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アマノクニ  作者: 山田遼太郎
伍ノ巻~ルールを守って楽しく戦争~
43/54

其ノ三~JUST COMMUNICATION~

ウンシュウ戦役、勃発。



 時は一昨日いっさくじつまで遡る。クエビコ達がオオゲツの館にて歓迎を受けていたのと同じ頃だ。

 場所は移って、ウンシュウ山脈の一角・テナガざん


「お師匠ししょー、てーへんだ!」


 山頂付近の岩肌にぽっかりと口を空ける洞窟の中、幼い風貌の少年が、悲鳴に近い声を上げた。

 名を『マヒトツ』という。

 漢字をあてれば目一箇まひとつ、すなわち『片目』の意である。

 名は体を表すという事か、派手な目玉模様入りの眼帯で、顔面の左半分を覆い隠している。


「聞いてる? ってか起きてます? いくさ(・・・)ですだよ! 逃げなきゃ巻き添えくっちまう!」


 わざと大きめに仕立てたような半纏はんてんの袖を振り、呼び掛ける先には、中年男が肘をついて寝転んでいた。

 彼こそは『カナヤマヒコ』。

 高天ヶ原に並ぶ者無しと称される伝説の刀匠……のはずだが、身なりの方は立派な肩書きにそぐわず、あまりにも貧相すぎる。

 伸び放題のモジャモジャ髪や無精ヒゲ、骨と皮ばかりに痩せさらばえた体のせいで、ともすれば老人に見えてしまうほどだ。

 着物には点々とシミが浮かんで、小汚ないまだら模様を描く。帯など結んでいないので懐は開き、あばらの浮いた胸板があらわとなっている。襟下からは『ふんどし』がだらしなくはみ出し、枯れ木じみて頼りない足が覗く。


「あ゛~……ぼくママがいないと歯みがき出来ないよ」


 寝ぼけているのか起きているのか判然としない、亡者のごとき虚ろな眼差しで、意味不明のうめきを垂れる。


「もー、酒が切れるとすぐこうなんだから」


 専属の小姓(けん)弟子である少年はついに見かねて、足元に転がっていたくろがねの棒を拾い、師匠の頭を叩く。

 それは杖にも見えるが、先端がクチバシみたく歪曲した形状をしており、どうやら柄の長い金槌かなづちらしい。


「い~た~い~……」


「ほら、とっとと行くですだよ! こっちこっち!」


 間延びした調子でぼやくカナヤマヒコに対し、マヒトツはなりふりかまわず、首根っこを掴んで引っ張ってゆく。

 どちらが子供か、わかったものではない。


 両者が洞窟の外へ出た時、事態・・はとうに始まっていた。


 山頂から遠く望めるアシナガ村に不気味な影を落とすのは、蠢く暗雲。

 唐突な稲光と共に、雲の中から現れたものがある。

 群を成して空を進む、巨大な『鋼鉄の船』だ。

 アマテラスを最高指令官に置く『天帝軍てんていぐん』が誇る、飛行軍艦・天鳥船アマノトリフネの大編隊である。

 それらは、そそりたつ艦橋ブリッジを持つものの、地上世界に存在するどの戦艦とも似ていない。円筒状の奇妙な船体に鳥の翼らしきものがいくつも生えていたり、黄金色に輝く陶器みたいな装甲で固められていたりと、独特要素が多すぎて判別不可能なのだ。


「うへ、来ちゃったよォ」


 マヒトツの童顔は、たちまちくしゃくしゃに歪む。


 船体の側面に並ぶ円形の台座が回転し、そこから伸びた『砲』が、真下に照準を合わせる。

 一斉に放たれたのは、幾筋いくすじものいかづち

 見る者の目を潰さんばかりの閃光がうねり、駆け抜け、地に突き立った。

 村のいたるところで圧倒的な熱量が炸裂し、赤黒い火柱が立ちのぼり、爆風が逆巻いて木々と家々を薙ぎ飛ばす。


「ふええ、かみなりィ……怖いよママァ……」


 遥かな距離をものともせず轟音が届いたので、カナヤマヒコは頭を抱えて震え、べそ(・・)をかく。


「まだ間に合うっつーか、さすがにここまでは目標に入ってないだろ。たぶんそうだ絶対そうだ」


 マヒトツは自分にそう言い聞かせ、畏怖を禁じ得ぬ破壊の光景に背を向ける。

 良い年したデカい子供を力いっぱい引きずって、洞窟の脇に伸びる、ふもとへと続く獣道をくだり始めた。


(あれは、領土奪還なんてもんじゃない。乗っ取られた村ごと、人間どもを根絶やしになさるおつもりだ)


