第二十一話「勝ち目なき戦い」
フットドールの勝利判定は、自BRが敵ゴールに入る、または敵BRを敵ゴールに押し込むかの二つだが、それら以外に、制限時間内に勝負がつかなかった場合、双方の機体のダメージ量をデジタル統計し、より被害が少ない方が判定勝ちとなるのだ。
観客を沸かせる見世物としての側面が強いフットドールにおいて、称賛とは程遠い結末ではあるが、それを敢えて狙ってくる辺り、チーム・ハーベストのこの試合に掛ける意気込みが窺える。
「メリルさん、急いでアリスの救援に向かって下さい。メリルさんの装備じゃこいつらは倒せません。アリスを撃破されると逆転しようがない」
「ちょ、ちょっと待てユーリ。判定勝ちなんて、そんな上手く狙えるもんなのか? だったら皆、ハーベストみたいに重装備で固めりゃ楽勝じゃねぇか」
「いや、普通こんな露骨なアセンを組んだって、結局ジリ貧で敗けるのがオチだ。相手がうちみたいに、火力不足のチームじゃなきゃ……でもあいつら、どこからうちの情報を?」
アイゼンブルームとハーベストは、共に最下位リーグの常連同士、戦うのもこれが初めてではない。故に互いの情報もある程度把握し合っているし、アリスとメリルの火力が低いのも、とうに知られていて当然ではあるのだが……、
「ズィーベンがいない情報が洩れてたってのか? ……まさか、ブリュッケの野郎か?」
「いくらあの人でもそんな事……そうか、チャンピオンズリーグだ! 決勝戦でズィーベンが大破したのを見て、今日の試合に当たりを付けてきたのか」
「おいおい正気か……もし当初の予定通り、ズィーベンの代わりをきちんと買えてたら、あいつらどうするつもりだったんだ? そうでなくても、アリスが挑発に乗らなきゃ――」
『やばいぜアイゼンブルーム! メリルが助けに入ったはいいが、既に生意気アリスは虫の息! 謎の新入りはさっきから自陣の隅でじっとしてるだけだしよぉ、このまま時間切れになったら、どっちが勝つかは明らかってもんじゃねぇか?!』
熱中する実況を聞き、ユーリがモニターに視線を戻すと、そこにはアリスを包囲から助け出したはいいものの、幾分かのダメージを受けてしまったメリルが映し出されていた。
チーム・ハーベストの三機の内、二体はナイトアーマーの予備パーツを無理やり装着しただけに過ぎない。故にこと防衛戦に限って言えばメリルに一日の長があったものの、互いに決め手を欠いた泥仕合、数的不利からくる差はジリジリとメリルの首を絞める結果となったのだ。
「どうする……このままじゃ絶対判定負けだ……でも今更アリスが攻めたって、あの防衛線は突破出来ないし……」
『アイゼンブルーム絶体絶命かぁ~? 俺様も長い事フットドールの実況やってるがよぉ、ここまで試合がハマっちまうと逆転は難しいんだよなぁ~』
大型モニターに欠伸をする実況者が映り、会場全体に言い知れぬ空気が充満していく。刻一刻と重く濃くなっていく敗けムードを払拭したい所だが、防御を固めるナイトアーマー相手に、満身創痍のアリスではどうしようもなく、ユーリもまたなんとか知恵を振り絞るものの、押し寄せる流れは抗いようがなく、ちらほらと席を立つ観客も現れ始める始末だ。
「ユーリ……残念だが、もう降参するしかねぇんじゃないか? いくらあいつらが武器を持ってねぇって言ってもよ、このままじゃアリスが無理に攻めて大破すんのも時間の問題だ。そうなったらお前、いくら俺でももう直してやれねぇぞ」
「親父……でもどの道それじゃ、アイゼンブルームが……」
「チームは大事だが、アイゼンブルームがなくなったって、AESがいなくなる訳じゃねぇ。引き際を決めるのも、監督の大事な仕事だと思うぜ?」
アーベインの大きな手を肩に置かれ、ユーリは今一度観戦モニターを仰ぎ見る。監督には試合前に降参用のスイッチを渡されているので、これを押せばその時点で即試合は終了する。しかし……しかしそれはユーリ自らの手で、アイゼンブルームに幕を引くという事だ。
「おめぇが辛いなら……俺が代わりに押してやろうか? 心配すんな。誰もお前を責めたりなんかしねぇよ」
「親父……いや、でも――」




