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アマノクニ  作者: 山田遼太郎
壱ノ巻~神は此処にいまし~
5/54

其ノ五~カクセイ~

神風、吹く。



「うわ、退くから待って」


「ザコカカシの巻き添えでフレンドリーファイアとか草も生えんわ」


 侍少年と薙刀女は、慌ててクエビコから距離を取る。

 狐耳の弓兵が弦を弾き、とき放たれた最後の矢はまっすぐに、満身創痍の神に向かって滑空してゆく。


 刹那、疾風が吹き抜けた。


 十五メートルもの距離を瞬時に縮め、矢の先回りをして、クエビコの前に躍り出た者がいる。

 少女だ。

 気絶していたはずの正体不明の巫女は、迫る必殺の一撃に物怖じする事もなく、瞼を開ける。

 瞳の色は、まさに今日この日の晴天を水面に落としたかのごとき、透けんばかりの蒼だった。


「『かがみ』、起動」


 梅の花弁かべんを思わせる薄い唇が、低くひそめた言葉を紡ぐ。

 正面の虚空に、あり得るはずのない鳴動が響く。

 目映い光が瞬くと、現れたのは巨大な銀の障壁。

 正確には透明な帯のようなものが、巫女とクエビコを取り囲んだのだ。

 矢は、輝く帯に先端を『やんわり』受け止められたかと思うと、途端に進行方向を曲げる。結果的に射抜いたものは、避難の最中だった侍の後頭部。


「ふえっ」


 味方の矢によって額を突き破られている事を知ってか知らずか、少年は間抜けな声を発して地面に倒れ伏す。

 そして、全身が音もなく消滅した。

 眼前で起きた不可思議にクエビコは驚きを隠せぬが……今はそれより、巫女の行動の方が理解できない。


「ちょっとアンタ何してくれてんの!」


 薙刀女が遅れて気付き、怯えの混じった叫びを上げる。


とかまぢ胸糞なんですけどぉーっ!?」


 乱入者への怒りをむき出しに、震える両手で得物を構え、突進をかけた。

 対する巫女は相手の顔を見ようともせぬ。

 代わりに、光の帯がうごめき立つ。それは、全身の体重を乗せたであろう刺突を難なく遮断したばかりか、再び怪現象を引き起こす。

 薄っぺらな帯の内側に、薙刀が、ずぶずぶと吸い込まれてゆくではないか。

 貫通した、という意味ではない。突き出した柄の中程までが、どこか見えない空間に消え去ってしまったのだ。

 そして次の瞬間、帯に沈み込んでいる部分の横から、失われたはずの切っ先が飛び出す。まるで、鏡の反射を利用したトリック映像のごとしである。

 薙刀女はわけもわからず、自らの武器に胸を抉られ、力なくうなだれる。その体が侍と同じく雲散霧消した後、


「最悪……こいつイカれてるぅ!」


 残った狐耳の弓兵は、得物を捨てて身を翻す。


「運営さぁーん助けてぇーっ! ここにPKいますよぉーっ!」


 錯乱して喚きたてながら逃げる背中を、巫女が追う。


「『つるぎ』、起動」


 彼女がまた呟くと、展開していた光の帯は収束し、瞬く間に形を変えた。

 それは言葉通りの諸刃もろはの剣……

 だったのだが、幅・長さ共に、常軌を逸している。半透明の刀身はゆうに五メートルを越すに違いなく、雄々しく天を突く巨木のごとき威容である。対して柄の部分は、少女の手に軽くおさまりきるほどに小振りなもので、アンバランスこの上ない。実在するなら武器として扱う以前の問題であろう。

 その剣とも呼べぬ塊を、巫女は片手で振り抜いた。

 先端が僅かに『かすった』だけにもかかわらず、弓兵の右足首は『吹き飛んだ』。


「いぎゃあァっ!」


 斬れたのではない。飛び散ったのだ。


「あひいいぃいだいっ! いだいよおぉぉっ! うそウソうそウソ、嘘だよこんなの、なんでえぇぇえええ!」


 田んぼの泥の中を転げ回る狐耳の絶叫に、もはや茫然と立ち尽くす他にないクエビコは、眉をひそめた。生き物が肉体を損失して痛いのは当たり前。それをさも信じられないといった様子で叫ぶ事に、違和感を覚えたからだ。

 注意して眺めると、奴の断面からは血が一滴も出ておらず、露出するはずの肉も骨もない。薄ぼんやりと発光し、火花を散らしているように見える。


(人とも神とも違う……いやその前に、生き物なのか?)


 途方に暮れると同時、その理解不能な存在を今まさに追い詰めている者への戦慄が、彼の心を支配した。


「だずげで、お願いじばすっ!」


 芋虫のごとく這いつくばって、しゃくり上げて情けを乞う相手に、巫女は一貫した無表情のまま『つるぎ』を振り上げる。


「むり、むりぃ……そんなっ、おっきいの」


 涙声を虚空に残し、弓兵は叩き潰された。

 極太の凶器が無数の粒子と化し、風に吹かれて運び去られた直後……巫女が振り向く。空色の瞳は、紛れもなく、カカシの神の姿を映しこんでいた。


「お次は、おれの番ってか……。畜生、やる事が山ほどあるってのによう」


 クエビコはもう立つ事もままならず、体をグラリと傾けてボロボロの杭に寄りかかる。視界が霞み、意識が揺らぎ、大切な力が枯渇するのを感じた。

 神だって生物だ。斬られればちゃんと死にもする。


「むら……あいつら……まもん、な、きゃ」


 ぼそぼそと繰り返すうちに、巫女が彼の前に立つ。

 その額に掌を宛がうと、彼女は静かに口を動かす。


「『まがたま』、起動」


 クエビコの世界は、そこで暗転した。

おしえて! オモイカネちゃん☆


オモイカネ「キャー(棒)、着替エ中ニ入ッテクルナンテH・スコッチ・フルスクラッチ、デース。エ? オ前ノつるぺたボディナンカ見テモ別ニ楽シクナイッテ?


『屋上ヘ、行コウゼ……久シブリニ……キレチマッタヨ……』


サテ、ソンナ事ヨリ今回ハ、文字通リのヒロイン覚醒回デシタネ。デモ残念、真のヒロインハワターシデスカラ。しんダケニ。

ダイタイ無表情トカワターシのパクリデスカラ。認メマセン。ナンカ、いかにもチートっぽい能力持ッテルシ、絶許デスシオ寿司。


『つるぎ』……何デモ斬ル

『かがみ』……何デモ跳ネ返ス

『まがたま』……何デシタッケ?


ドレモ限られた時間内シカ使エナイ、使ッタ後ハ壊レルトイウ制限ガアルヨウデス。マーお約束デスネ(*`・ω・)ゞ


ソレデハマタお会いシマショウ。サヨナラ……」

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