表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマノクニ  作者: 山田遼太郎
壱ノ巻~神は此処にいまし~
4/54

其ノ四~ニンゲン~

神様だって斬られれば死ぬ。



 襲撃の二分前まで、時間は戻る。


「おいカエル、ちょっとあのムスメ見てこい。後で飴ちゃんやるから」


「嫌でやんすよ! だいたいそれ何千年モノっすか!」


 タニグクの里は、たとえ神でも単独での走破に手こずる険しい山脈に包囲され、さながら敵の侵入を拒む天然の城塞がごとしである。

 ならば、カカシ男とカエル娘が今まさに言い合っている田園地帯は、城門にあたるだろう。そこは村から続く丘を登った地点に位置し、唯一平たい道が伸びているからだ。故に、誰かが出るにも入るにも必ず通らねばならぬ。

 恵みの守り神たるクエビコは、二千年も昔からこの地の出入口に立ち続けていた。それこそ、タニグク達がまだ普通の両生類として、泥んこまみれでゲコゲコ鳴いていた頃から。ではその彼が、忍び寄る略奪者を察知できなかったのはなぜか? カラスもカラスで、どうして危機を報せなかったのか?


 そこんところの真相は、今はあえて置いておくとしよう。


「にしても兄貴、あれってホントに何でしょうかね? たったいま降臨した新神しんじんでやんしょか?」


「ばっか。おまえは妖怪だから知らんだろうが、神はあんな生まれ方しねえし、意識失った状態で空間転移したりもしねえよ。別の何かさ」


 カカシとカエルが見つめている、先ほど巨大な爆発と共に現れた少女は、田んぼに仰向けに寝そべったまま動かない。

 死んでいるのか? 否、胸が微かに上下しているのがわかる。

 十五メートルばかりの距離を挟んでも、クエビコの目には少女の姿が細部までハッキリと確認できた。

 顔形は若干幼さを残すものの、横にいるカエル娘より外見年齢は上の、象牙細工じみて整った麗しい容姿をしている。髪は短く、地上でいうショートボブに切り揃えられ、色は見る者の網膜に焼き付く濃紺。

 半ばまで泥に浸かった小柄な肢体を包むのは、どうやら巫女装束らしい。らしいというのは……襟元・脇腹・上腕などを隠すはずの各部の布が大幅に省かれていたり、裾の丈がいわゆる『みにすかあと』状に切り詰められて眩しい太ももが露になっていたりと、やたらいかがわしいデザインだからだ。


「多少根性がネジ曲がっちゃいるが、ありゃ神を崇拝する側の格好だ。だったら人……ってまさかな。人間がここに来れるわきゃねえ」


 自らの有り得ない想像を、クエビコは失笑で打ち消す。

 彼の頭に針で抉るような激痛が走ったのは、この直後の事。


「がっ、あ……! なん、だ……!?」


「どどっ、どうしたんすか兄貴ぃ! 大丈夫でやんすか?」


 カカシだというのに脂汗を滲ませて呻く男の袖を、カエル娘が掴む。


「わからん、だがこれは……おれへの信仰がどんどん消えてく……だと? 叫んで、泣いて、痛いって……苦しんでる、おれの……民が……」


 うわ言みたいな呟きが漏れた、その時である。

 丘の上から見渡せる村の風景が、なんの前触れもなく、真っ赤な明かりで照らし出された。紛れもない炎の色だ。


「えっ……!? むら、が……」


 カエル娘は愕然として、細い肩を震わせる。

 見下ろす視界の中で、故郷ふるさとが焼かれていた。響き渡る絶叫と悲鳴で、地面が揺れているようだ。逃げ惑う豆粒様の村人達が、追いすがる妙な装いの何者かにより、次々と斬り捨てられては折り重なって倒れゆく。

