其ノ六~タニグク~
愛のメモリー、プレイバック。
神様だって夢を見る。
あ、寝る時に見るやつの事じゃぞ。
※ ※ ※
ある年の秋の事。
かつてはどこの人里でもそうだったように、この時期のタニグク村では収穫の後、次の豊作を願うささやかな祭りが開かれる。
もっとも、やぐらを組んで天に呼び掛けたりする必要はない。感謝を捧げるべき神は手の届く位置におり、しかもその場を動けぬのだから。
夜、野外にて繰り広げられる宴の様を、クエビコは実につまらなそうに眺めていた。二千年以上に渡って彼を束縛し続ける十字架の下には、妖怪達が持ち寄った心ばかりの捧げ物が大量に積み重なっているものの、ネズミを干したものとかミミズを煮付けたものとかが過半数に及ぶので、ちっとも胸が満たされぬ。
本来なら収穫物を供えるのが『ならわし』だが、この秋はあんまり豊作とは言えなかったのだ。
おまけに向こうじゃ、飲めや歌えや食えや吐けやのドンチャン騒ぎ。混ざりたくてもカカシの身では叶わず。
これじゃ面白くないわけである。
一柱ぼっちで敬意の欠片もない扱いにぶすくれていたら、
『はぁい、クエビコ様ぁ♡ これあげるべさ~』
名を『モミ』というタニグクの娘が無邪気な笑顔で接近し、手作りらしき花冠を彼の頭にひょいと乗っける。
『きゃあ~カワイイ。思った通り似合うべな~』
『はあ? ざけんな外せバカ。おれは男神だぞ? こんなもん捧げられたって嬉しいわけないだろうが!』
真っ赤になって振り落とそうとジタバタするも、無理。
モミはというと顎に手を添え、とぼけた様子でまばたきをする。
『あれぇ? クエビコ様って男の子だったべか? カカシの方の性別って、どこで見分けるんですかぁ?』
ちゃ~んとついてるわい! なんなら見せてやろうかという声が出かかり、慌てて飲み込む。
『でもやっぱその方がカワイイからあーげるっ』
村一番の器量良しの彼女は、ちょっぴり(いやかなり)抜けてるところはあれど純朴で可愛いと評判が良く、男衆からの求愛率も年間ランキングトップ。そんな美少女からプレゼントされた上に微笑みかけられては、さしもの硬派なカカシ(自称)とて、反論できなくなってしまう。
加えて、出るとこが出てるときている。どこがとは言わないが。
間近で揺れる立派な胸につい目が行き、クエビコが硬直していると、すっかり出来上がった赤ら顔の父親がやってくる。
『オイおやじ、言っちゃ悪いがお前の娘はだいぶ頭が軽いようだぞ。ちゃんと男女のあれそれくらい教育しとけ!』
『ハハ~、これは一本とられましたな。クエビコ様もどうです? いっこん』
『うるせ! 聞いてねーのはよくわかったよこの酔いどれが! だいたいおれは下戸だって何度言わせる。どっちかってーとおまえらの方がゲコゲコのくせに何だこの不平等は! 創った神の顔が見てみてーよまったくぅっ!』
天に唾吐く発言とは、まさにこの事。
『ろくなお供えもできじゅ、すいませぬなあ。花冠は娘のせめてもろ気持ちですじゃわい。どうじょ受け取ってくらされい』
ろれつの回らない声でペコペコされても、逆に腹が立つクエビコである。
『あのな! この際言わせてもらうけどよ、おまえらは神を敬う心ってもんがまったく欠けてるな! 愚鈍なカエルごときを民に選んじまった痛恨の判断ミスを今さら呪うよ! そもそもおまえら妖怪なんてのは信仰を集めるための家畜でしかねーんだから調子に乗んな! そこを理解し……あっ!?』
『へ、へえ……仰る通りでございますじゃ、クエビコ様』
ハゲ頭がしゅんと垂れ下がるのを見て、言い方が厳しくなった事を後悔するが、後の祭り。彼が気まずさから目をそらすと、親父はこう続ける。
『ですが信じてくだされい。あなた様へのわしらの畏と、そして感謝は本物です。村の実りを守ってくださり、わしらに豊かな暮らしを与えてくださる。そんな神様はあなた様の他におりませんよ。普通のカエルのままでいたのでは得られなかったものを、あなた様はくだすったんだ』
再び首を差し向けると、カエル親父の大きな口がにんまりと笑っていた。
『ほんに有難うございます。酒の味を知ったのもあなた様のお陰だし』
『いい……もういいから、わかったから、よせ』
