第二十話「ファランクス」
『ユーリ、敵DFが後退してる。追撃するわ』
「分かった。反撃に気を付けて」
『武器持ってない相手の反撃なんて、どう気を付ければいいのよ』
初撃に比べ、やや自信が増してきたアリスの通信。先程実況者が言っていた通り、アリスは今までエース機のズィーベンとベテランのメリルの影で、あまり活躍に恵まれない試合を続けてきた。
それがここに来て頼りにしていた姉を失い、アリスの頑張り次第で勝敗が決まるとあっては、気負うのも当然の事だし、そういう意味では先制攻撃の成功は、アリスにとってかなり追い風となっているのだろう。
「このまま一気に流れが掴めればいいんだけど……親父、どう思う?」
「俺は試合運びについちゃ素人だ。だが……」
「だが?」
「ハーベストのあの機体、たしかナイトアーマーだったか……防御力はそれなりだが、ありゃかなり古いタイプの機体だった筈だ。連敗続きで後がないのはやっこさんも同じなのに、どうしてあんな機体を倉庫から引っ張り出してきやがったんだ……?」
言われてみれば、イチにも目を通させたハーベストの試合記録の中で、あの西洋騎士の機体が出てきたのは相当昔の試合だった。
アリスの執拗な追撃を受け、見る見る内に装甲が傷だらけになっていく敵機は、立派な騎士というより敗残兵のようにも見える。
「うーん……むしろ、敗け続きで向こうも貧乏だから、骨董品を持ち出してきたとか?」
「それならあり得る話だ。実際うちのメリルも、周りからしてみたら骨董品だしな」
「メリルさんはまたちょっと事情が……――ちょっと待ってアリス! 一人で出過ぎだ!」
『何言ってんのよ、後ちょっとであのオンボロを仕留め――え』
逃げるナイトアーマーを追っている内、気付けば単機で敵陣深く突入してしまっていたアリスの前に現れたのは……さらに二体、全く同じ装備を施されたナイトアーマーだった。
『おぉ~っと! ガキンチョアリス、調子に乗って突っ込むもんだから、あっさりとハーベストの三機に囲まれやがったー! ざまぁ~みやが――じゃなかった、どうなるこの試合ぃ!?』
「おいおい、あんなのありなのか? あれじゃあポジションなんて関係ねぇじゃねぇか」
「ルール上は問題ないけど、三体全員重装備にして、どうやって勝つつもり……待てよ。アリス! 今すぐそこから逃げるんだ! 絶対撃破されちゃダメだ!」
『そんなの言われなくても分かってるわよ! でもこいつらしつこくて!』
アリスの包囲に成功し、両腕に機体全体を覆う程の大盾を装備した騎士達は、逃げの一手から転じて果敢にアリスに向かってくる。アリスも必死に脱出しようとするが、火力不足から強引に攻め切る事が出来ず、むしろ包囲網はジワジワと狭められていった。
「アリス、そっちに逃げじゃダメだ! センターラインから遠ざかってるぞ!」
「よぉユーリ、何をそんな焦ってんだ? 三体同じ装備なのは驚いたが、武器がないんじゃ何体いようと勝ち目はねぇんじゃねぇのか?」
「盾だけって言っても、あぁやって囲めば押し潰す事くらい出来るだろ?」
「そりゃそうだが、このままアリスがやられたって、同じ手を喰らう程メリルは馬鹿じゃねぇだろうに。イチだって、このままメリルの傍にいりゃあ……」
「ハーベストは多分、アリスを撃破出来たらそのまま自陣に引き籠る筈だ。多分あいつらの狙いは……時間切れからの判定勝ちだ!」




