其ノ七~タタリ~
崩壊のあと。
消し炭の道をゆく。
灰の絨毯を踏みしめてゆく。
「よう、おやじ」
放心状態だったクエビコはふと微笑んで、立ち止まる。家が焼け落ちた痕跡と見られる、無惨にも散らばった木炭に埋もれ、横たわる焼死体が一つ。
「どうしたぃ? おまえさん真っ黒焦げじゃねえか。酒をかっくらい過ぎて顔から火でも出たのかよ?」
冗談めかして不謹慎な事を言えば、怒って起き上がるかもと試してみたが無駄だった。タニグクの親父は胎児のように丸まり、何かを全身で抱え込んだまま固まっていたので、クエビコは手を伸ばしてそれを取り上げてみる。
「そっか娘を守ってたのか。ずっと嫁に出したくねえって言ってたもんな」
彼が両手で力一杯持ち上げた、ずっしりと重いそれは、モミの首だった。
「おうモミ、あん時はつい軽いとかってバカにして悪かったな。照れ臭かったんだ。おれが間違ってた」
半ばまで焼け焦げているが、相変わらずのとぼけた表情をしている。腐り果てるまで永久にこのままなのだ。いつまで経っても呑気な天然娘だった。
「おまえの頭はこんなに重かったじゃねえか」
神が奴隷に謝るなんてあり得ない奇跡なんだから、もっと有り難がれよ。有り難かったら、生き返れ。もう一度アホ面で、跳んだり喋ったりしろよ。
心の中で呼び掛けようとも、返答はない。当然だ。
努めて口角を上げていたが、もう限界だった。目元が歪みかけた時、
「……にき、兄貴」
微かな呼び声が聞こえ、クエビコの足は勝手に駆け出していた。
村長の住んでいた、一際大きな家の残骸。
その曲がり角から、あの小憎たらしいメガネガエルの上半身が仰向けになっているのが見える。
「『セン』ッ! 良かった、生きてたか!」
すぐそばまで寄って、しゃがみこむ。センというのは言わずもがな、彼女の固有名詞だ。
「兄貴ぃ、おっ父、だめだった。おっ母も、だめだった」
「喋んな! どっか怪我してんだろ、みせろ! 治してやるからよ!」
クエビコが手をかざすと、衰弱しきったセンの体を仄かな光が包み込む。彼の神力にはカラスの声を聴く他に、動植物の成長を促して自在に操るものも含まれる。応用すれば対象の治癒能力を高める事もできた。
しかし、小さな顔はどんどん青白く染まるばかりで、一向に回復の兆しを見せぬ。理由は明白。村が滅び、力の源たる信仰の供給が途絶えたせいだ。
「待ってろくそ! 大丈夫だからな畜生!」
「ねえ兄貴、あっしの……羽根は? 羽根は……生えてるでやんすか?」
か細い囁きが、相手を不安にさせまいと大声を出していたクエビコの心をくじく。
「ワケわからん事言うな! しっかりしやがれアホガエル!」
身を乗り出して叫んだ直後、残骸の陰に隠れていた部分が目に飛び込んできて、愕然とする。
センのへそから下の部分は、とっくに存在しなかったのだ。
「……ああ、生えてるよ羽根。こりゃ立派なもんだ」
こうなっては神力が万全であったところで、助けられない。
「よかった……。うれ、し……。わたし、ホントはカエルじゃなくて、鳥になりたか」
センの両目から光が消えた。ひどく幸せそうな、まどろみの表情だった。
※ ※ ※
「それでさあ? レベル2のそのザコが鳴くわけ。『おっとお~、おっかあ~』って! 時代劇かよ~!」
「笑うわ~。スタッフの遊びかな? 死ぬ前に親呼ぶとか悪趣味。ア・バオアクーの少年兵じゃないんだから」
「何ですか、それ」
「実年齢バレますぞー」
森にほど近い地点に位置する、ぽつんと寂しく焼け残った畑のそばに陣取り、襲撃者達は賑やかな談笑を繰り広げていた。
全焼した村の中にいたというのに、衣装には焦げあとさえついていない。炎で燃えずとも、一酸化炭素中毒は免れないはずが、いたって元気そうだ。
「まーとにかくお前らにも見せたかったよね、あのザコさー」
「あいつはそんな名前じゃねえ」
クエビコがゆっくり歩いてくると、集団は各自武装を構えて色めき立つ。だがすぐに片方だけ白目をむいて何かを確認するや、
「ははっ、何だよこいつ神? 一応エリアボスだけどパラメータ紙じゃん」
