第八話「液晶越しの悪意」
照明を落とした真っ暗な部屋で、いくつものモニターが発する光だけが、暗い宇宙で懸命に存在を主張する星の如く、チカチカと瞬いていた。
そんな暗い部屋のやや高い場所で、神経質そうな男が深く眉間に皺を寄せ、背後に控える別の男に殊更心配そうに訊ねる。
「……それで? 本当に奴は撃墜出来たんだろうな? 目撃者は?」
「心配ありません。当日の人払いは完璧です。ごみ溜めは完全に無人でした。誘導が上手くいった事もあり、付近の住民は爆発も花火程度にしか認識していないようで。それはソルジャー01が自爆と共に放った電磁パルスも同様です」
「……いいだろう。データ収集用の使い捨てとはいえ、奴が脱走したと聞いた時は辞職も覚悟したが、結果的にH.O.R.N.E.T.システムのデータも取れてよかったといったところか」
上司に合わせ、部下の男はまるで人形の様にカクカクと頭を上下させる。神経質そうな男はそんな部下を見て、極東の経済特区でお土産として売られていた、赤い牛の人形を思い出す。
「仰る通りです。ワーカー三体にソルジャー一体を失いましたが……なに、所詮あれらは消耗品、損失の内にも入りません」
「ふむ……残骸の回収は?」
「ワーカーは三体とも既に。ですがソルジャーは完全に木っ端みじんになったようでして……場所も場所なので、回収し切るのは不可能かと」
「やむを得ないか……念の為、付近のジャンク屋を監視して、それらしきパーツが出回ったら即刻買い取るよう手配したまえ」
「了解です。ところで……あれの次の実験は如何なさいますか?」
部下が次の実験を心待ちにしている事は、暗い部屋でも尚充分に察していたが、男は敢えて突き放すように背を向けた。
「当分実験の予定はない。昨日は流石にH.O.R.N.E.T.システムを使い過ぎた。企業連も馬鹿ではない。いいかね? この計画は絶対に奴らに悟られる訳にはいかんのだ」
「……かしこまりました。それでは私は、廃品業者の調査に当たります」
幾分か不満そうな空気を漂わせたものの、部下が大人しく引き下がった事に安堵した男は、眼下にいくつも並ぶモニターに目を向ける。
薄暗い部屋の中、チカチカと不規則に明滅する液晶には、複雑な文字記号に彩られた“少女”のような影が、不気味なまでに静かに佇んでいるのだった。