第十六話「The heart of one」
状況を察したのか、入れ替わりに部屋から出てきたメリルが、元気になったアリスと部屋に戻っていったイチを見比べる。
「そう上手くはいかないものね。今度はイチちゃんを泣かせちゃったの? 仲間はずれにしないで、一緒に練習すればいいじゃない」
「別に泣かせた訳じゃ……イチはまだ、修理もきちんと出来てませんし」
「あら、そうなの? てっきりアーちゃんがもう済ませたんだとばかり」
「流石の親父も、今回は苦戦してるみたいですよ。なにせイチは最新型の試作機ですから」
「ふんっ……なによ、ちょっと新しいからって面倒かけて」
最新型と聞き、露骨にヤキモチを焼くアリスを宥めつつ、演習場へ向かうユーリは、先日アーベインに注意された事を脳内で反芻する。
「……不安定? イチの動力部が? 親父でも、手が付けられないのか?」
「あぁ。動力源周りは完全にブラックボックスになってやがる。案外イチが試作段階で廃棄されたのも、その辺が理由なのかもしれねぇな」
兵器になによりも求められるのは安定性だ。いかに優れた性能を持っていても、それがいつ発揮出来るか分からないのでは話にならない。
「イチは不良品……だったのか?」
「そこまで言っちゃいねぇよ。性能限界やデータ収集を目的に作られる試作機だってある。まぁなんにせよ、一度じっくり調べてみねぇ事にはなんとも言えねぇが、生憎そんな時間はねぇ」
「その事、イチは知ってるのか?」
「勿論伝えてある。いいか? ブラックボックスの解析が済むまで、出来るだけイチには衝撃を与えねぇようにしておけ。練習もさせねぇ方がいいな。本人は戦えなくて不満がるだろうが、まぁ監督のお前が命令すれば、聞かざるを得ないだろ」
「衝撃って……フットドールに出ようっていうのに、そんな無茶な……イチが大破したら、どうなっちゃうんだ?」
ユーリが尋ねると、アーベインはサングラスの奥で視線を逸らし、誤魔化すように電子煙管を咥えだす。それはある意味、この上なく明確なユーリへの返答だった。
「まだなんとも言えん。常識的に考えれば、いくら試作機だからって普通は安全装置がついてるだろうが……最悪の事態も想定しておけ」




