7.老人と老婆
母の検診で日曜日の見舞いがなくなったので、僕の持ち回りが一日早くなった。父と同室の老人にも見舞客が来ていた。老婆だった。おそらく老人の奥さんだろう。
父も老人も病室にいなかったので話をする。
毎週火曜に来ているのですか、と尋ねる。
そうよ、と老婆は答える。
どうやら一日違いで私たちは出会えていなかったようですね、と言う。そうね、と老婆は言う。
老人について話を聞く。彼はどうやら長い間病気をしているらしく、でもその割に進行は遅く、いつまでも完治して退院、または残念なことに亡くなるということがなかったせいで、病院をたらい回しにされているのだという。
この病院は三軒目で、移動するたびにどんどん自宅からは遠くなっているという。最初は徒歩圏内にある病院だったが、現在ではバスで駅まで行き、そこから病院行きのバスに乗り換えるそうだ。
「大変ではないですか」と聞く。
「確かに大変ではあるのよ。でも、それ以上に会っていたいから来るのよ」と彼女は言う。「あの人は幸いなことにまだぼけていないから、私が来ないと寂しがって泣いちゃうそうなの。私は思うのだけれど、ぼけてはいなくても軽く退行してるのね。見た目は偏屈なじいさんでも、心は十代なんじゃないかしら。きっと純粋に私のことを好きでいてくれているのね」
素敵な話なのか、残酷な話なのか、僕にはよくわからなかった。
父と老人が帰ってくると、病院の食事が不味いとか、あの看護師は注射が下手だとかいう話題で盛り上がった。
誰かが言った、人の悪口が仲良くなる近道、という言葉を思い出した。