6.母の定期検診
母の妊婦検診にて、今度は不安な宣告をされた。
鈴木医師曰く、父の精子に遺伝子異常があったかもしれない、とのことだ。父は化学療法は行っていないものの、病の進行具合によってはもしかしたら影響が出るかもしれない、と鈴木医師は言った。
あくまで可能性の話で、今後の状態を観察するしかないらしい。全てが杞憂に終わり、双生児が幸せな産声を上げ、何事もない出産になるかもしれない。あくまで可能性の話だ。可能性は僕らを脅かす。ときには目の前の現実よりも強く。
「今は特に深く考えないでください。母親の思考が暗くなると、胎児の健康にも悪影響です」と鈴木医師は言った。
「はい」と母が言った。「はい」と僕も言った。
帰宅途中、病院から駅までのシャトルバスにおいて母は小声で言った。
「私が考えすぎていそうだったら、無理にでもそれを止めてほしいの」
自分にできることはそれくらいと、話を聞くことくらいしかできないだろう、そう思い、母の目を見て頷く。
母がありがとうと言う。その声に隠されているだろう強がりに、自分は人の話を聞くことができているのか不安になった。
週末に校外学習を控えた月曜日。進路調査が行われた。
調査表を白紙で提出したことがばれない間に、急ぎ足で家に帰った。