神にとって妖怪どもなど搾取の対象に過ぎないのは事実だし、今の言葉とて、もとの畜生に落とされたくない一心での胡麻すりに決まっているのだ。相手は奴隷、情を移すべきではない。そう己に言い聞かせながら頬を染めているうち、クエビコは気付く。
親父の笑顔の質が、ゲスっぽいものへと変わった事に。
『巨乳の素晴らしさってもんを教えてくだすったのも~、あなた様ですじゃ。ひひ~』
いかがわしい視線は、いつの間にか集団に混ざって躍り跳ねていたモミの笑顔……ではなく、ばるんばるん揺れる神乳様に釘付けだ。
『ズコー!』
何か大切なものを失った気分になりながら、ずっこける事もできないクエビコは、とりあえず口だけでもお約束のリアクションをとっておく。
(へ、おれの民は本当に罰当たりどもばっかりだ。いつか仕置きをくれてやる)
※ ※ ※
目を覚ますなりクエビコは弾かれるように飛び起きる。喉にまとわりつく汗の玉を右手で拭い、目を見開く。
切断されたはずの腕が、健在だ。
それだけではない。腹に空いていた穴も塞がっている。
五体満足であるのにどこか違和感がして傍らを向くと、既に体の一部とも言えた、呪いの杭が転がっていた。
カカシの役目を課せられた時、アマテラスに教わった事を思い出す。
彼女の神力により作られた縄は、縛る対象が意識を失うか死ぬかすると、自動的に朽ち果てる仕組みだという。
思えば彼は二千年以上もの間、ずっと寝る事も気絶する事も許されず、立ちっぱなしだった。そして晴れて自由の身となったのだ、喜びなど一切なかったが。
体が治ったのも最高神の思し召しか。だが今は、その謎さえどうでも良い。
「ゆ、夢じゃなかった! おれは……っ! おれは呑気に寝てたってのかよクソッタレぃ! あいつらは、タニグクどもは……?」
ふらつく足取りで丘の斜面に立ち、変わり果てた村を見下ろす。
既に炎は全て燃えつき、真っ黒な墨だらけの廃墟が残るのみだった。
おしえなくてもいいよ! オモイカネちゃん☆
オモイカネ「チョットーΣ( ̄ロ ̄lll)
何デスカー、モウ諦メタトイウノデスカー!? セッカク素敵な展開予想メッセージを送ッテクダスッタ方も現レタノデスよっ? アマノクニはまだコレカラデース! 強いてイウナラ本編での私の出番ヲもっと増ヤセバ人気ウナギノボリも確定ナンデス。ナゼソレヲシナイ!」
タギリヒメ「頑張れ頑張れどうしてそこでヘゴるんだ諦めんなよーっ! うおおおおっしっ!」
オモイカネ「というワケで当コーナー、テコ入れの意味モ込メテげすとヲ呼ンデミマシタよ。
早速質問デスガ」
タギリヒメ「おおーっす! よろしくお願いいたしまするーっ! 当方、全骨全霊全マッシブをもって張り切っちゃいますれば~!」
オモイカネ「ウルサイ……コウイウたいぷ苦手デス。エート、貴方ハ確か、スサノオ様が産んだ少女神デシタッケ」
タギリヒメ「はいぃっ! 正確にはスサノオ様のお持ちになった剣をアマテラス様がガリガリかじって産まれたのでございまするよおーっ! アマテラス様は最高神だから歯も丈夫! 人間の皆さんもしっかり歯みがきしましょうねえーっ!
全力歯ぎしりレッツゴー!」
オモイカネ(ウゼー(´Α`))
タギリヒメ「ちなみに当方の名前の意味は呼んでそのまま、流れる滝のような勢いで魂が『たぎる』~っ! って意味なんですっ! んー大好きな言葉! 皆さんも命の潮を迸らせて日々を激しく生きましょうねえ! どんな困難にぶつかっても負けない力を、誰もが持っているはずなのですからーっ!」
オモイカネ「聞イテモネーノニぺらぺら喋クル口デスネ。モー帰ッテイイデスヨ」
タギリヒメ「そんなー! まだ全然たぎってないのにー! これからですよこれから! 当方は負けません、何度でも立ち上がってみせまするぞ! ねーオモイカネちゃーん!」
オモイカネ「アー、暑苦シーカラくっつかナイデクダサーイ(////)
タギリヒメ「あやっ!? オモイカネちゃんお顔が真っ赤ですよ? たぎりすぎてオーバーヒートしましたか? そんな時はこのタギリ自家製の、『生命の滝の水』をどうぞ!」
ごくごく
オモイカネ「ぷはー、オイシカッタ。若干ぬるいノモマタ、体を過度に冷ヤシ過ギナクテいいデスネ」
タギリヒメ「えへへ! 愛するオモイカネちゃんの事を思って丹精込めた甲斐があったでございまする!」
オモイカネ「サテ、ソレデハ次回モ」
タギリヒメ「たぎっていきまっしょい!」