 何が起きたのかわからない。ただ、猛烈な不安を伴って彼女の脳裏によぎるのは、自身が勝負のネタとして面白おかしく語っていた『謎の賊』の噂。


「おっとお! おっかあ!」


 喉が裂けんばかりに最愛の家族を呼ぶと、カエル娘は青ざめた顔で跳躍した。ほとんど滑り落ちるくらいの勢いで、緩やかな斜面を駆け降りていく。


「ま、待て、危ねえ! それよりすぐにこの縄をほどいてくれ! 自分じゃ動けねえんだよ! 行くな、おいカエル! カエルーッ!」


 はりつけの神は必死にもがくも、小さな背中は既に遠く、願いは届かぬ。地面に深々と埋め込まれ、彼を縛り付ける十字架はびくともしない。


「くそくそ! こんなもんがなけりゃ! 外れろ、外れやがれよおぉっ!」


 自ら選んでカカシをしていたわけじゃない。

 押し付けられた役目なのだ、最高神・アマテラスによって。


「聞いてんだろコラ何やってんだ! 引きこもりのくそアマ野郎! 今すぐおれを解放しやがれ! 村がやべえんだよ! おれの民達がっ……!」


 空を仰いで呪いの叫びをぶちまけた、次の瞬間。


 ひゅん


 と風を引き裂いて飛んできた矢が、クエビコの腹に沈み込む。

 矢先は背中を容易く貫き、血を吐くほどに離れたがった十字架との関係性を、より一層強く結びつける。

 串刺しという形で。


「うごっ」


 激しく仰け反り、瞳を見開く。藁の肉体に痛みはないはずなのに、存在自体の基盤をかき乱されるような苦悶と、身の毛もよだつ不快感が襲い来る。


「うぇ~い、やった~ワンヒット~!」


 遥か前方に茂る背の高い木の陰から、肩当てと袴を纏い、長弓を構えた少女が飛び出す。頭に生えた狐の耳が、嬉しげにぴょこぴょこと跳ねている。


「前衛さ~ん、あとよろしくね~」


 そいつがおちゃらけた様子で手を振ると、


「あいよっ」


「任せろっ」


 クエビコの背後にて、二つの声が応じた。

 一瞬ののちに白刃が閃き、藁の右腕は添えつけられた丸太ごと切り落とされる。

 さらに、別の凶器が斜めに走り、杭の根元部分と足を縛っていた縄を同時に断ち切る。

 どうと倒れたクエビコは首を回して振り仰ぐ。日光を背にして彼を見下ろすは、二名の刺客。

 片や胴当てを身につけ、太刀を握る男。

 片やド派手な蝶柄の着物を羽織り、薙刀を携える女。


「てめーらか。てめーらが村を、襲ってんのか……っ」


 今や首と左腕と腰元だけで、中途半端に杭に固定されているクエビコは、生まれたての小鹿のごときおぼつかない足使いでもって、立ち上がる。

 大きくふらつきながら、緩慢に前へと進む。

 二千年ぶりに動く上、枷まで背負い、矢で射抜かれていては無理もない。


「絶対、許さね……。殺してやる祟ってやる……畜生めら!」


 がくがくと痙攣する右足を上げ、一番距離の近い侍に蹴りを放つ。それは相手の膝を捉えたが、

 悲しいかな、軽い! 弱い!

 なにせ藁と枝の足。加えて言うなら体重も勢いも乗っていない。綿で殴ったようなものである。

 全く攻撃になっていないばかりか、バランスを崩して転んでしまう始末。


「ええ~! 何こいつザコくね? これでエリアボスかよぉ?」


「ちょい待ち。んー……『カカシの神・クエビコ レベル42』……はい間違いないですねー。こんなん草生えるわ」


 膝を叩いて笑う侍と、だけ白目をむいて意味不明な事を呟いてから、耐えかねるように笑い出す薙刀女。


「ねー二人とも、そこに変なヒト倒れてるけど、どうする~?」


 狐耳の少女が、田んぼに倒れたままの巫女に気付く。


「知らねーよ、こいつにやられたんじゃね。カカシの神に……くっウケる」


「じゃあカワイソーな新人さんだね♪ そっとしとこー☆」


「や、やめときましょうよ……そんなん大草原不可避だわ。ふふふっ」


 兵士とは思えぬ場違いな明るさで、お喋りを楽しむ三人。クエビコは血走った目で彼らを睨み、満身創痍の身を押して杭を杖にし、再び立ち上がる。


「カカシを笑うんじゃねえ。誰のお陰で米が食えると……」


「ごめんにゃー、ボロ雑巾さん♡ 私ってばパン党なんだよね」


 狐耳は笑顔でカカシを罵倒して、弓を引き絞る。


「てなわけでー……死んじゃってどーぞー!」


 恐らくトドメとなるであろう、無情の一矢が放たれた。

おしえて! オモイカネちゃん☆


オモイカネ「マダ準備中デース。ズット準備ダケダッタラドウシヨウo(T△T=T△T)o

今回ハ主人公ヒーローピンチ略シテ、ヒロピンデシタネ。クエビコ様ハワターシト同ジ頭脳派ノハズナノニ、チョット切レヤスイヨウデス。乱暴ナ男性ハ好ミジャナイデスネ。大和男子タルモノ、イカナルトキモハートハ熱ク、頭脳ブレイン冷静クール二行キマセント……ビークール。クールニナレ……ソレデハ明日モ宜シク御願イシマスデース」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