第五話「黒い少女」
「あらユーリさん、おはようございます。もしかして徹夜ですか? いけませんねぇ~、御寝坊さんはいい仕事の敵ですよ?」
「あぁシズカさん、おはようございます……えぇまぁ、気をつけます。はい。はぁ~……」
あれから結局朝まで黒い少女を弄ってみたものの、ユーリの腕では直すどころか何が原因で少女が動かないのかさえ分からず、成果と言えば眼の下に隈を拵えたくらいだった。
ドックに出勤するなり欠伸を漏らすユーリを見て、先に出勤していたシズカはクスクスと微笑みながら、淹れたてのコーヒーを差し出してくる。
「どうもどうも。あれ、親父は? 昨夜帰って来なかったから、てっきりこっちに泊まったんだと」
「班長ですか? 私もさっき出社したばかりですが、まだ来てないみたいですねぇ~」
「そうですか、ありがとうございます。ちゃんとお留守番出来たんですね、偉い偉い」
ユーリは熱々のコーヒーを受け取ると、椅子に腰かけても尚ユーリより目線の低いシズカの頭をポンポンと撫でてしまい……自らの愚行に気付き、慌てて出した手を引っ込めた。
「あ、いやあのですね、これはついうっかりというか、違うんです」
「ユーリさ~ん! 確かに私に、副班長としての威厳は少々欠けているかもしれません。ですが何度も言っているように、私はこれでもあなたより年上の大人ですし、ここではあなたの上司です。いくら班長の息子さんだからといって、特別扱いするつもりはありませんっ」
「ごもっともです、すみませんでした。つい置きやすい所に頭が――あ」
「ユーリさん! 本当に反省して――」
「おいシズカ、朝っぱらから騒いでんじゃねぇよ」
「ぴぇっ!? お、おはようございます班長。でも違うんです、これはユーリさんが~――」
「それよりシズカ、ミーティングすっからユーリと一緒に先に事務所行っとけ。すぐにボスも来るぞ。ほら行け! 駆け足!」
有無を言わさぬアーベインの迫力に、ユーリ達は反論のはの字も出さず、大急ぎでドック内の事務所へと直行していく。
自他共に厳しいアーベインに怒鳴られるのは、養子であるユーリ含め班員全員慣れたものだが、その際一分一秒でも急がんと、ユーリが小脇にシズカを抱えて走るのも最早お約束なものだから、やはりユーリにはシズカが年上の女性とはとても思えなかった。