「攻撃力5か、ゴミですね~。ただのカカシですな」
口々に言って呆れ顔を作るか、失笑を漏らす。
言葉の意味は理解できずとも、嘲りの意思が十分すぎるほど伝わってくる。もっとも今のクエビコに、安っぽい挑発など通用するはずもない。
「あいつは友達だったんだ。カラスの次に、大切な」
うなだれていた顔を上げ、憎悪に燃え立つ眼差しを、ただ煌々と輝かす。
ざわり
周囲の大気がざわめいた。
「よ~し、もうひと仕事頼むよみんな! いっけぇ~!」
頭目らしき青塗りの甲冑の武者が号令をかけ、先陣を切る。集団が後に続いて一斉に動き出す。兵士の波が、怒涛の勢いでカカシの神に押し寄せる。
そして、怒涛の勢いで転んだ。
「うわあああ
「えええええ
「うおおおお
「なんだああああっ!?」」」」
重複する驚嘆の悲鳴。
全員の足をすくったのは、地面に生えた雑草。正確な原因は、兵士達一人一人の足元にいつの間にか用意されていた、固く結ばれた草による古典的なトラップだ。さらに驚いた事には、一瞬前まで不毛な焼け野原であったはずの地面が土の色を取り戻し、生い茂る緑で埋め尽くされているではないか。
「確かにおれはカカシだよ。そんなに大した神じゃねえ」
田畑のあらゆる恵みを操るクエビコの神力は、既に枯渇しているはずだった。
だが例外として、信仰ゼロの状態でも、神がその力を無制限に振るう方法が一つだけある。
人の子はそれを古来より、『タタリ』と呼んで怖れた。
領域を脅かす者への憎悪が臨界点に到達した時という、特定の条件下でのみ発動する禁じ手を、カカシの神は生まれて初めて行使したのだ。
「民を守る事もできなきゃ、娘ッコひとり救えねー。情けねえったらありゃしねえ」
異常発達したツル状植物が地面を突き破って伸び、そそり立ち、荒々しいうねりをあげる。キュウリがヘチマがサトイモが、カボチャがアズキがヒョウタンが、スイカがナスがインゲンが、幾重にも束なって、巨大かつ無数の首を有する蛇の怪物を作り出す。神話の時代の災厄が、今ここに具現した。
「だけどそれでも神様だ。……出来るんだぜ?」
緑の怪物は一瞬のうちに、全ての兵士の首と手足を縛り上げ、万力を持ってへし折ってゆく。
ごきごき、ぱきぱき、ぽきぽきと。
「手前ら全員くびり殺してやる事くらいはなっっ!」
クエビコは血涙を流し、悪鬼の形相で叫んだ。
※ ※ ※
全てが終わり、賊の集団が光となって消滅した後。
精魂尽き果てた神は、植物が枯れ果てて廃墟に立ち戻った場所に、ガクリと膝をつく。思い出したかのように、疲労感が全身を蝕んで、震えが走る。
「が、うゥオェッ」
腹を押さえて苦悶に呻き、反吐のごときものを地にぶちまける。どす赤い流動体であった。同時に、顔面に黒い血管にも似た紋様が浮かぶ。
我が身に何が起きているのか、クエビコは即座に理解した。
これがタタリの代償だ。
一度でも禁じ手を用いた神は、禍ツ神へと堕ちる。
理性を失い、世の生ある者すべてを呪い、不幸を撒き散らす邪の存在に。
(そうか堕ちるのかおれは。もうどうでもいいや、『やんぬるかな』ってヤツだ。どうせなんもかも、なくなったんだ)
定めを受け入れる彼の背後に、立つ者がいた。
「ねえ……キミ」
巫女装束の少女である。
「泣いて……るの?」
おしえる気ある? オモイカネちゃん☆
オモイカネ「アーン?(゜Д゜#)
挑発的なタイトルデスネ! ヤリマスヨ! ヤッテヤルデス!
エー、今回ハ、クエビコ様が穏ヤカジャナイ心をモッテ激シイ怒リニ目覚めマシタネ。タタリは神力を故意に暴走サセル神ノ最終兵器デスガ、コレヲ一度でもヤッテシマウト禍ツ神にナッテシマイマス。怖イデスネ。もの〇け〇のタタリ〇ミみたいなモンデスネ。生キロ、ソナタは美シイ……
ハン? コンナノ本編デモ聞イタッテ? 手抜キ?
ソ、ソンナノ知りマセーン(´□`; 三 ;´□`)
サテ次回ハいよいよ、私のパクり疑惑の抜けないヒロインとクエビコ様が絡ミマス。チョットデモあの娘が調子に乗ロウものナラ容赦しマセーン。ヒロインは私ナンダカラ、勘違イシナイデヨネ!
ソレデハまた宜しクお願いシマース」