかな…」
そして、優太はどこかへ歩いていった。それを見て、佳苗が声をかける。
「どこ行くの?」
「ちょっと、そこらへんを散歩してくる」
優太は、森の中に姿を消した。
それと同じ時間、魔法学校の地下の貯蔵庫で、校長が誰かと話していた。
「これが今まで集めてきたドデカクリスタルか」
「はい、そうです。今回の宿題は、このドデカクリスタルを出来るだけ集める事です。1ヶ月目に、いったん全てを回収します。その後、夏休みが終わる頃には、全てのドデカクリスタルがここにある事でしょう」
誰かは、暗すぎて分からなかったが、そのものが邪気を帯びているのだけはとてもよく分かった。その人は、笑いながら言った。
「そうか、そうか。去年から、前の校長を更迭させる画策を練っていたが、病気による早期退職と言う事で、うまくまとまったしな。お前にも、無論、褒美を授けてやるよ。この私が神になった暁にはな」
そして、その人は、高笑いをしながら、壁の中に消えていった。