5章
地面のアスファルトまで溶かしてしまいそうに大地を照らしていた夏の太陽が隠れ、もうちょっとでまんまるになりそうなお月さまが顔を出した。
夜になって少し涼しくなったとはいえ、それでもまだ暑いことに変わりはない。私と健ちゃんが扇風機の前で風を取り合いっこしていると、廊下で電話のベルが鳴った。三、四回ほど鳴って、誰かが受話器をとったらしくベルが止む。
少し経って、廊下を歩く音がして私たちが居る部屋のふすまが開いた。ふすまの方へ振り向くとお母さんが立っていた。
「健ちゃん、今、健ちゃんのお母さんから電話があって、明日はおじいちゃんの家に行くから、お昼前には帰ってくるようにって」
お母さんは部屋の入り口に立って、ふすまに手を掛けたままそう言った。
「はーい、分かりました。ありがとうございます」
健ちゃんが返事をするとお母さんは満足そうに笑って、それから思い出したように、「そうそう、それと、おネショしちゃダメよって言ってたわよ」と言って、笑いながらふすまを閉めた。
「……ふーん、健ちゃんまだおネショしてるんだ?」
私はちょっと意地悪に笑いながら健ちゃんの方を見た。
「し、してねぇよっ、母ちゃんがふざけて言っただけだろ!」
「ふぅん」
「なんだよその顔は」
「別にー」
「おまえ、信じてないだろ? 言っとくけどほんとにしてないからな!」
健ちゃんは顔を赤くしながら必死に否定した。
私は少しだけからかってやろうと思っただけだったけれど、健ちゃんがあまりにも必死になっていてちょっと気の毒な気がしたので、話題を変えることにした。まったく世話のやける健ちゃんだ。
「分かったよ、もうそんなに必死にならなくてもいいじゃん。それより早く準備しちゃおう。――ええっと、懐中電灯と、虫除けと、鼻メガネと……」
私はそう言ってリュックの口を広げ、用意したものを確認しながら詰め込む。健ちゃんも私の言葉にしぶしぶと納得して、同じ行動をはじめた。
私たちは今晩、学校の裏山を探索する計画を立てていた。その為に健ちゃんはウチに泊まることにした。みんなが寝静まった頃に、そぉっと二人で家を抜け出す予定だ。もちろん大人たちには内緒で。
「ちょっと健ちゃん、そのライターどうしたの?」
「これ? 父ちゃんの部屋から持ってきた。爆竹に火を点けるときに必要だから」
「爆竹なんて持ってくの? 危ないなぁ」
「だっておまえ、何か武器があった方がいいだろ、もしもの時の為にも」
「まあそうだけど」
その時、居間の方から私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。
「さきー、健ちゃーん、ご飯よー」
お母さんだ。私たちは計画がバレてはまずいと、急いでリュックに荷物を放り込み、それを押し入れの中に隠した。 健ちゃんはリュックと一緒に自分まで押し入れの中に隠れようとしたから軽くチョップしといた。
それから居間に向かって晩ごはんとお風呂をすませ、早めに布団に入ると、深夜の作戦決行に備えて少しだけ眠った。