第十三話「Are you ready?」
「ところで監督さん? 二番ドックで何かしてたみたいスけど、もう試合は明日だって事は分かってるんスよね?」
「ユーリさんなら御存知だとは思いますが~……強制的にAESを出場させる場合、後々の面倒を避ける為に、メモリーはリセットする決まりが~……」
試合前日、二番ドックから出てきたユーリを、ライオットとシズカが心配そうに出迎える。二人の背後には、修理と調整を済ませたイチが、アーベインと共に控えていた。
「勿論です。思ったよりイチ任せになったからちょっと時間はかかったけど、無理矢理アリスを出場なんて、絶対させませんから安心して下さい」
「時間がかかったのは、私の所為じゃ、ない。司令官が、色々拘り過ぎた所為」
「いや~、イチの塗装が機械使うよりきめ細かいから、ついつい熱が入っちゃって」
「結局ユーリ君、二番ドックで何してたんスか? っていうか、ユーリ君が説得出来るって言うなら信じるッスけど、ぶっつけ本番で大丈夫なんスかね」
「とりあえずイチさんには、最低限の準備だけは出来ましたが~……ポジションとかはどうされるんですか~? 結局一度も練習してませんし……」
「そっちも今日中にどうにかします。大事な時に心配かけてすみません」
ユーリが頭を下げると、後頭部にアーベインの大きな手の感触が、ずっしりと圧し掛かる。
「もういいだろ二人とも。ユーリにも考えがあるって言うなら、それでいいじゃねぇか」
「で、でも班長~……明日負けたら、私達無職に……」
「そんときゃそん時だ。どうせユーリが、イチを連れてこなきゃそうなってたんだ。おうユーリ、ケツは拭いてやっから、後はお前の好きにやってみるこった」
節々がゴツゴツとしていて、頭越しでも油の臭いが鼻に着く。しかし不思議と安心出来る養父の温かい手が、ユーリの癖っ毛をくしゃくしゃと掻き撫でた。
「親父……ありがとう。いつも心配かけて悪い」
「馬鹿野郎。ガキがいっちょ前な台詞吐いてんじゃねぇよ。おうお前ら、そんなしけた面してねぇで、いつでも使えるように、アリスとメリルの武装も最終確認しておくぞ……それとユーリ、この間の件、忘れんなよ?」
「あぁ、分かってるよ。親父」
「ならいい。おら、さっさと行くぞ」
ライオットとシズカを引き連れ、一番ドックへと戻っていくアーベインを見送ると、ユーリはイチと共にバンカーへ向かっていった。