 脳裏では、なに食わぬ顔で攻撃命令を出すミカドの姿を想像し、肌寒いものを感じる。


 戦争は本来、政治の一端でしかない。

 兵器による蹂躙も、何らかの要求を先方に飲ませるための単なる手段。

 したがって、完全な殺戮などしてしまっては次の段階が踏めなくなり、そもそもの意味がない。

 それ以前に今、民である妖怪達までいっしょくたに焼き払っているではないか。

 反乱による国家転覆を招きかねない、大罪だ。

 だが、あらゆる生命を司る最高神アマテラスにとっては、発想の根本からして捉え方が違うらしい。

 壊れたら再生なおせばいいし、反目するなら矯正・・して従わせればいい。ただ、それだけなのだから。


(後始末もその先も、本気でなんでも思い通りに出来るとお考えなんだ。怖いとか以前に、ひたすらタチの悪いお方だ)


 イヤな思考を振り払い、小さな神は先を急いだ。


 ※    ※    ※


「きゃは! 強襲成功、ド田舎村に大打撃だし~!」


 船団旗艦(きかん)の艦橋内にて、はしゃぎ声を上げたのは、一柱の女神。

 彼女の座席は、空間中央に設けられた、小高い台座の上にある。

 正面の壁一面には、モニターの役割を果たす巨大な鏡が張りついていた。

 それによって外の景色を眺める女神は、無邪気に華やぐ眼差しで不謹慎な台詞を言い放つ。


バイブスぶちアゲ(テンション上がる)。やっぱ一度は焼きたくなるっしょ、ふるさと(・・・・)♡」


 外見年齢は、十五~六というところだろうか。

 やや太めの、三日月みたいな形の眉は、今は亡きアシナヅチと瓜二つだ。

 あどけなさを多分に残すまんまるい瞳と、左右で結った天然パーマの金髪には、テナヅチの面影が濃い。 

 それも当然といえば当然である。

 彼女はあの夫婦の八番目の娘であり、ヤマタオロチ伝説のヒロインとして名高き『クシナダヒメ』なのだから。


 頭のかんざしには宝石がめ込まれ、表面の複雑な切り込みによって七色の煌めきを放つ。

 身に纏う羽織は稲穂いなほ柄の刺繍ししゅうで彩られ、若い芽の香りが漂ってくるかのよう。

 装いはいかにも豪奢そのものだが、持ち主の子供っぽい部分がいかんせん目立ち、どこか無理矢理飾り立てたというふうな、不釣り合いな印象が拭えない。


『敵残存兵力は、座標「と」の四、「ぬ」の十一、「を」の十六に集結中』


 艦の中枢部に宿る神工知能の声が、天井から鳴り響く。

 アマノトリフネは自我を持ち、操舵や火器管制といった各重要機能が自動化されているがゆえ、乗組員を最小限まで削減できるのが特徴だ。この旗艦にしても、艦長の他には、手動の制御盤コンソールを操作するオペレーターがちらほら見受けられるのみ。


