最終話「standin’ by your side.」
実況の合間に呼吸を整えた観客達は、その一声に続き割れんばかりの歓声を送った。
画面越し、そして会場の壁と空気を伝わって、控室のユーリ達にも音の洪水が届けられる。
歓声を浴びた時には既に、養父から力の限り背を殴られていたユーリは、痛みからか嬉しさからか、涙目になりながらその喝采を浴びていた。
「ユーリ、この馬鹿野郎……馬鹿野郎が!」
「やった、やったよ親父……勝ったんだ。俺達勝ったんだ!!」
「あたし達の勝ちよ! これでアイゼンブルームもなくならないのね!」
歓声に続き、試合会場から転送されてきたアリスが、倒れるユーリに圧し掛かる形で抱き付いてきた。
後に続くメリルはそんなユーリ達を嬉しそうに見下ろし、そして……最後に転送されてきたイチは、平然としながらも、どこか得意気な眼差しを、瞼の向こうから送っていた。
「おかえりイチ。ご苦労様。本当にありがとうな」
「……ん、別に、大した事じゃない。約束、守っただけ。私、これからも、司令官の傍、いなければならないから。チームの解散は、困る」
「謙遜しなくていいのよ? アイゼンブルームが勝てたのは、イチちゃんのおかげなんだから」
「別に……そんな事、ない」
戦術機甲を外したメリルに撫でられ、珍しく照れ臭そうに視線を逸らしたイチは、その先にいたアリスと真っ直ぐ眼が合った。
「……ふんっ。ちょっとはやるじゃない。少しだけ、見直したわ。ほんの少しだけだけど……あんたのおかげで勝ったのは事実だから? あたしも少しは大人になってあげるわ!」
「……なに? なんの事か、分からない」
「だから! ……だから、十三番って呼んでも、特別に見逃してあげるって言ってるのよ。でも! でも言っておくけど、その代わりあたしも、あんたの事ポンコツって呼ぶから! これでおあいこよ!」
「アリス……ちっとも大人になってなくないか?」
「まぁまぁユーちゃん。アリスちゃんも初めてお友達だから、どう接していいか分からないだけのよ。今は大目に見てあげましょ?」
メリルにからかわれ、耳まで真っ赤にしたアリスは誤魔化すようにイチに掴み掛かった。敵意がないと判断したのか、されるがままアリスに首を振り回され、イチの小さな体がガクガクと揺れる。
「ちょ、ちょちょちょっとメリルさん! あたしとこのポンコツが友達とか……! そんな訳ないじゃないですか! ちょっ、やだもうっ!」
「同意する。私と十三番の間に、友情関係は、必要ない。必要があるとすれば、それは、明確な上下関係だけ。勿論、私が上」
「なんですって! もういっぺん言ってみなさいよ!」
「おいおい二人とも、こんな時くらい喧嘩はやめろって……」
結局喧嘩になるイチとアリスを前に、勝利の余韻に酔う暇さえ与えられず、渋々仲裁に入るユーリ。しかし、イチを狙ったアリスの拳が顔面を強かに強打するも、この家族間のやり取りが今後も続くのだと思えば、これくらい安い物だと甘んじて受け入れるのだった。