「よっし、全艦に通達だし! 空挺(くうてい)部隊、出撃おなしゃーすっ!」


 指先で弄んでいた扇子を開き、クシナダは元気よく指示を飛ばす。

 近辺の地の利に詳しいという事で、急きょ言い渡された作戦指揮の任を、この女神は嬉々として(・・・・・)引き受けている。

 真意のほどは定かではない。

 なぜ躊躇いもなく、むしろ喜び勇んで、両親の愛した土地を焼き払えるのか。


御意ぎょい各々方(おのおのがた)、準備はよろしいか』


 アマノトリフネが通信回線をつなぐ。すると、


『何でもイイからとっとと降ろせや! 暴れさせろォ!』


『了解。これより全力をもって敵陣を制圧……いや、殲滅せんめつしてご覧に入れる』


 粗野な唸りと冷静な宣言が、順番に聞こえてきた。


 ※    ※    ※


 勢いを増す業火に呑まれ、前日までの繁栄ぶりが夢物語のように破壊しつくされたアシナガ村。

 その各所で、わらわらと蠢く人影が一つ、二つ。

 崩れ落ちた民家の屋根やら、炭化したミヅチ族(ヘビ妖怪)の焼死体やらを押し退け、人間の冒険者(プレイヤー)達は次々と身を起こす。


「いきなりマップ兵器とか鬼畜かよ!」


「ひでぇ初見殺しを見た。んん、許せんですぞ」


 憎々しげにぼやきながらも、のほほんとした態度は崩れない。

 この世界での戦いに対して、手の込んだアトラクション程度の認識しか抱いていないのだろう。


「誰かあの船、撃ち落とせよ」


「無茶ゆーな、届かねーよ!」


 彼らが半笑いで会話していると、遥か上空に並ぶ浮舟のうち、前列の二隻が船底部のハッチを開く。

 そこから一斉に飛び降り、曇天を埋め尽くさんばかりの勢いで散らばってゆくものは、黒い鳥の群。

 いや、よくよく目を凝らして見れば、鳥ではない。

 それらは乙女の外見を持ち、具足ぐそくにも似た鎧で武装しているではないか。

 闇色の翼を背負い、力強く羽ばたく威容は、さながら堕天使の軍勢。ヤタガラスの化身たる妖怪達によって構成された、降下猟兵(こうかりょうへい)部隊の勇姿だ。

 どこか神々しい光景を呆然と見上げる人間陣営の中で、ある若者が、舞い降りてくる妖怪少女の美貌に息をのみ、


「お、結構カワイ……」


 などと溢しかけた直後、強烈な衝撃によって膝をつく。

 ヤタガラス部隊に混じって恐ろしい速度で降下してきた何者かが、埒外らちがいに柄の長い凶器を振りかぶると、若者の右肩口めがけて着地と同時に叩き付けたのだ。

 凶器の刀身は、やけに複雑な構造だった。

 まず、丸みを帯びた分厚い金属板の輪郭沿いに、のこぎりの歯かケダモノの牙じみた刃が無数にまとわりついている。

 柄の一部にある引き金を、持ち主が指で弾けば、刀身は唸りを上げて激しく振動し始める。帯状に繋がった細かな刃が、金属板の上を滑って移動し、回転しつつ、若者の肉体を肩口から脇腹にかけて真っ二つに裂く!

 そう、その武器は、形状に微妙な差違こそあれど、地上における『チェーンソー』という作業機械にそっくりだった。


「ちっ」


 使い手であるお団子頭(・・・・)の女神は、光の霧と化して消えてゆく死骸を見つめ、不満そうに舌打ちをする。


「オイオイつまんねえーなあオイ、血も出ねえのかよう」


 彼女の名は『ネサク』。

 階級は少佐。天帝軍・独立第二空挺大隊の指揮官にして『飛来する牙』の異名を持つ、生粋の戦闘狂である。

やっちゃおうよ! オモイカネちゃん★


夜、オモイカネのマンションの一室にて


ツクヨミ

「うっ……お、オモイカネくん……僕、もう……」


オモイカネ

「あっあっ、ダメです! 出すなら外で……」


リバース(キラキラキラ~)


オモイカネ

「ギャース!

 げっげげっ、げっげっ、げっげ、げろげろ♡

大・惨・事♪」


床掃除フキフキ


ツクヨミ

「ごめん、ホンットごめん。酔っぱらって上がり込んだ挙げ句、とんだご迷惑を……。嫌われちゃったよね」


オモイカネ

「何を仰るデス。ツクヨミ様のならヨロコンデふきふきさせていただきマスヨ。ま、これに懲りたら悪いお酒はやめときましょう。お体にも良くないし、飲むなら楽しくネ」


ツクヨミ

「ありがとう、その……きみって優しいんだね。恩に着る。今度なんかで絶対埋め合わせするよ」


オモイカネ

「ふふ、楽しみにシテマスよ?(あれ、これ結構グイッと食い込んだんジャネ? ツクヨミ様の心の中に、ワターシの存在……ひょっとしてこのままうまくいって付き合ったりなんか……うへへへへへ)


そろそろ夜もふけてまいりました


オモイカネ

「ツクヨミ様、そろそろお休みになった方がよろしいかと存じマース。ベッドはひとつしかないから、ワターシ床で寝ますね。オヤスミナサーイ」


ツクヨミ

「そんな、流石にダメだって! 泊めてもらってるんだし、僕が床で寝るよ! それに、女の子にそんな事させたんじゃ夢見が悪いしさ……」


オモイカネ

「キャッ、ジェントルメーン♡ それではお言葉に甘えて……」


ピタッ

オモイカネに電撃走る


ツクヨミ

「どしたの?」


オモイカネ

「いや、ちょっと考えたんデスが……。あのそのぉ、無理だったらいいんですけど……出来ればえーと、一緒に……(勇気出せワターシ!)」


ツクヨミ

「ああ、一緒に? いいね、そうしよう!」


オモイカネ

「ひゃわぁ!?(///)」

(そんな、まさかの笑顔のゴーサイン……。ドウシヨ、まだ心の準備が……♡ついに、ツクヨミ様に捧げてしまうのでしょうかワターシ♡ ああでもこんな勢いで一線越えちゃうなんて、嬉しいけどイケマセーン……♡)


その後、カネちゃんとヨミくんはふたり仲良く、床に敷いた(別々の)お布団で眠りについたそうな。


オモイカネ

(ハイハイ、ソウイウ事ネ……。ううぅ、なんかワターシばっかり意識しまくっているようで、とっても恥ずかしデース……(///))


※    ※    ※


ついったでも活動報告でもおしらせしましたが、作者の体調不良のため、前回からものすごい間の空いた更新となってしまい、大変長らくお待たせしてしまいました。読者の皆様、此度の失礼をお許しください。


しかもこの更新話、いきなり視点も場面も変わってヒーローもヒロインも出番なしという……


面目次第もございません。


それでも、今後も必死こいて執筆して参りますので、何卒よろしくお付き合いくださいませ……


それでは次回をお楽しみに!

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